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紅蓮の艦隊 -the Great Battleship of Scarlet Fleet-  作者: OH‐
第一章:240年前の未来
3/14

第二話:《零》、覚醒

前回投稿から約二ヶ月、っていうか・・・二ヶ月以上・・・。

長かった、非常に長かった。


第二話を待っていてくださった方々、本当に申し訳ありませんでした。そして、気長に待っていてくださった皆様、本当にありがとうございます!


時間かけた割りに展開が急ぎ足になってるかもしれませんが、その辺は少しずつ加筆修正しながら調整します。

大日本共和国連邦政府設立一〇〇周年の年。その四月某日に、横須賀が何者かによって襲撃された。

その頃、横須賀司令部にて。

司令官が怒鳴っていた。

「何故これ程の敵性勢力がこんな内地に送り込まれたのだ!?

対空監視員は何をやっているっ!!」

「すみませんッ!!

ですが、先程まで電波探信儀(レーダー)には何の反応も・・・」

対空監視員の一人が怯える様に返事をしたその時、

「司令!!」

別の対空監視員が司令官を呼んだ。

「横須賀港第一超大型ドックにて入渠中の《信濃》より、艦載機が出撃した模様!」

「《信濃》から艦載機・・・まさか───!!」

その隊員が座る席に近づき、総司令官はそこにある画面を見やる。対空監視レーダーの反応を映すその画面には、一機の自軍機の反応と共に

『《ZERO-TOKM P.T.MODEL 03rd》

Pilot:Ryo Arimoto』

と標記されていた。

「やはり・・・あの欠陥機か!!」

「はい、その様であります!!」

「あの口悪娘、この期に及んで有用性を証明しようとでも言うのか?」

司令官は一人毒づく。

「・・・まぁいい、所詮欠陥機は欠陥機。

あんな危険な機体、撃墜されてしまえばいいのだ。

この戦いで無能を晒してしまうと良い」

軽くそう言った後、

「通信士、浜松飛行場に連絡を取れ!

迎撃隊を二班(ふたはん)で編成、横須賀に向かわせる様に伝えろ」

そう言うのに対し、通信士は「ハッ」と短く応える。

直後、一瞬ニヒルに笑った司令官は最後に一言こう追加した。

「あぁ、そうだ。

ついでにこう追伸しろ。

『送ってくるのは新兵の隊でも構わん』とな」


その頃、横須賀郊外の森林にて。

爆発が一時的に止んだその隙を見計らって、W-02───サーシャは機体を起こした。

「W-03・・・」

自機が抱き寄せる機体のパイロットW-03に問う。だが、返答がない。

「───W-03、大丈夫か!?

おい、イリヤ!!」

血相を変えながら安否を気遣うサーシャ。

すると、

『う、うぅ・・・ッ』

気を失っていたらしい、W-03───イリヤの呻き声が聞こえた。

『サー・・・シャ・・・?』

「無事だったか・・・!」

サーシャが改めて問い掛けると『なんとか・・・』と返ってきた。

返答に対しサーシャが安堵するのも束の間、イリヤが追加でこう返した。

『でも・・・駆動系、やられたみたい・・・。

機体が、動かないや・・・』

コクピットのメインモニターで、サーシャは《イリヤ機》の姿を確認する。右脚部の膝部、及び腰部からスパークが出ていた。

「・・・嘘だろ?」

口から漏れた。ついでに言うなら安堵していた表情も失せていた。その直後、

「ぐぅっ!!?」

唐突に来た背後からの衝撃を受け、呻いた。自分達への攻撃が再開された、と理解するのに造作も無かった。

撃ってきたのが対地用より威力が低い対空用ミサイルだったのだろうというのも幸いしたのだろうが、辛うじて背部装甲の一番マシなところに当たった為か直撃し体勢が幾分か崩れたものの機体が機能停止する程の深刻なダメージは入っていなかった。

故にサーシャはすぐに体勢を立て直して振り向くことができた。そして彼女は、迫り来るミサイルを睨みながら対物ナイフを引き抜く。

『サーシャ、貴女だけでも逃げて!』

「馬鹿言え!

仲間を捨てて逃げられるか!」

『でも、このままじゃ共倒れだよ!』

イリヤの叫びが虚しく響く中、「それでもォッ!」と言い張るサーシャは《イリヤ機》の盾となり、対物ナイフでミサイルを斬り伏せる。

真っ二つになったミサイルが周囲で爆発し、その爆風に煽られた機体の各部から過負荷、被弾を示すアラームが悲鳴の様に響く。

「くっ・・・機体損傷率上昇!!

このままでは、いつまで持つか───!!」

絶望しかない状況の中でも、希望にすがる───その時、

「───ッ?」

途端に攻撃が止んだかと思えば、敵機は別の方向に攻撃を始めていた。

「なんだ・・・急に、何のつもりだ・・・?」

その時、不意に『サーシャ、あれ・・・!』というイリヤの声が聞こえた。

攻撃する方向を見やり、空に点の様なものを確認すると、それにカーソルを合わせ映像を拡大した。

「なんだ・・・あの機体・・・?」

そこには、彼女が見たことのない航空機の姿があった。

その機体は、その機体の大きさにそぐわない程に長大な二門の砲身を左右の主翼基部に搭載しているという不格好な姿をしていた。

「戦闘機・・・にしては、やけに不格好な・・・」

レーダーを見やる。その機体の反応は、機体名、所属国籍の欄それぞれに《НЕИЗВЕСТНЫЙ(不明)》とだけ表示されている。

所属不明機(アンノウン)・・・いや・・・」

だが、メインモニターで映像を拡大して確認すると翼に日の丸のエンブレムが見えた。

「日本海軍・・・?」


若干だが時間は遡る。

戦艦《信濃》の後部飛行甲板上にあるカタパルトより《零式TOKM艦上戦闘機 試作型三号機》が飛び立った。

日本では《九六式噴進艦上戦闘機》という名で知られる米軍が開発した戦闘機《F-15》に良く似たシルエットだが、二門の可動式大型レールガンと機体下部に備わる変わった形状のユニットが特徴的な機体である。

