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紅蓮の艦隊 -the Great Battleship of Scarlet Fleet-  作者: OH‐
第一章:240年前の未来
2/14

第一話:横須賀、襲来

二〇四一年 四月某日───横須賀。

 この日、ここでは大日本共和国連邦海軍新造艦の《観艦式》が開催されていた。

 新型の次いでに、近代化改装が施された一部艦艇も御披露目される。その横須賀の地に、有本 僚は足を着けた。

「横須賀か……」

 若干中性的というか、少女に見えなくもないまだ幼さが残る容姿をした彼は、物思いに耽りながら、

「……まさか、こんなところに来る日が来るなんて」

 そんなことを思っていた。

 彼は生まれも育ちも田舎で、こんな市街地に来たことがなかった。その為、彼にはこの街の至るところが新鮮に見えたのだろう。

 それと、今年は《大日本共和国連邦制定一〇〇周年記念》の為、ここ横須賀ではそれら多数の式典を今年中たんまりと抱えていた。故にいつもより装飾されている施設が多くあった。

 あと、この街に彼は、もう一つ思い入れがあった。

「あいつ、元気かな……?」

 昔、訳あって生き別れた幼馴染み。

 彼女と別れる直前くらいに、横須賀に引っ越す、と聞いていた。

「案外、何かの拍子ですれ違ったりして」

 などと笑いながら、駅から歩いていった。


 その頃。

 準備中の式典会場内にて、とある超大型艦艇が皆の目を惹き付けているであろう。

戦艦《信濃》。

全長333.0m、全幅52.0mの超大型戦艦。

 改二大和型計画(別名 BBY-X計画)という、約百年前の大戦で活躍した大和型超弩級戦艦の設計データを元に大幅な改造を加え、完成したデータを元に超大型戦艦を建造・運用する計画のもとで生まれた、計五種類存在するデータの一つから生まれた艦だ。

 この艦を一番艦とする《信濃型》戦艦は、五種類存在する設計データの中で最も原型に近い形状をしており、艦橋前方部甲板上に三基、後方部甲板上に二基、主砲としてそれぞれ巨大な三連装砲塔を構えている。

その艦の艦尾部にある艦載機格納庫にて。

 少女が一人艦載機のチェックをしていた。

 彼女───吹野 深雪はまだ若いが軍属で、この艦の正式な乗組員の一人であり、艦載機整備士主任をやっていた。現在は搭乗員の大半が退役及び転属を受けたが故の人員不足のせいで航空隊管制官と対空兵装管制官の代理も勤めている。あくまで仮の、だが。

「《零》……」

 目の前の艦載機ハンガーに備わった機体の名を一人呟いた。

 この機体のことを彼女は良く知っている。というのも、この機体は彼女が設計し、試作機だが生産まで漕ぎ着けた機体だからだ。この機体に備えられていた『とある仕組み』が原因で、ある重大な『欠点』を抱えていたが。

 彼女は、まだ塗装もされていない鉄色の機体に手を触れる。

「この世界……変えられるかな……?」

 彼女が一人、ポツリと呟く。

 だが、彼女も分かってはいたが《零》は何も答えてはくれなかった。そこに、深雪の元へCICから連絡が入った。


《信濃》艦橋CICにて。

「まだその機体のところに居るのですか?」

 艦のオペレーターを務める桂木 優里が誰かと通信している。

『悪い?』

 話している相手は、艦載機格納庫に居る深雪だった。

「その機体は……」

『何?』

「……いえ、何でもありません」

 言いかけていたことを深雪に遮られたため、飲み込む。

『そう?

用事がないなら切るわよ』

 そう言って、深雪に通信を切られる。

「はぁ……」

 溜め息を吐く優里。

 彼女に対し「お疲れの様だな」と声を掛けてくれた。菊地 武彦。《信濃》副砲砲手だ。その彼の言葉に対し、

「いつものことです」

 そう返した優里だった。


《信濃》機関室にて。

「はぁ……」

 整備科 応急修理要員(ダメージコントロール)班所属の香坂 狼牙が溜め息を吐いていた。

 普段ならそんじょそこらの老兵以上に気合で満ちている彼の姿はまるでショボくれたじいさんばりに萎んでいた。

「どうしたんだ狼牙。

いつも気に満ちてる様なあんたらしくない。

班長任されて緊張してんのか?」

 同じ班員の獅子谷 聖に尋ねられると「んなこたぁどうでもいいんだよ」と言いつつ、狼牙はこう答えた。

「……先輩方、皆退役しちまって、後輩達もほとんど、何があったかは知らねぇけど大破して帰ってきて修理中の《摩耶》とか、今新造中の戦艦とか、別の艦に移籍しやがってよぉ。

寂しくなっちまったもんだなぁ、ってな」

 聞いた聖は「なるほど」と返す。

「確かに、元からこの艦に乗っている班員は俺ら二人だけになった訳だ。

この艦の竣工時から居た面子って時点で、他の部署合わせても俺らしか居なくなったんじゃねぇか?」

「寂しかぁねぇのか?」

「いや、俺だって寂しいさ。

雑務押し付けられたり、小賢しいいびり受けなくなったりなんだりと無くなって、清々している反面で、な」

 通路の手刷りに肘を着けながら、聖は続ける。

「だが、俺らで盛り上げなきゃならん時が来ることは分かってたろ?

