幼稚園児になろう! 2
ー4月20日月曜日ー
窓から、まだそれほど強くない光が部屋に差し込む。外にある電線に止まっている鳥のさえずりが聞こえたかと思うと、6時30分に設定されていたアラームが鳴り響いた。
「___ぁあ、もう朝か」
目が覚めて、そう呟くと間も無く昨日のことを思い出して、はっとなった。
あれは本当に夢だったのだろうか。しかし、夢であったとしても現実的にはあり得ない話だ。そんなことが起こるはずはない。自分の心にそう言い聞かせ、恐る恐る鏡の前へと向かう。
しかし、真っ直ぐ立ったはずなのに、いつもとは明らかに景色が異なる。天井は東京ドームの屋根の様に高く見え、スリッパは怪獣が履くような大きさに感じた。もう、鏡を見るまでもない。身体は小さくなったままだ。
「……これも夢なのか?さすがに同じ夢を2回も見るものなのか?」
定番だが、頬をつねる。痛い。ただただ痛い。永江は確信した。
「夢じゃない。夢なんかじゃない…!」
今日からまた平日が始まる。大学に行かなくてはならないし、それなりに多忙なのだ。まさか、「ある日突然幼くなってしまったので、何もできなくなってしまいました。」なんて言えるはずがない。どうしたら良いんだ、何がどうなっているんだ、焦るあまりで頭の中が整理できない。小さな足であたふたと部屋の中を歩き回る。
すると、いつもより広い部屋にチャイムの音が響く。そうだ。今日は同じ研究室の友達と一緒に行く予定だった。こんな時間に、起こしに来てくれたのだろうか。もしや、朝飯を作りに来てくれたのだろうか。あいつ、俺と同じ一人暮らしだけど、家事が凄く上手い。卒業したら、是非とも嫁に来てほしい。まぁ、男だけど。
急いで玄関に行き、ドアを開けようとする。しかし、ドアノブが意外と高い位置にあり、ドアは重い。ドアを開けるだけで一苦労だ。
なんとかドアを開けたその先には、予想通りの男・石井真宏が立っていた。
(さて___この状況をどう説明しようか)
なんとなく石井の顔を覗きこむが、特に気にしている様子はない。何か言わなくては。そう思う永江だったが、
「よう!元気にしてたか?」
あまりに動じない石井の様子に、少し違和感を感じていた。