機体が飛行している状態のまま、有本 僚はサブモニターを確認した。上下左右と中央にあるモニターのうち、中央にあるモニターが機体状態を示すらしい。

「フレーム、思ってたより安定している。

欠陥があったんじゃ・・・?」

そう思いながらも、索敵の為に辺りを見回すべく脇見をして、直後に思わず感嘆を上げてしまった。

「《信濃》って、あんなに大きかったんだ!」

横須賀港に停泊する何隻もの巨艦達。

その中でも《信濃》は一際巨体だった。

「え、あれは・・・《金剛》型が三隻もある!

あの一隻は改装していた《榛名》で、あの入渠中の赤い一隻は《摩耶》だろう。

もう一隻は・・・あれが、新造艦なのかな?」

下の様子に、無邪気な反応を示していた。

下の光景に見入っていたその時、不意にレーダーにアラートが鳴った。飛翔し始めて一分経ったか否か、漸く操作に慣れてきた時の会敵。

その一瞬で、彼の心持ちは切り替わる───が、

「───っ!!?」

それと同時に、目の前の光景に度肝を抜かれる。

「何でこんなに・・・!!?」

複数機───それも、軽く十機は超える量の敵戦闘機がいた。

そのうち五、六機程は、郊外の森林を攻撃していた。爆煙や土埃の影響で何に攻撃を加えているのかよくわからない。

「なんだ、あれ・・・?」

そう思っていたその時、敵戦闘機二機がミサイルを二発ずつ撃ってきた。

それらを綺麗に回避し、僚はその二機を照準に捉える。

「当たれっ!」

吠えながら引き金を引き、レールガンで対象に射撃した。

磁気によって高速射出された弾丸が敵機を穿つ。直撃した敵機が墜落していく。

「当たった!

えっ───うわっ!?」

だが直後に、後ろから来た別の機体による機銃斉射を受けた。

「───目の前以外にもまだ居るのか・・・でも、これでっ!!」

外傷こそほとんど受けなかった様だが、数発着弾した際の衝撃で機体が結構揺れる。

咄嗟にレールガンを後ろに向けて射撃し、 もう一機を撃墜したが、保てていたバランスが撃った反動で一気に崩れてしまった。

「うわっ!?」

逆噴射機構などあちこちの推進器を吹かしまくり、なんとか体勢は維持するものの、高度がかなり落ちてしまった。

「───ッ!!!」

そこで、僚は見てしまった。砂埃や爆煙で見えなくなっていた辺りの光景を。

二機の《T-34ソルダット》が五機の戦闘機に袋叩きにされていた。

「もしかして、あれ・・・───くッ!!!」

さながら、生きたままの鳥葬と表現できるその光景を目にし、僚は普段の温厚な性格が失せる程に激昂する。

「やめろぉ───────ッ!!」

吼えながらレールガンと、さらに機首付近に装備されていた小口径ガトリングを連射し突っ込んでいく。

一発一発が敵戦闘機を次から次へと撃墜していく。五機を撃墜し、残りが退散したところで、

「───あ・・・!!」

ようやく、飛んできた一発のミサイルがすぐそこまで来ているのに気がついた。


日本軍機が単機で戦うその光景を、二人は下から見ていた。

「あの機体のパイロット・・・まるで素人だな・・・」

助けに来た、とははなから思っていない───それどころか、不法侵入者として粛清しに来た、とさえ思っていた。

それ故の辛辣な発言だった。

「撃った反動で不時着、か・・・。

しかしあの砲、後ろを向けるのか・・・」

そう言いながら《イリヤ機》の右脚部を無理矢理に剥離(パージ)し、逃げる準備をし始めたその時、イリヤが驚愕の声をあげる。

『サーシャ、あの機体!!

あの体勢から立て直したよ!?』

その反応に対し、

「何、持ち直しただと!!?」

やはり驚愕するサーシャ。パイロットの技量に対し嘗めて掛かっていたが故の反応であった。

キレこそまだかなり荒削りだが、次から次へと戦闘機を撃墜していく機体。

その動きに対し、サーシャは何かしらの違和感を感じ始める。

機体の装備するレーダーがどれ程の精度かは不明だが、あの距離ともなれば視認していても可笑しくはないはず。だが彼の機体は全くこちらに対し攻撃はせず、寧ろこちらに側面背面を向ける様に立ち回っていた。

同じく感じていたのであろうその違和感を、イリヤが代弁した。

『あの機体・・・まさか、私達を庇っているの・・・?』

「・・・何故だ、日本軍のパイロット・・・!!」

だが、次の瞬間、

『「───あっ!」』

彼の機体に、前方から対空ミサイルが迫り、直後にその機体は爆風と黒煙に呑まれた。


ガトリングの弾幕によって運良くミサイルの迎撃に成功はしたものの、爆風をもろに受けてしまった《試作三号機》は、バランスを崩し落下していく。

撃墜と判断したのかもしれないが、《信濃》が副砲を用いた艦砲射撃を行って敵の気を引いてくれていることもあり、敵戦闘機達は追撃せず《信濃》の方へと向かっていった。

だが、機体が郊外の森林地帯の中に落ちていき、段々地面が近づいてくることには変わらない。

サブモニターにも、

『CAUTION(危険)!