この艦に配属された時は新人として入ってきたとしても、いつまでも新人のままでいる訳にはいかんだろ。

それが今来たってだけだ。

それに、新人だって沢山来るんだろう。

それだと言うのにこんなお通夜みたいな雰囲気じゃ、新人達逃げちまうぞ?」

 聖にそう叱咤され、一度「フッ」と笑った狼牙は、

「・・・そうだな。

俺達が盛り上げればいいんだ」

 そう返し、一、二度自分の顔を叩いて気合を入れ、

「よぉうしッ!

みなぎってきたぁぁぁッ!」

 やる気に満ちた雄叫びを上げた。

 聖が狼牙の様子にホッとした調度その時、

「「───ッ!!!」」

 突然、警報が鳴り出した。


若干時間が遡る。

式典会場付近の公園にて。

 会場である横須賀港が良く見えるその公園の芝生に、僚は座っていた。そこで、ふと空を見上げる。

「それにしても……最近天気悪かったけど、今日は珍しく良く晴れたなぁ」

 桜の花も舞う季節。その蒼穹(そら)を見つめ、

「空、か……。

あいつ、空の色とか好きだったっけ……」

 思い出を回想しかけていたその時、かなり大きな音が鳴り響いた。

 爆発音とは違う、重量感のある鈍い音。

 その方向を向こうとしたその直後、突然警報が鳴り出した。

「な、何だ!!」とか「何事よ!!?」などと、周囲が慌ただしくなる。

「これは、“イエローアラート”!?」

 僚は、国防大学付属高校に通っていた為、数種類ある警報の違いが見抜けていた。敵襲警報(イエローアラート)───文字通り敵の襲撃を警告する警報だった。

「でも、敵って……?

戦争してる訳でもないのに……?」

 そう思いながらも、先程音のした方を振り返った、その時。

 僚の視界に入った、人型の機械───ロボットの様な何かが銃を構えた状態で、

『大人しくしていろ!』

 その機械は叫んだ。

 律儀にも日本語で、パイロットのものとされる男の声が聞こえてきた。

 日本人かと思う程、丁寧な日本語だ。

 あの機械は、

「き……《騎甲戦車》……!!」

 かつて、教科書に乗っていた機械だ。

 戦車から発展した単座式の機動兵器。最初アメリカが開発して、ベトナムなど各地の戦場に投入されて勝利を収めたという。

 それ以来、世界各地の軍隊に配備されていた。最近ではSWATでも採用されていると聞く。

 だが、それのを姿が見えた僚は驚愕した。それもそのはず、

「何で、あんなのが日本に……?」

 日本に《騎甲戦車》などというものがあるはず無かったからだ。日本は先進国軍事練度上位三十ヶ国の中で第三位と言われているにも関わらず、その中で唯一《騎甲戦車》を陸・海軍のどこにも配備していない。ちなみに第一位は四ヵ国在籍する《N.A.N.A.T.O.(北アメリカ及び北大西洋条約機構)》を束ね、かつ《騎甲戦車》の母国である《アメリカ合衆国》、第二位はアメリカ同様《N.A.N.A.T.O.》加盟国の一つであり日本とも親密な関係にあるイギリスこと《北アイルランド・グレートブリタニア統合王国連邦》、第四位は中華民国家連合一位の国で先進国軍事練度第一位のアメリカすら凌駕する《騎甲戦車》保有量を誇る《新清(しん)》、第五位は極地での戦闘に特化した《騎甲戦車》を数々設計してきた《東ロシア帝国》。

 だが、それが目の前にいる。ということはつまり───。

「日本軍じゃ、ないんだよね……?」

 察したその時、僚は走り出していた。


この時、横須賀郊外の森林地帯にて。

「こちらW(ウォルフ)-02(ドゥヴァ)。

W-03(トゥリィ)、応答せよ」

 狭い空間の中で、女性が通信していた。

『こちらW-03。

どうされました?』

 通信先の女性が応答する。

「行方不明のW-01(アジン)がここに居るという情報、本当なのか?」

『正直信じられないけど、クライアントが言うのならその可能性が高いと思う』

「……そうだな。

他に情報源も無いしな。

だが……」

 彼女等の仲間が一人行方不明なのだが、それの今居るとされる場所として横須賀の可能性があった。

「よりにもよって、何で横須賀なんだ?」

 W-02が愚痴ると、W-03が答えた。

『本日、横須賀で観艦式があるでしょう?』

「……あいつが日本海軍に喧嘩を吹っ掛けるとでも?

観艦式、というんだから民間人も居るだろうに」

『……あまり思いたくないわね……』

と、

『こちらクライアント』

 クライアントなる人物から通信が来た。

「どうした?

やはり横須賀にあいつは来てなかっ───」

 来てなかっただろう、と言いかけたその時、こんな言葉が返ってきた。

『観艦式会場付近の公園にてW-01機とされる《T-34》を確認。

民間人と口論している様です』

 その報告を受け、

「…………」

『…………』

 W-02、W-03は共に思考停止した。


 機体はアサルトライフルを構えている。

『……そうだ……大人しくしていろよ?

何も人を殺したい訳じゃない』

 そう言い出す、紺色の鉄の巨人。

 その目の前に、一人の少年───僚が躍り出た。

「じゃあ何で《騎甲戦車(そんなもの)》に乗ってこんなところに来たんですか!」

 鉄の巨人に対し、僚は叫んだ。

『威勢が良い少年だな。学生か?』

「そんなことはどうでもいいでしょう!

何をしにここへ来たんですか?

《騎甲戦車》なんてもの持ち出して!」

 吠える様に叫ぶ僚。意外にも冷静だった。叫んでいたのは、機体の集音性能がどれ程か分からなかった為に敢えてそうしていたという。

 実際この行動に出たのも、相手の行動や状態を冷静に判断した為だ。目の前の機体が構えていたアサルトライフルには安全装置(セーフティ)が掛かっていた。おまけに相手は、いつでも撃てる様に構えている様に見えて、実際良く見てみると銃柄(グリップ)を持つ手の指が引金に掛かってない。殺す気どころか、本当に撃つ気すらないのだろう。

 すると───、

『……良いだろう』

 パイロットが呟く様に言った後、一呼吸入れて要件を述べた。

『巡洋艦を一隻、駆逐艦を二隻、その他小型艦艇を二隻頂戴しにきた』

パイロットはそう言った。

 呆気にとられ「はい?」と言ってしまう僚のことを気にせず、パイロットは続ける。

『《新造艦》とやらも欲しかったが、今の我々に運用できるのかと言われると厳しいのでな。

運用できる範囲のものを頂こうと───』

「一個水雷戦隊で何をするつもりなんですか?

日本から兵器を奪って、それで列強相手に戦争でもしようっていうのですか!!?」

 さすがに、と反射的に聞いてしまったが、『その通り』と答えた後、『だが、今すぐにではない』と相槌を打ち、相手は言葉を続けた。

『水雷戦隊程度では、どこの国を相手しても勝てぬ。それは承知。

いずれ列強に勝てる程の大艦隊にして奴等を倒す』

「『やつら』……?

それに今、我々って───」

 言いかけた僚は、察した。

 目の前の機体は《T-34 ソルダット》───ロシア語で《戦士》を意味する───という、東ロシア帝国陸軍がかつて主力として使用していた旧型《騎甲戦車》だった。

 肩には東ロシア帝国陸軍の紋章を塗り潰した跡があった。

「貴方、もしかして……脱露者、なんですか……?」

 脱露者───読んで字の如く、ロシアを亡命した人のことを指す。

 質問の答えを聞こうとしたその時、いつの間にか止まっていた警報がまた鳴り出した。

 今度は航空機が飛んでいる。

「あれは……」

 主翼の国籍識別紋章(エンブレム)を確認。

「東ロシア帝国空軍……何でこんなところに───」

言いかけたところで、ハッとする。機体から何かが切り離された様に見えたからだ。

「───まさか!」

『どうしたんだ、少年───』

「避けろ!」

 僚が叫んだ。機体は、反射的に左斜め後ろ側に回避行動をとる。

僚も自身の後ろ方向に緊急回避───俗に言うハリウッドダイブ───した。

 直後、機体と僚の、丁度中間の位置の地面を、一発のミサイルが抉った。

「ぐぁっ!!」

『きゃあっ!?』

 二人、というか正確にいうと一人と一機共、爆風で吹き飛ばされる。戦闘機がミサイルを放ってきたのだ。

 日本軍所属機でもない機体が、何の警告も無しに。当然ながら周囲に群がっていた一般人達は酷く混乱し、辺りは騒然としだした。

『攻撃してきた!?』

 盛大に尻餅をついた《T-34 ソルダット》から、パイロットが驚き叫ぶ。

 それに対して僚が返した。

「貴方達を撃墜しに来たんでしょう!」

『そんなことは分かってる!!

だが、何故奴等が攻撃できるというんだ!?