WE CRASH-LANDED IN THIS STATE(機体が不時着します)!』

と出ていた。

(まずい、不時着する!)

地面まで、約十メートルを切った。

(《零》・・・応えろ───!)

念じた、その瞬間───機体の正面サブモニターに、

『TRANSFORM OF “SOLDIER FORM”

STANDBYED』

の表示が唐突に浮かび、その為のものとされる操作を促すアイコンが浮かび上がる。

表示の意味は分からなかったが、僚は咄嗟に操作をした。

その操作とは───《モードシフトレバー》という名称で表示されている、コクピット右上のレバーを引く、それだけ。

レバーを引いた。その瞬間、

「あ・・・」

引くな、と言われていたのを思い出した。

まずかったかと思ったが時既に遅し。

その瞬間、一秒にも満たないほんの一瞬だけシートに衝撃が走ると同時に、自分の体が浮く様な感覚を感じた。

「───うわっ、何!!?」

コクピットの上下に装甲板の様に張られていたハーネス状の器具が解除され、その分の視界が開けた。

ほぼ全方位を見渡せる《ドラムの内部》状のモニター。

そして、その画面の下側に脚の様な形状の機械が映っている。

「・・・これって───」

それが地面を擦り、

「わぁぁぁぁぁ──────────っ!」

凄い衝撃と共に機体が不時着した。


ミサイルが炸裂し、黒煙に巻かれながら戦闘機が落花していく様子を、サーシャとイリヤの二人は唖然としながら見ていた。

『撃墜・・・されちゃったの・・・!!?』

「・・・いや、直前で迎撃には間に合っていた。

至近距離で弾頭が炸裂して、バランスを崩したんだろう。

・・・流石に今度のは、墜落に違いないだろうがな・・・」

煙に巻かれながら、どんどん落下していく日本軍の機体。

上空を幾筋もの飛行機雲の様な白い線が蒼穹を染める。港の方、恐らく《信濃》の副砲による砲撃だろう。

それを回避した戦闘機達はすぐさま港の方へと向かっていった。

「あの機体、それとパイロットのことも気になるが・・・今はそれどころではないからな。

奴等が、あの機体はともかく・・・あの戦艦の相手をしている今のうちに退避するか・・・」

『・・・そう、だね・・・』

その結論に至り、二人共逃走することにした。

逃避しながらも墜ち逝く戦士(もの)の姿を視続けていた、その瞬間(とき)───。

『───えっ!!?』

「───なっ!!?」

恐らく彼女達の想像していたであろうことを遥かに越えたことがその機体に起こり、二人共それに釘付けとなった。

『何、今の・・・戦闘機が・・・!?』

「変形、した・・・だと・・・!?」


《零》の機体に何が起こったのか。

まず、二股になっていた機体の後部ユニットが展開し伸長され、人の脚の様な形状をしたユニットが出来上がる。

次に、機体中央部にあった二基の細長いユニットが機体左右に展開され、腕の様な姿のユニットを形成した。丁度、機体の後ろ方向を向いているそのユニットの先端部には人の手首の様な五本指のマニュピレーターが備えられていた。

そして、機首上部が背中側に折り畳まれ、それと同時にコクピットのある機首下部が下を向く。そして機首下部側の根元から人の頭の様なユニットが展開された。そのまま、頭型のユニットが出てきた位置に折り畳まれた機首上部パーツのアームが結合する。それに噛み合わぬうちにレールガンが機体後方に向かって展開され、翼が上方向に向かって斜めに、両方の翼でV字を描く様に展開される。

頭型ユニットの眼にあたる部位───双眼(デュアルアイセンサー)が輝くと同時に、機体が地面に対して直立する様な感じに機体が向きを変えた。まるで、空挺部隊の兵士が着陸するかの様に。

簡単に要約すると、戦闘機が人型に変形したのだった。その間、約一秒弱。

これが《零式TOKM───Transfer Of Knight Machine(騎兵型の機体に変形する)───艦上戦闘機》の真髄、と言えた。


《信濃》CICにて。

「《零》、敵戦闘機を単独で八機撃墜!」

オペレーターの桂木 優里が伝える。通信先は、艦載機格納庫。吹野 深雪に対してだ。

『え、嘘!!?

敵が密集していたとはいえ単独で、しかもこんな短時間で・・・!?』

驚愕する深雪。彼女からしてもこればかりは予想外だった様だ。

だが、状況は芳しくなかった。

「ですが・・・機体は郊外の森林地帯に不時着してしました・・・」

優里がそう伝えた途端「えっ!!?」と、深雪は取り乱した。

『機体とパイロットの状況は!?

パイロットは無事なの!!?』

「それが・・・」

言いかけて、言葉が止まる。

たが、オペレーターとして目の前の真実を黙っている訳にはいかなかった為、続けた。

「・・・機体からの通信も途絶、現在確認中としか───」

直後、機体情報が更新された。

「───来ました!!」

言いかけていたことを区切った優里は、今更新されたそれを確認し、情報を深雪に伝える。

「パイロットのバイタルサイン健在、機体状況ほとんど損耗なし!」

『───っ!!良かったぁ・・・!!』

安堵した。

その珍しくホッとした様子の深雪に対し、優里は「だけど・・・」と含み有り気に言う。

その反応に深雪が『・・・え、なに?』と尋ねると、

「・・・変形、使ったようですね」

そう優里は続けた。瞬間、

『はぁ!?