他国領土で、しかも何の警告もなしに!!』

 《騎甲戦車》のパイロットも、口調は辛うじて威厳を保とうとしていたが、言葉の内容からして取り乱している様だった。当然ではあるが。

そんな機体パイロットに向かって僚は言った。

「……色々と都合が良いんでしょう。

貴方達を撃墜できればそれで良いだろうし、仮にできなかったとしても貴方達のせいにしてしまえば良い。

・……列強のやり口がそんなものであることくらい、分かりますよ……」

 周囲が騒がしくなくなっていたことに気付いて、ふと辺りを見回す僚。

 大騒ぎしていた辺りの民間人達は、いつの間にか避難が始まっていてほとんど居なくなっていた。

 ちなみにパイロットが言うには、どこかに仲間がいるはずなのだが《T-34 ソルダット》は今のところこの機体しかなかった。

「取り合えず、機体を放棄してください。

適当な艦に避難しますから」

『……いいのか?』

「これだけ騒いでいれば、バレずに人混みの中に溶け込めるでしょう。

それに……僕は国立防衛大学附属の生徒だから、学生証を提示すれば軍の関連施設とか艦内とかに入れるんです。

付き添いの人も含めて───」

 そう言ったその時、目の前の機体の胸部あたりにあったコックピットのハッチが開き、僚は驚愕した。

 日本人っぽい顔立ちをしつつ、銀髪碧眼の、まだ若い───というか、まだ幼さが残る背の低い女性だった。

「……あ、あの。

私、クラリッサ・能美(のうみ)・ドラグノフと申します。

離反前の階級は准尉でした。

訳あって、一応日本語も話せます……」

 コクピットから出てきた少女は、そう自己紹介した。

 日本語を話せる理由は名前を聞いてすぐ察することができた。親戚に日系人がいたのだろう。

 だが、僚にとっての一番の驚きは、言わなくても分かるだろうが、パイロットが女性だったことだ。

 というか、声質も口調も、機体から出た音声とはまるで違う、か弱そうな女性の声だった。あと、態度も凄くしおらしいというかおどおどしい。

「女の子、だったの……?」

 そう言えば、先程『きゃあっ!?』とか聞こえた様な気がした。

「変声器で声音を変えていました。

……女の人は、女っていうだけで、男の人に虐められるから、普段の声だと、聞いてもらえないと思ったから、です」

「……なるほど」

 男尊女卑、とか言うのだろうか。昔は日本にもあったらしいが。

名乗られたら名乗るのが流儀というものだろうからと、一応軽く自己紹介する。

「僕は有本 僚。さっきも言ったけど国防大附属生で───」

 と、遠くで爆発音が聞こえた。

 それに対し「げっ」と反応する。先程外した為か、戦闘機が自棄になってあちこちを攻撃している。もしくは彼女の脱露仲間が攻撃されているのかもしれない。

「───急いだほうがいい!

……って、降りれるかい?」

 そう言って、僚はクラリッサに手を差し伸べた。

「あ……あぁ!

す、すみません……!」

 そう言ってクラリッサは彼の手を取り、コクピットから外に這い出る。

彼女の足が地面に着く───彼女の頭頂が、身長がだいたい170cmくらいである僚の肩に届くかどうかというくらいに背が低く、彼は「小っちゃ……」と思いながらも言わないでおく───のを確認すると、

「よし、行こう」

「は、はい……。

えっと……あの、僚……?」

 呼びかけられ、反応する僚。

 するとクラリッサは、

「ありがとう、ございます……」

 そう、言ってきた。

「……どういたしまして」

 そう返して、二人は走り出した。


「ところでさ」

 走りながらも、僚はクラリッサに尋ねた。

「今、君に仲間って居るの?

この辺りには居なそうだけれど」

 そう聞かれたクラリッサも、走りながら答えた。

「えぇ、居ますよ。

……はぐれちゃいましたけど」

 その返答に、思わず「ダメじゃん」と突っ込んでしまう僚。その彼に対し、クラリッサも尋ねた。

「ところで、僚はどこに向かっているのですか?」

 聞かれた僚は「あそこ」と指差した。

「ここにある中で一番大きな艦だよ!

確か、艦の名前……《信濃》、だっけ?

あの中なら多分大丈夫!」

 その先には、一際巨大な戦艦の入渠している修理用ドックがあった。


その数分前に遡る。

「あいつ、まさかやらないだろうと思っていたらこれだ……」

『ま、まぁ……探す手間が省けた、と思えば……』

「……そうだな。

そういうことにしといてやろう……」

 それぞれ《T-34 ソルダット》を駆り、郊外の森林から移動しているW-02とW-03。ここからでも市内に鳴り響く敵襲警報が僅かながらも聞こえてくる。

 と、

「───ん?」

 W-02は何かが飛んでくるのに気付いた。

 あれは───東ロシア帝国空軍の凖新型爆撃戦闘機だった。

「……何であんなものが───」

 そう思って眺めていたら、

「───!!?」

 それが横須賀港付近の公園に爆撃を始めた。

「なんだあいつら!」

 そう第一声で、彼の戦闘機を非難した直後、

『───サーシャ、避けて!』

 いきなり《W-02》というコードネームではなく本名で呼ばれ、何事かと思った直後に爆発と強い衝撃が機体を揺らした。

 ミサイルで足元を穿たれたのだ。

「ぐわぁっ!」

『サーシャ!!?』

 W-03が叫ぶのとほぼ同時に、サーシャの機体が倒れる。

「くそ!

直撃ではなかったが……!」

 足元に当たっただけだったが、地面をかなり深く削ったその爆発により、機体は前のめりに倒れていた。

『大丈夫!!?』

「あぁ、なんとか───」

 言いかけたその時、

『───危ない!!』

「───!!?」

 既に追撃が来ていた。

 それを認識した直後、幾重もの爆発と衝撃が二人を揺さぶった。


《信濃》艦載機格納庫にて。

「───はぁ!?

会場がロシア軍の戦闘機に攻撃された!?

同じくロシア軍の《騎甲戦車》まで確認されている、って!!?」

 艦載機のチェックをしていた深雪が、その知らせに驚愕していた。

「一体何事よ、こんな国際問題に発展しかねないこと!

最近のロシア人何なのよ、意味わかんない!

頭の沸点まるで低すぎるわよ!!

あいつらの脳漿ウォッカで出来てるんじゃないかしら!!?」

 怒鳴ったところでしょうがないことを怒鳴り散らした。

『どうしますか?只今、身分的に指揮官は対空兵装管制官であるあなたとなるのですが……』

 艦内のCICにいる優里から通信が入る。

 実際問題、この艦は現在、艦長その他本艦の主要指揮官が不在だった。

 それに対し、

「決まってるでしょ!迎撃よ!迎撃!今やれば正当防衛行為になるわ!」

 深雪はそう叫ぶ様に言った。

『そうですか……』

 頭の沸点が低いのはどっちもどっちではないか、と言いかけた優里は、地雷を踏むと思い言わなかった。

『一応、対象に警告はしました。ですが、迎撃するにしても、どうしましょう。

現在、使用できる本艦の兵装であの距離に届くのは副砲と、一応主砲だけです』

 高角砲は右舷側の整備は完了していたが、今敵がいる方を向いている左舷側の整備が終わっていなかった。

 VLSもミサイルが装填されていない為使用不可。

 対空機関砲に至っては、使えるが飛距離が足りない為論外。

「副砲はあくまで対艦用の為対空用には元々不向きで、規格の一致する対空弾は現在装填されていない。

一方でこの艦の主砲は最上位機密レベルの代物だから使えないし───」

 そこでふと深雪は、横を見る。

 そこには、自分が開発した新型戦闘機《零》───正確に言えば、その試作機だが───があった。

「……《零》を使う───!」

 深雪の一言に、優里が戦慄する。

『い、いけません!

その機体には改善点が沢山抱えられているでしょう!?

開発者であるあなたがよく分かっている筈です!!』

「分かってるわよ!

でも誰かがやらなきゃならないでしょ!?」

 そう言って乗り込もうとする深雪に対し、

『しかも今データを確認しましたけれど、整備が済んでいるのは例の試作三号機だけでしょう?』

 優里がそう言うと、その言葉で一度、深雪は冷静になった。冷静に、あくまで冷静になったつもりで「……えぇ、そうよ」と返すが、『正気ですか?』と釘を刺される。

『ただでさえ《零》は、シュミレーションに於けるパイロットの墜落率最高、それも一番の原因がフレームの異常っていう欠陥機ですよね?

中でも酷かったのは三号機だったはずなのを私は覚えておりますが?』

「そんなの、所詮シュミレーションの結果じゃない!

これでも《試作三号機》は(アタシ)が作った十三機の中では最高の機体なのよ!

実際に飛んでみないとわかんないわよ!」

『えぇ、所詮はシュミレーション上の結果です。

ですから、大事なテストパイロットが死なずに済んでるのですよ?』

「…………っ!」

 言葉に詰まる深雪。決断は───

「……副砲を使って応戦。

当たらなくても牽制になればいいわ」

『……了解』

 優里が返し、通信が切れる。

 それと同時に深雪は、衝動的に壁を殴り付けた。


 《信濃》艦橋左舷部に五基装備された15.5cm三連装副砲が電気のマニューバを砲口から散らせながら弾丸を放った。この艦の副砲はレールガン───電磁力による物体の加速を利用した火器───になっている為、砲口から電光が迸ったのだ。

 あくまで威嚇の為の牽制射撃───というかそもそも、副砲とはあくまで対艦用装備の為、狙ったところで当たる訳などない。


《信濃》CIC。

「くっそ!全然当んねぇ……!」

 武彦が吐き捨てる。

勿論、当たる訳なかった。そして、砲撃を回避した敵戦闘機はミサイルを《信濃》に向けて放ってきた。

片舷計二十基の対空機関砲の内、一基が弾幕を張りミサイルを空中で撃ち落とす。

「《三式弾》があれば……!!」

武彦は空を制する戦闘機を睨む。

《三式弾》とは艦砲から対空迎撃用に開発された小型焼夷弾と小型榴弾の混合散弾だ。正式名称《三式対空榴散弾》。近距離での対空迎撃はミサイルや近接防御火器システムがその役割をする変わり、遠距離の航空機動部隊を迎撃・殲滅する際の対空兵装として重宝される。

《信濃》の副砲でも15.5cm砲の規格品なら使用できたが、現在一発も装填されていない。それどころか対艦用の徹鋼弾である《一式弾》しか装填されていなかった。

優里も武彦も、苦戦を強いられていた。

今までの艦長含む指揮官のほとんどは定年で退役、一部は転属など別の理由で、それぞれ艦を出ていった。それでいて、今日の《観艦式》に合わせて新任指揮官含む新しい搭乗員を迎え入れる予定だったのだ。