あれだけ使うなって言ったのに!!』

深雪は急に、まるでスイッチが切り替わるくらい簡単に機嫌を悪くした。実際『試作機だけでも完成まで、機体が変形することは黙秘』したかった為致し方が無いのだが。そこに優里がからかう様な口調で尋ねる。

「一応聞きますが《ガルーダ》の使用許可は───」

『はぁ!?

あんなもの使う訳ないじゃない、馬鹿じゃないの!!?』

そこに慌てとも怒りともとれる返事が深雪から返ってきた。

「冗談ですよ。

そもそもアレは《交戦規定【特一条】》が発令されてないので外部からの起動は出来ません」

『う、うっさい!』

「フフフッ。

まぁ、無事だっただけ良かったではないですか?」

そんな感じで馴れ合っていたところで、

『・・・ひとまずは、そうね。

でも、敵機は・・・』

深雪が話を切り替えた。

「・・・えぇ、まだいます。

しかも、大物まで・・・」

優里が対空電探の画面を見る。

少年が八機も撃墜したというのに、最低でもあと六機は戦闘機が飛んでおり、さらに大型の軍用航空機の反応が三機確認されていた。一機は超長距離爆撃機とされるが、もう二機は不明。

『にしても、司令部の対空監視員は一体何しでかしたのかしら!!

ここ内地よ?

こんな大軍送り込まれて、寝惚けてたにしても程ってものがあるでしょうに・・・』

「・・・一応、先程司令部に問い合わせてみたのですが・・・。

・・・『レーダーには何も反応が無かった』とだけ返されました」

『はぁ?

それは・・・アレね、司令部側(むこう)の整備士がケチったのよ色々と。

工兵の風上にも置けないわね!』

等と二人が戯れていたら───。

『すみません。私に手伝えることは無いですか?』

深雪の隣に居る少女が優里にそう尋ねた。


不時着、ならぬ着地した衝撃で後ろに押さえ付けられた僚は、衝撃とシートに挟まれ気を失いそうになる程の圧力でサンドイッチされることになった。

数十メートル程滑走(?)し機体が停止した後、シートベルトを外し、コクピットハッチを開けて外に這い出てみる。そして投げ出す様に開かれた両脚型のマニュピレーターの間に着地し振り返ってみると、人型の機体が地面に尻餅をついている姿を確認することができた。

今は電源を切っているこの機体の前に、コクピットから這い出ていた僚は立っているのだ。

先程この機体の姿を初めて確認し、搭乗する寸前まで見ていた戦闘機とは違う姿になっていたことに驚きと戸惑いを隠せなかったが、細部を含め各所に戦闘機の姿の名残が残っていた為『戦闘機が人型の姿に変形した』という事実を、彼は受け入れることにした。

「でも、まさか人型に変形するとは・・・」

だが、人型に変形可能、ということを考えると、いくつかの意味不明な仕様の意味が理解できた。

まず、主翼の基部に搭載されているレールガンが可動式であること。これは人型こと“兵士形態”に変形した状態でも使用できる様にした為だ。

それと、機体下部に装備されていたいくつかの変わった形状のユニット。

これらは変形した際に、腕となり脚となるユニットだったからだ。

コクピットに戻り、シートに座るとサブモニターのみ電源を入れた。

コクピット内には全周囲型のメインモニターと機体コンディションを示す中央サブモニター、レーダーの画面となる下部サブモニター、頭部カメラからの映像を映す右舷・左舷・上部サブモニターがあった。

その内の中央サブモニターを通して、ヒトで言う頭部に当たる部位を確認する。

そこには “マイクロ・ファランクス” と表記されたシステムが備わっていた。

「この機体、頭部自体が近接防御火器システムなんだな」

見たところ、5.56mm機銃がヒトの頭部で言うこめかみの辺りに片舷一挺ずつ計二挺装備されている。

次に、両肩に一基ずつ装備されたカバー展開式の7.62mmガトリング式対空機関砲をと、背部のレールガンの状態を確認した。


頭部内装型5.56mm近接防御機関砲

残弾数 一二〇〇/一二〇〇発

銃器状態 “ALL GREEN (異常なし)”

電子機器状態 “ALL GREEN”


肩部展開式7.62mm四連装回転銃身型機関砲

残弾数 五二〇/六六〇発

銃器状態 “ALL GREEN”


弐〇式70.0mm小口径電磁投射砲

残弾数

R 十八/三二発、L 十八/三二発

銃器状態 “GREEN ZONE”


最後に、機体全体の状態を確認する。


脚部

推進器 “ALL GREEN”

間接部 “ALL GREEN”

本体 “ALL GREEN”


腰部

推進器 “ALL GREEN”

間接部 “ALL GREEN”

連装ワイヤーアンカー“ALL GREEN”

本体 “ALL GREEN”


腕部

推進器 “ALL GREEN”

間接部 “ALL GREEN”

本体 “ALL GREEN”


胴体部

推進器 “ALL GREEN”

翼基部 “ALL GREEN”

零式空挺機動翼 “ALL GREEN”

《迦楼羅》“ALL GREEN”

本体 “ALL GREEN”


バッテリー残量

95% (GREEN ZONE)

推進剤残量

91% (GREEN ZONE)


機体総合状況 “ALL GREEN”