現に、本来は艦長やレーダー管制官、航海長、砲雷長、主砲砲手なども居るはずであるCICには優里と武彦の二人しかいない。

それでいて、武装という面で決定打が無い。それが一番の痛手だった。

その状況に於いて、艦載機格納庫からとあることを知らせる信号が来た。

「え───!!?」

その信号が来たこと自体、優里は理解できなかった為に、

「あぁもう、一体何考えているのよあの子は!!」

愚痴りながらも、彼女は艦載機格納庫へ通信を入れた。


若干時間が遡る。

乗艦許可を貰い、何とかして二人で艦内に避難できた僚とクラリッサは、艦内で迷っていた。

多分艦の後ろの方だろう、と思う。

しばらく進んでいるが、壁に当たらない。

「どれだけ広いんだ、この艦……」

そう愚痴りながらも、僚はクラリッサと艦内を歩き続けた。

すると、やや暗くなっている広いがらんどうにたどり着いた。

「……何だ、ここ?」

思わず呟いた僚。

「ここは……艦載機の、格納庫……?」

格納庫か、工場に似た造りになっていた。

僚の言葉に対して

「え……戦艦が艦載機を載せてるのですか?」

と、クラリッサは返した。

そういえば、と僚は、

(そうか、クラリッサは海軍じゃ無いから《着弾観測射撃》とか知らないのか……)

と思い、それについて話そうとした。

その時、

「誰!!?」

急に、怒鳴り付けられる様な声が響いた。

思わず、その方向を向く。

そこには、一人の女性の姿がいた。

その顔を視認した僚は、一瞬「───えっ?」と口から漏れた。

その女性は、とある少女───自分がかつて、大人の都合で離れ離れになってしまった幼馴染みの少女───に、似ている気がしたからだ。

「……ふ───!!」

その名前が一瞬口から出かけ、

(───……いや、人違いだろう。

……多分。

彼女が、こんな艦の中に居るはずがない)

そう考え、僚は

「すみません。避難していたら迷ってしまいまして……」

すぐにそう返してきた。


《信濃》艦載機格納庫にて、

「……《零》……ごめんね……。

私が、しっかりしないから……」

深雪は、一人呟いた。その頬を涙が伝っている。

無理もない。

実質的に、自分の努力の成果を否定された様なものだからだ。

技術者としてもそれは辛いし、悔しい。

だが、どうしようもなかった。この手の職、技術系の職人は、情で動いてはいけないからだ。ましてや軍属ともなれば尚更。

少女は、ただ泣くしかなかった。

その時、

「ここは……艦載機の、格納庫……?」

聞き覚えのない男の声が聞こえてきた。

「え……戦艦が艦載機を載せてるのですか?」

もう一人、女性の声も聞こえる。

「───誰!!?」

急いで顔を拭き、深雪は問いかけた。

泣き出していたこともあって大分上擦った声になってしまっていたが。

目の前には、穏和そうな少年と、銀髪碧眼の少女の姿があった。

その少年が、一瞬驚愕した様な表情を見せ、何やら「う」と言うかの様に口を動かした。

が、すぐに封じ込める様に黙り込んだ。

「う?」

何を言いたかったのか気になったが、

「すみません。避難していたら迷ってしまいまして……」

すぐに、少年はそう返してきた。

すみません、と言いたかったと言うには少し無理がありそうだったが、深雪は気にしないことにした。

だが、

「避難って……貴方達、民間人!?

何でこんなとこいるのよ!!?

軍関係者以外の立ち入りは禁止の筈よ!!!」

「一応乗艦許可は頂いたので」

「……貴方、国防大の附属生ね。

何故この艦に乗ったのかは良いとして、何故この区画に入ったの?」

深雪が尋ねると「それが……」と歯切れ悪そうに少年は言った。

「艦内で迷って……」

聞いた瞬間、呆れて「あのねぇ……」と愚痴が溢れてしまう深雪。と、

「あ、あの……?」

少年の隣にいた少女が少年を呼ぶ。

「どうしたの」

少年が反応すると「あれ……」といって、少女はある方向を指差した。

深雪の方───より正確に言えば、深雪の後ろにあるものを。

「あ───こ、これは!」

深雪が焦って両手を突き出した。

少女が指差したそれは、変わった形状の軍用航空機の一機。

小型、とはいえその小柄な機体に搭載するには大型な砲身を搭載し、機体下部には箱形のユニットが一つと、アーム状の機械の様なユニットがそれぞれ装備されていた。

まだ塗装はされておらず、金属らしい鉄灰色をしていた。

「───戦闘機!

なんで使わないんですか!?」

ほとんど反射的にだろう、少年がそう聞いてきた。それに対し「バレたからもういいか」と冷静さを取り戻した深雪は「……欠陥機だからよ」と返した。

「シュミレーション上でだけど、フレームが飛行中に上手く安定しないのよ」

「フレームがって……」

フレームが安定しない。それは確かに致命的な欠陥だった。

「どういう機体構造してるんですか?