これは、不時着したというのに全くの無事ということを示していた。

つまるところ、《零》が《欠陥機》とされた所以は機体が悪かったのではなく、シュミレーターが悪かったのだと、僚はつくづく思った。

「・・・?」

それともう一つ、とある装備が気になりそれに釘付けになった。

「これは・・・?」

機体CG図によるとコクピットのすぐ近くに設置されているらしい装置で、《迦楼羅》という名前だった。

「カローラ、って読むのかな?」

まず読み方が分からなかったがそれについてはこの際別にどうでも良いとして、カーソルを合わせて詳細確認のウィンドウを開いてみる。

説明に一通り目を通したところ、使い方こそ分かったものの、どんな装備なのかは結局のところわからなかった。

気になりはしたが「まぁ、いいか」と言ってこれについてはスルーすることにした。


その頃、浜松飛行場にて。

何機かの戦闘機が出撃の準備を行っていた。

二小隊分で班分けされていた計六機の《九六式艦戦》の編隊だ。

それの片割れに所属している青雲 幸助の元に、班員の一人から通信が来る。

女性隊員、菅野 花梨からだ。

開いてみると、やっぱりだが心配される。

『こー君、大丈夫?』

「あぁ、平気平気」

そう返しはしたものの、幸助は正直に言えば緊張していた。

丁度そこに、通信が掛かる。

城ヶ崎 小太郎、この班の班長からだ。おそらく元々花梨と話していたのだろう、既に回線を開いている者同士での通信は応答する間もなく自動で繋がる仕様になっていた為、いきなり回線が開かれる。

それでいて、

『そうか?

なんか声震えてるぞ』

「う・・・」

かなり図星だった様であった。

彼は施設出身だったが、その頃から空に憧れていた。

彼は、ではない。実はこの三人は年齢こそ違えど同じ施設出身だ。一歳違いの花梨はともかく小太郎とも五歳ほどだが離れているが、実質幼馴染みといっていい。

その中でも勉強も訓練も必死で取り組み、小太郎と同じ、海軍の士官学校に入学(はい)ることができた。

その第では士官学校を卒業()てからも数ヶ月、ありとあらゆる訓練を重ね、まだ若いものの、現在は浜松飛行場にて栄えある航空部隊の末端の末端にだが配属となった。

そんな彼も、実戦は初だった。《改二大和型超戦艦級》などという、並の戦艦を軽く超える規模の巨大戦艦を十隻も持っていながら、《大日本共和国連邦(このくに)》は建国早々のソ連との戦争以来百年近い間戦争なんてしていなかったからだ。

故に、緊張していたのだ。人として当たり前のこと、と言っても過言ではない。

どれ程訓練していようと、初の実戦であるという時点で、新兵となんら変わりないのだから。

そんな彼が、色々考え悩んでいると、

『全く・・・なんやねん!

急に呼び出し来たー思うとったら、出撃やと!?

俺ぁ来週には《第一防空部隊》に配属やったんやぞ!!』

また別の、自分の班員の一人がそんな苦情に近いことを通信で言い出していた。

(彼は、確か・・・。

火野 龍弥(たつみ)、だったか?)

確認する様に思い出す。

今月始めに関西の部隊から転属になったらしい、とだけ聞いていた。

『現在国外に派遣中の別の部隊に配属となる為に、あくまで仮転属という形だ』とも言われていた為、同じ班とはいえ彼との交流は皆無に近い。

次いでに言うと、彼は花梨と通信していたらしい。その為花梨の回線から龍弥の声が聞こえていたのだ。

「へぇ、《蒼穹》か」

感心した様な言葉が不意に漏れる。実際彼は感心もしていた。

《第一防空部隊》───《日本海軍横須賀司令部所属 第一国土防衛師団艦隊》の構成部隊中でかなり高練度な部隊の一つである。正規空母《蒼龍》を旗艦とする機動部隊で、その練度は訳あって一般人には秘匿されている“とある艦隊”を除けば《第一国土防衛師団艦隊 総旗艦隊(通称《本隊》)》すらも超えるとも言われた。

戦争をしていなくとも、特定の同盟に所属している国なら各国、軍を特定の地域に派遣し合同軍事演習を行うことは良くある。その度にこの部隊は毎度その強さを見せつける。特に『晴天時は無双』とさえ言われているジンクスも重なり、《第一防空部隊(このぶたい)》は、《蒼穹の艦隊》という異名を誇っていた。

『せや、日本海軍が誇る防空の要や!

そげな部隊に配属やいうんに、こんなとこで墜とされちゃあたまらんのや!』

幸助の声を聞いたが故か、回線を繋げ早々にそんなことを言い出す。

そんな苦情を自分に言い出されても堪らないというのに、と思った時、小太郎が少し煽る様に言った。

『そん時は『その程度の奴だった』ってことで済むんじゃないか?』

『なんやて!?』

小太郎の一言に驚愕とも怒りとも取れる反応を返した。花梨も『ちょっと、小太郎さん』と呆れる様な反応を示すが、それに対し小太郎は一度軽く笑い『だが、逆に考えるんだ』と繋げた。

『もしここで良い戦績を残せば、どこの部隊に居ようがスピード昇格は間違い無しだ』

『お、おう!