見た限り《V-TOL(垂直離陸型)》に見えるのですけれど……」

そう言いながら、機体の主翼部に変わった形状の砲身が装備されているのが気になって、そこに視線を向けた。

「貴方、分かるの?」

「まぁ、一応……」

機械工学専攻だし、と追加する少年。

「……なら、話が早いわね。

フレームが安定しないだけでなく、可動式のレールガンが───」

「この砲身レールガンなんですか!?

何でそんなもの戦闘機に……」

「……訳あって載っけたのよ」

二人の会話の中、一人だけ取り残される銀髪の少女。話についていけてないのかポカンとしている。

「結果的に重量が嵩張ったせいでバランス悪くなって、レールガンも可動式のアームに接続されているから砲身の向きを変えられるけど、飛行中は前に向けて撃たないと反動でバランス崩すし、最悪よ。

おかげでコンペにも落ちてパイロットも決まってないし───」

そこまで聞いた少年は、深雪に対してふとしたことを言った。

「……乗ってみていいですか?」

その一言に深雪は戦慄する。

「───はぁ!?あんた正気!!?」

そう言う彼女に対して「乗ってみなきゃわからないでしょう?」と言った少年に、深雪は「馬鹿言ってんじゃないわよ!!」と罵った。

「この《零》はねぇ、シュミレーションでテストパイロット何人も殺してんのよ!?

仮想空間の空ですら誰一人並の航空機みたいに飛ばせたことないのよ!?

その結果のせいで、翔んだことなんて一度たりともないのよ!?

あんた死にたいわけ!!?」

二人が知ったことではなかっただろうが、深雪は先程自分が乗ろうとした際、オペレーターが自分に言ってきたことをそっくりそのまま彼にぶつけた。自分で言ってて、言葉が自分の心に刺さり、涙が溢れてくる。

溢れた涙が頬を伝う。

対して彼は、

「信じてやれば良いんですよ」

そう言って、肩に架けていたリュックを下ろしながら、機体に近づいた。

「───え……?」

「『ただ信じてやれば良い。

そうすれば、機械は応えてくれる』」

機体の間近に立ち、そう言って機体の胴体部を撫でた。

「僕の好きな言葉です。

僕も、その通りだと思っています」

深雪は、彼の言った言葉を知っていた。

それに、彼女は彼に対して、何か、懐かしい何かを感じていた。

「……あんた……名前は?」

彼女に尋ねられ、彼は振り向き名乗った。

「国立防衛大学附属高校岩瀬校舎 陸軍部工兵科二年の有本 僚です」

「───っ!!?」

聞いた深雪は、唖然とした。

「あ……有本、僚……」

彼の名前を、無意識に復唱してしまう深雪。多分、彼らには聞こえていない。

そして、若干俯いて少し考え、

「……わかった。

パイロットの仮登録申請、しておくわ」

キリッとした態度でそう言い、手元の端末を操作し始めた。


「え…………?」

散々反対していたはずの女性が急に態度を変えた為、僚は一瞬戸惑う。

「……ありがとう、ございます」

「ただし、条件を二つ提示するわ。

……聞いてくれる?」

彼女がそう言いながら端末を操作していると、コクピットハッチが開く───機首下部にある箱形のユニットがどうやらコクピットブロックの様だ───。

そこがコクピットだったのかと思うのと同時に、彼女の言う「二つの条件」が気になった為、僚は「……はい」と相槌を打った。

すると彼女は、

「コクピット右上にあるレバー、絶対に引かないで」

と言って彼女はコクピット内に指差した。確かにその位置にレバーが確認できる。

「……分かりました」

その後「それと……」と歯切れ悪そうに何かを言いかけた。

もう一つの条件についてだろうか。気になり、彼が「はい……?」と聞き返すと彼女は、

「絶対、無事に帰還しなさい。

欠陥機だとか言われても私の機体なんだから、壊したりなんてしたら承知しないわよ!」

そう言った。それに対して、

「……了解です」

応えた僚はコクピットに入り込み、シートに座る。

そして、僚はコクピットハッチを閉じた。


《信濃》CIC。

オペレーター席に座る優里はかなり焦っていた。

「あぁもう、一体何考えているのよあの子は!!」

愚痴りながらもコンソールを操作する。

『《零》を起動させる』

そう、通知が来たからだ。

しかも、パイロットは附属生とはいえ民間人。前代未聞もいいとこである。

相手方が通信に応じ、回線が繋がった。

繋がったことに一瞬安堵した直後、唐突に叫ぶ。

「《零》を出すなんて一体どういうことですか!!?」

『このままじゃ決定打に欠けるでしょ』

「しかも、有本君って誰ですか?

誰を乗せたというのですか!?

あの《空飛ぶ棺桶》に!!?」

《空飛ぶ棺桶》とは、仮想空間の中でさえ墜落(撃墜ではない)しまくり、パイロットを葬っていた様から軍上層部によって《零》に付けられていた渾名だった。

この渾名を付けられたことは深雪にとって完全にトラウマとなっている。

それを刺激された為か、

『失礼ね!!

こんな機体でも彼は信じてくれたわよ!!

彼ならやってくれるわ!!』

唐突に、吼える様に返してきた。

「よく信じられること!

良くてもどうせ的になるのが精一杯よ!」

敬語も使わずに吼え返した優里。普段は誰にでも敬語を使う優里だったが二人は同期だったこともあり、たまに起きる“こう言うとき”に敬語を使わなくなる。

『何てこと言うのよ!!!

彼はねぇ───!!!』

「あぁぁぁぁぁ───もう!!!

彼、彼、彼、彼、って!

よく知らない男性相手にそこまで信頼寄せられるわね!!!

昔っから男子に告白される度にその人が鬱発症するかマゾに目覚めるくらい盛大に罵って振ってきたあんたが、いつからそんな尻軽になったわけ!!?

暴吹雪女(ブリザード)》の異名は過去の栄光ですか!!?」

『彼氏欲しがっていたくせに怖すぎて男子どころか女子からもあまり近づかれなくて《対男子防空火器群(ハリネズミ)》とか呼ばれていた貴女に言われたくなんかないわよ!!

ってか、さっきから私のトラウマ弄るの止めてくれない!!?

妙にストレス溜まるんだけど!!!』

「はぁ!!!?

あんただってさりげなく私のトラウマ弄ってるじゃない───ってか途中で勝手に話変えんな!!!」

『とにかく、責任なら私が取るわ!!

ついでに彼にも半分くらい取ってもらうけどね!!!』

通信が切れる。

「全く……、どうしてあの子ってあんな強情なのかしら……」

憂鬱そうに一人ごちる優里。

一瞬、副砲砲手席にいた武彦と目が合った。

「あ……」

一気に赤面する優里。

それに対して武彦は一言、

「まぁ、何ていうか……。

その……ドンマイ……」

とだけ伝えた。


「コクピット全体を装甲で被って、内壁全面にディスプレイを張ってるのか。

多少狭いけど、安心感は持てる」

欠陥機と呼ばれた機体のコクピットに乗り込んだ僚は、深雪の指示通りにコクピット内部電灯を付けた。

その時、とあることに気付き「あれ……?」と呟く。

「そういえば、このコクピット……」

コクピットの中は特殊な形状をしていた。

特に操縦桿。幾つものボタンが備わったレバー状のものが壁側の左右に一つずつ、計二つ備わっている。

これではまるで、

「戦闘機というより、《騎甲戦車》みたいだ……」

そう思いながらも彼は、深雪の指示に従いながら、機体を起動させた。


『《零式TOKM艦上戦闘機》試作型三号機


SISTEM ALL GREEN


TAKE OFF STANDBY』


目の前にあるディスプレイにそう浮かび、発進準備が完了したことを告げた。

「これが《零》の正式名か。

えっと、零式……とくむ、艦上戦闘機……?

……まぁ、ややこしいから《零》でいいか」

と言いかけ、

「……いや、《試作三号機》の方がいいか。

『三号』ってことは、最低でも一号と二号は居るんだろうし」

そう言って、手渡された紙媒体式簡易マニュアルという名のメモ用紙を元に機体を作動させる。

コクピット内が、メインモニターの明かりによって明るくなった。エレベーターによって機体が《信濃》の後部飛行甲板上に運び出されていた為に外の様子が確認できる。

街はかなり荒れていたが、運が良かったのか、周りに敵戦闘機は居なかった。

「《試作三号機》、発進準備完了」

深雪に対してそう伝えると『カタパルトに機体を持ってくわよ』と返ってきた。それに対し僚は咄嗟に、

「え、でもこの機体って確か《V-TOL》じゃ───」

と返しかけたところ、

『いいから私の指示に従う!』

耳が痛くなる程の声音で思いっきり怒鳴られた。心無しか機嫌悪そうで若干怖かった為、僚は「は、はいっ!!」と返し、彼女に従って機体をカタパルトに運ぶ。

カタパルトに機体がセットされ、ようやく発進準備が整った。

『これで良いわ、行って!』

先程よりは上機嫌そうな声が聞こえた。一瞬ホッとした僚は「了解しました」と返し、吼えた。

「有本 僚!

《試作三号機》、行きます!」

彼の掛け声に合わせて、戦艦《信濃》の後部飛行甲板上に装備されたカタパルトより射出された一機の戦闘機が飛び立った。


読者の皆様、どうも始めまして。

OH-です。

この場を借りて、軽く自己紹介させていただきます。

高校時代文芸部だったこともあり趣味で小説を書いています。

まぁ、文芸部にいた当時は二次創作ばかりだったのですが。

二次創作ばかりというか、実質この作品が初のオリジナル作です。


という訳で、本題に入ります。


この度、『紅蓮の艦隊 -the Great Battleship of Scarlet Fleet-』をお読みくださって、まことにありがとうございます。

元文芸部ながらボキャブラリ不足で、表現力がいまいちなところがあり、他にも色々至らぬところがありますが、今後とも本作とこのOH-を、どうかよろしくお願いいたします。


後書きついでであれなのですが、次回予告です。



次回予告


混乱する横須賀

その蒼穹を駆ける《零》は

真の姿を晒し出す


次回、紅蓮の艦隊 -the Great Battleship of Scarlet Fleet-

第二話:《零》、覚醒

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