・・・あんた、ええこと言うな!』

『それはどうも・・・っと、時間か・・・』

気が付けば整備兵達が退避している。

「・・・では、お互いがんばろう。

健闘を祈る」

小太郎の言葉を聞いて、幸助も幾分か楽になった。

『各員、出撃準備は宜しいですか?』

オペレーターの声が響く。

『城ヶ崎 小太郎、同じく出撃準備完了!』

『菅野 花梨。出撃準備、完了しました』

『火野 龍弥、いつでも行けるで!』

三人がそう応える。

自分も、行ける。そう信じて、

「青雲 幸助、行けます!」

幸助も、そう応えた。


『各員、出撃準備は宜しいですか?』

オペレーターの声が響く。

『こちら城ヶ崎班。

各員、出撃準備良し』

片方の班長がそう答えたのを確認し、

『こちら双里班。

各員、出撃準備完了』

もう片方の班長も応じた。

班長の名は双里 真尋。年齢は十八歳。

それ以外に情報は無い。

どこの学校を出たのか、いつどうやって航空機の訓練を受けたのか、全く以て不明。

性別すらも不明だった。女性の様な顔立ちで声音も女声に近い様に聞こえるが、「僕」という中性的な一人称しかり機械的ともとれるいかにもな口調しかりで、男性なのか女性なのか正直判断しようがない。

「・・・」

双里班唯一の班員である景浦 幽は、だが、そんな彼(彼女?)に対し、特にこれといって情報が欲しいと思っていない。

それどころか別に城ヶ崎班の隊員ですら気に掛けてもいないのだが。いや、むしろだろう。パイロットたるもの、腕前が確かなら性別など関係ないのだ。

少なくとも彼はそう思っていた。


《信濃》艦載機格納庫にて。

「すみません。私に手伝えることは無いですか?」

深雪の隣にいた銀髪碧眼の少女が優里に尋ねた。

『貴女は?』

「あー・・・さっき、りょ・・・」

そこまで言いかけた深雪は、何故か一度咳き込む。

「・・・有本君が連れてきた人だけど・・・名前、何?

自己紹介されてなかったけど?」

一瞬躊躇ったが、彼女は自己紹介する。

「・・・クラリッサ・能美・ドラグノフ、です・・・」

「はぁ!?」

『えぇ!?』

二人して驚愕。

「あなた、東ロシア帝国陸軍近衛師団所属のエースパイロットじゃない!!」

『 “東ロシアの白銀(しろ)い狼” が、なんでこんなところに!!?』

「そ、それが」とクラリッサは事情を説明する。自分が亡命してきたことと、その理由。

「なるほど、そういうことね」

「・・・はい、そうです。

ですから───」

「いいんじゃない?」

深雪がそう言った。優里が『深雪、あなたね』と頭を悩ますが、

「今この艦、人員(ひと)少ないのよ。

手練れの人なら手伝って貰うしかないわ。

それに手伝いたいって言ってるんだから、それくらいはいいんじゃないの?」

優里は少し考えた。深雪に「なんとかなるから大丈夫よ、多分」と不確定ながら念を押され、ため息をつきながら答えを出す。

『・・・分かりました。

クラリッサさんには、主砲砲手代理をやって貰います』

「ありがとうございます」

「良かったわ───」

ねぇ、と言いかけた深雪は一瞬考え、直後に「えっ!?主砲!!?」と戦慄した。

『責任は取るんですよね、深雪さん?』

画面に映るは、優里の満面の笑み。

「わ、分かったわよ!

アタシが取れば良いんでしょ、取れば!」

そう言って深雪は「ほら、CIC行くわよ」と言ってクラリッサの手を取った。


僚は、操縦稈を握り、ふと考える。

「・・・そういえば、これどうやって戻せばいいんだ?」

人型に変形できるのだから、元に戻すこともできるはず。そう考え、一応インストールされていた簡易マニュアルデータに一通り目を通していたが、変形についてのテキストが載っていなかった。OSのデータを調べても “兵士形態” から “戦闘機形態” に戻す方法が載っていない。“変形”そのものが機密事項だったとしても、ここだけ抜き出すのはないだろう。

「もしかして・・・」

とある仮説がたった。だが、逆に考えてみる。マニュアルが無いのなら、自分で調べて考察し書き上げればいいのだ。

そう考え、シートの後ろに仕舞われていた工具を取りだし、コクピットから外に出て左脚の元へ向かうと、丁寧に装甲を剥がしていった。

「分解能、分解能。工兵は皆、分解能」

訳分からない呪文を唱えながら脚部の装甲を解体していく。

ある程度、脚部内部フレームの構造と変形の仕組みが理解できた。

“戦闘機形態” 時と “兵士形態” 時、それぞれの状態時にフレーム同士が丁度折り重なる位置に電磁石が備わっている。

部分的にだがフレームはどうやらこれで固定されていた様だった。

「なるほど、こうなってたのか・・・」

言いながらメモ帳に記録し、装甲や推進器の配置を含め色々計算してみる。

そして、

「・・・お、これならいけそう」

理解した後、組み立てて元に戻す。

コクピットに戻ってシートに座り、「行けるな?」と囁きながら、機体を起動する。

甲高い音を立てて、人間でいう目にあたるセンサーが光を放ち、機体が起動した。

「動力、推進機、正常。

武装、問題なし。

《試作三号機》、行きます!」

人型の姿 “兵士形態” をした《零式TOKM艦上戦闘機》が飛翔する。

五メートル程上空に上がった後「あらよっと!」と吼えながらバック宙の様な動きをして “戦闘機形態” に変形した。

「お利口さん!」

そう言って僚は《信濃》の方へ向かった。


《信濃》CIC。

クラリッサは主砲砲手席に座り、元主砲砲手で現副砲砲手の菊池 武彦から、システムの扱い方を教わった。

「───こうすることで一基ずつ動かすことも一応できるが、手間だから省かせて貰う」

「はい」

「このハンドルで主砲を左右に動かせる」

武彦は、手回し式のハンドルを指差し説明する。

「このレバーで、砲の仰角を変え、引き金を引く。これで砲を撃つ」

次は銃型のレバーの説明。

「で、このレバーで主砲の出力調整。

これで最良射程距離を調整できる」

最後に出力調整用レバーの説明。

出力調整、という辺り、この艦の主砲はやはりレールガンなんだろうか?

「使い方の説明はこれで以上だ。

・・・これで大丈夫かな?」

「はい、問題ありません。

分かりやすく説明して頂き、ありがとうございます」

「それじゃ、お互い頑張ろう」

「はい」

武彦も副砲砲手席に座った。

その時、CICの扉が唐突に開いた。

深雪が振り向くと、そこには眠たそうに欠伸を咬ます知らない男性がいた。

学生の制服が似合いそうな風貌の、恐らくまだ少年であろうその男性に対し、

「おまっ、絆像(はんぞう)!!

何でここに!?」

そう反応したのは、武彦だった。

聞いたその瞬間では全く以て誰なのか見当がつかなかった深雪だった。だが、直後に情報を整理する。その隣では、

「かっ・・・神山准将!?」

優里が驚愕に近い反応をし、それと同時に敬礼をする。

優里の発した言葉から漸く男性の正体に見当がついた。

「・・・神山 絆像・・・」

その名を、深雪は呟く様に口にする。

クラリッサだけちんぷんかんぷんな様子であるが、彼───神山 絆像は日本海軍では名前を知らない者はいないと言っても過言ではなかった。

なぜなら、若干十九歳で准将になった史上最年少の将官だからだ。

深雪の様に忘れることはあったとしても、と追記するが・・・。

「武彦以外とは、始めましてだな」

彼は軽くそう言った直後に、

「まぁ、俺のことを知ってるみたいだし、こんな状況で自己紹介するのも野暮か」

とだけ言って、CICにいる全員に問う。

「総員、戦闘準備は宜しいか?」

CICに居る全員が、その問いに頷く。すると、

「では吹野伍長、指揮は任せた」

彼は深雪に指揮を投げた。

「いや、ここまで来たらアンタがやればいいでしょ!?」

「残念ながら俺はこの艦に於いて何の権限を持たないのでな。

あとついでに戦闘の見学」

「なっ・・・呑気なことを・・・ッ!!」

言い訳、と言うにはやけに清々しい言い分に対して怒りながらも向き直り、深雪は指揮を行った。

「主砲、仰角を相手に合わせて。

・・・一応、あくまで主砲は威嚇で向けるだけだから、撃たないでね。

副砲は、主砲をカバーする様に射撃を」

「「了解」」

二人が合図したその時、

「深雪、《零》から通信が!」

優里が報告する。それに対し深雪は、

「・・・はぁ?」

より一層機嫌悪そうに反応し、怒号に近い声音で「開いて!」と返答した。

通信が開き、

『こちら《零》。

これより戦線に復帰───』

僚が言いかけたところで、

「───あんたねぇ!

何勝手に変形させちゃってるのよ!?

するなってアタシあれだけ言ったでしょうが!!

VLSが使えるんなら、今すぐシースパロー食らわせてやりたいところね!!!」

盛大に罵声を噛ます深雪。今まで溜まったストレスをぶつけたというなら、彼にとってはとんだとばっちりだろう・・・。

一方、それをぶつけられた僚はというと、

『・・・一応《零》の名誉の為に弁解しておくと、ですね・・・』

気まずそうにそう前置きした後、

『この機体・・・欠陥機どころかかなり優秀ですよ。

不時着したけど、殆ど無傷でしたし』

そう言って誤魔化した後、続けて『取り敢えず、戦闘に復帰するので、指示をお願いします』と返した。

「・・・了解」

渋々とだが、怒るのを止め返答する深雪。と、

「深雪、《零》が変形してる!」

その後ろで、優里からの報告。

先程したはずのことを、なぜか驚愕する様に言ってきた。

「それさっきも言わなかっ───?」

深雪が問いかけると、

「違うわ!

戦闘機の姿に戻ってるのよ!」

そんなことを返した。

それに驚愕し「───嘘ぉ!!?」と言って立ち上がった深雪はオペレーター席に向かい機体状況を確認し、その事実に困惑した。

その困惑した状態のまま、深雪は僚に問う。

「なんで?一体、どういうこと!?

あなた《零》に何したの!?」

『何、って・・・あぁ、変形についてですか?』

聞き返したら「当たり前じゃない!その機体は───」と言い出したので、僚は、

『───人型の姿から戦闘機の姿に自力で戻すことができない、でしょ?』

自分の仮説が当たってることを確認した。

「そうよ!

なんで戻ってるのよ!!」

『言ったでしょう、信じてやれば機体は応えてくれる、って』

「───いくらなんでも非ぃ科学的過ぎるわよ!」

『 取り敢えず指示をお願いします。

詳しい方法は戦闘の後でメモ使いながらなるべく分かりやすく説明しますから』

「・・・分かったわ。

終わったら聞かせて貰うわね!」

悔しそうだが、どこか嬉しそうな反応を返す深雪を視界の端で捉えながら、絆像は一人「ほぉ」とだけ呟いていた。


《信濃》の主砲が全門、仰角を最大の三十五度上に上げ、その内前方部の主砲三基が左舷に向けて九十度回転した。

後方部の主砲二基も、艦の左舷に向けて回転し始める。

左舷副砲も、仰角を最大の三十五度まで上げている。

「対空射撃、用意!」

用意が整う。

その時、四機の敵機が二発ずつミサイルを放った。

「CIWS起動!」

計二十基の近接防御機関砲が、計八発のミサイルを迎撃。

「今のうち、副砲斉射!」

合図と共に、左舷副砲五基十五門が弾丸を飛ばす。

一機を撃墜した。

だが、所詮一機。まだ三機残っている。

「僚、《零》の武装はまだ使えるわよね?」

深雪の問いに対し『はい、大丈夫です!』と返す僚。返答に対し「可能なら撃墜して!」と命じると、

『了解しました!』

応じた僚は機体を駆り、操縦稈のトリガーを引いた。


レールガンで敵機を穿つ。

回避した敵機は、ミサイルを放ってきた。

この機体は、レールガンを撃つ度に反動で一瞬速度が落ち、その一瞬、バランスが崩れるのだが、それを敢えて利用して “兵士形態” に変形する。

人型に変形した直後、頭部近接防御機関砲と肩部対空ガトリング砲を斉射して、飛んできたミサイルを迎撃。

生じた爆煙を煙幕に使い、そのままレールガンで煙の先の敵機を穿ち、撃墜する。

その後、煙に巻かれながらもバック宙で “戦闘機形態” に変形。

もう二機の方へと直進して向かい、擦れ違い様にレールガンを方舷ずつ向けて近距離射撃。

撃った反動で一瞬止まった瞬間、その時生じた速度の差で、爆ぜながら墜落する敵機を左右に避ける。二機は後方で交錯し、爆ぜて火球へと姿を変えた。

初めて乗ったとは思えない神業で敵戦闘機を三機撃墜した。


「・・・すげぇ」

艦橋の窓から見ていた武彦は、愕然としていた。

その横で優里も「綺麗・・・」と反応していた。

「無駄な動きが、無くはないですけど・・・それすらも綺麗に見えます・・・」

「変形する機体か・・・ロマン溢れて良いじゃないか・・・って、目の前に現実であるのにロマンって何だろうな、ハハハ」

そんな会話をしだしていた。

そもそも戦闘中だというのに、なぜこれ程まで緊張感が和らいでいるのだろうか。

武彦には一つ感付いたことがあった。

この敵は殺す気で戦っていない、と。

それともう一つ。ほとんど無意識に近い形でだが、どんな人物が乗っているのかは少なくとも声音からして少年であるということ以外知らないがもう《(あいつ)》一人で良いんじゃないか、と思い始めていたからだった。


速攻、という言葉が似合うほどいとも簡単に、僚は敵戦闘機を全て撃破した。

あとは、大型の機体が三機。

その内の二機が反転して逃げ出す。だが、もう一機がそのまま直進しミサイルを四発も放ってきた。非誘導型だった為に簡単に回避したが、そのミサイルは二発が《信濃》に、残りが《榛名》と《摩耶》に一発ずつ飛んでいった。どれも各艦の持つCIWSに撃ち落とされた為、大事には至らなかったが。

だが、

「残弾が・・・」

R 〇/三二 , L 〇/三二 。

主兵装であるレールガンが弾切れを起こした。

頭部機関砲も残弾五二発、肩部対空ガトリング砲も残弾九〇発と、致命的に少ない。

戦闘機や歩兵を相手するならまだしも、大型機を相手するには心もとない。

もしミサイルを撃ってきたら全弾迎撃に費やしてしまうだろう

こうなったら、

「CIC、副砲はまだ使用可能ですか!?」

問いに対し『はい、こちらCIC!一応副砲が全門使用可能です!』と優里が返した。

「僕が敵機を押さえます。

当たる直前で回避しますから、撃ってください!」

『はぁ!?あんた正気!!?』

「正気です、多分!」

深雪の驚愕の言葉に対して僚が返すと、

『了解だ。

君の覚悟、受け取ったぜ』

という、武彦の応答が返ってきた。

『ちょ、武彦さん!!?

・・・もう、どうなっても知らないから!』

「・・・了解です」

言うなり、僚は敵爆撃機に正面から突っ込んでいった。

ミサイルを斉射してくる敵機。それに対し僚は機体を変形させ、残った火器の弾を斉射して迎撃した。

そして、そのまま敵機に取り付く。

「今だっ───!」

『今よっ───!』

「『───撃てぇ!』」

僚と深雪、二人の声が重なる。

次の瞬間、15.5cm砲左舷全十五門から、電光を纏う徹鋼弾が放たれた。

「───うわぁっ!」

放たれた弾丸を間一髪で避けた僚。一方、直撃した敵機は、火球となって爆ぜて消えた。


終わった、のか。

ホッ、とした僚は、機体を《信濃》後部甲板に着艦させることにした。


その瞬間、後ろから攻撃が来たことを知らせるアラートがコクピット内に響いた。


突然ですが

次回予告!


優「いけません、クラリッサさん!

あなたが戦う必要は無いのです!」


ク「お気遣い、ありがとうございます・・・。

ですが、これじゃないと・・・あれは、倒せない・・・。

誰かがやらないといけないんです・・・だから───!」


優「ダメぇ──────────ッ!!」



次回

紅蓮の艦隊 -the Great Battleship of Scarlet Fleet-

主砲、斉射



ぶっちゃけ全然進んでない・・・(2月9日の時点)

【進展】ようやく完成度80%といったところです(2月27日午前時点)

ようやく終わりました

長かった・・・

おまたせして申し訳ないです


半分ネタバレですが上記のやりとりはありませんのであしからず

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