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踏み台勇者のテンプレ的日常  作者: ちとし
1章:踏み台勇者と成り上がり主人公
8/12

覚醒:異世界救世主伝説

この小説は「野望成就のために、『踏み台勇者』が主人公(成り上がり)をわっしょいするお話」と言ったな。あれは嘘だ。


2014/10/26 敵ステータス値修正

「っ!!」


 突如、俺の【探知】スキルが巨大な魔力反応を捉えた。

 【探知】スキルを保有している騎士達も、俺と同様に焦りを見せている。

 俺は周囲を見渡したが、敵の姿はどこにもない。しかし、反応はどんどん近づいてくる。


「上だ!」


 誰かがそう叫ぶと同時、俺は空を見上げた。そこには、この世の物とは思えないほど不気味な姿をした生物がいた。

 全身を覆う紫色の皮膚。胴体から生える象のように太い八本の足。うねうねとミミズのように激しくくねる三本の尾。背中から生えた巨大な両翼。そして、キリンのような長い首の先にある大きな一つ目。

 『ソイツ』の姿を見た瞬間、俺の全身に悪寒が走った。見た目の気持ち悪さもあるがそれ以上に、俺の【直感】スキルが『ソイツ』の放つ得体の知れない雰囲気に反応しているのだ。

 『ソイツ』は危険だと。


「おいおい、何の冗談だこりゃ」

「……嘘だろ?」

「何でこんな所にいるんだよ!?」


 周囲が騒然とする中、『ソイツ』は動き出した。

 浮遊する『ソイツ』の足元に複数の魔方陣が形成される。俺は敵の攻撃に備え身構えた。


「いかん!全員この場を離れろ!」


 リーシャは叫ぶが遅かった。次の瞬間『ソイツ』は空中から姿を消した。そして、消えたと同時に大地が大きく揺れた。


「うぉっ!?」


 突然の大揺れに俺は手をついた。

 衝撃と共に舞い上がった砂埃で敵の姿はまったく見えない。だが危険に反応する【直感】スキルが『ソイツ』の位置を教えてくれる。

 俺は風魔法で砂埃を吹き飛ばし、『ソイツ』の方を見据えた。


「…………」


 『ソイツ』の足元には大きなクレーターが出来上がっていた。

 どうやら今の大揺れは、『ソイツ』が地面に急降下した時に発生したものらしい。


「お気をつけください勇者殿、奴は非常に危険です」

「あれは何なのですか?」

「奴の名は『ジェバディエグ』。生きた伝説と言われる魔物です」


 『ソイツ』の名前は『ジェバディエグ』と言うらしい。

 何故生きた伝説と言われるのか個人的には気になるところだが、今はそれどころではない。

 今は一刻も早くジェバディエグを倒さなければ。早く倒さないとよくないことが起こる。何故かは分からないが、そんな予感がする。

 俺はジェバディエグに向かって【雷光】を放った。


「私も……【雷光】!」

「【邪雷光】!」


 西条と大川も俺に続いてスキルを発動させた。

 三つの【雷光】は激しい光とけたたましい音を響かせながらジェバディエグへと飛来し、直撃した。


「…………」


 だが、ジェバディエグは【雷光】をものともせずにいた。

 ジェバディエグは地面にめり込んだ足をゆっくりと引き抜き、クレーターを昇り始める。


「クソッ、ざけんじゃねえ!」

「ちょっ、真二!」

「マジヤバいって!」


 大川は一人でジェバディエグに向かって飛び出した。

 大川は剣に紫電を纏わせ、今まさに切りかからんとした。その時だ。大川の体が突然くの字に曲がる。

 大川の腹部には、ジェバディエグの尾がめり込んでいた。


「ごっ!?」


 大川は大きく吹き飛ばされ、地面を二転三転した。やがて大川の体は停止したが、大川が起き上がることはなかった。

 何だ、今の攻撃は。一体何が起こった。俺の強さは他より頭三つほど抜き出ていることは自覚している。さっきの戦いでも、雨霰あめあられのように襲い来る魔物を相手に傷一つつくことなく捌ききって見せた。

 しかし、今のジェバディエグの攻撃は一切見えなかった。見えたのは尾の先端が大川の腹部に直撃した所のみで、いつ攻撃したかはまったく分からなかった。


「うあ……」

「だ、ダメだ……」


 勇者の一人がやられたことで周囲に動揺が走っている。

 いけない。このままだと騎士達が戦意を失うのは時間の問題だ。恐怖が伝染する前に、俺が奴の攻撃を食い止めなければ。

 俺はジェバディエグの尾を注視し攻撃に備えた。しかし、それでも見えない。気付いたときには既に、ジェバディエグの尾は消えていた。


「ギャッ」

「ォア」

「ヒッ」


 短い悲鳴を残して、三人の騎士が姿を消した。数秒後、俺の耳に何かが落下する音が聞こえた。

 もう魔力の温存だとか、周囲の影響だとか気にしている場合じゃない。今ここで全力を出さないと全員やられてしまう。


「プラズマホーン!」


 俺はジェバディエグにプラズマホーンを放った。

 突き刺さるような高熱が肌を焼く。周囲にも同じような影響が出ているだろうが、今は緊急事態だ。許してくれ。


「俺が時間を稼ぐ!全員逃げろ!」


 俺は周囲にそう叫び、続けて魔法を放った。

 周囲は一斉に退避を開始した。リーシャが何か言っていたような気がするが、対応せずに魔法を連発しているといつの間にかいなくなっていた。

 よし、後は魔力が尽きるまで上級魔法を放つだけだ。


「ギガエッジストーム、タイダルウェイブ、フレアフォース、グラウンドランス、サバイブソニック、アイアンメテオ、レッドエクセキュート、レイジングアーク」


 俺は思い出す限りの上級魔法を唱え、ジェバディエグに放った。


「…………」


 しかし、ジェバディエグは魔法を受けながらも尾を伸ばしてくる。俺はジェバディエグの攻撃を辛うじて受け流した。尾は俺の右後ろの地面に突き刺さった。

 俺は咄嗟にジェバディエグの尾に手を伸ばした。【解析】で敵の詳しいステータスを知るためだ。




名前 :ジェバディエグ

レベル:2645


称号 :ダンジョンの王 深淵に潜む者 生きた伝説

種族 :魔獣王族


体力 :3074575/5674575

魔力 :4634220/4634564

攻撃 :647567698

防御 :435738689

敏捷 :25455665


スキル:【魔法 Lv102】【飛行 Lv91】【気配遮断Lv202】

    【自動回復 Lv530】【魔法耐性 Lv453】

    【状態異常耐性 Lv550】【王の風格LvXX】




 何だこれは。どこからどう見ても、俺の手に余る相手じゃないか。

 オークを一撃で戦闘不能にする【雷光】を三発受けて、普通の魔物なら跡形も無く消し飛ぶ上級魔法を連続で受けて、それでもなお体力を半分以上残している。

 これは何の冗談だ。いや、何かの冗談であってくれ。こんな奴、俺のステータスでは逆立ちしたって勝てやしない。


「オゴッ!?」


 気付けばジェバディエグの尾が俺の腹に突き刺さっていた。

 想像を絶する痛みに俺は悶絶した。右手から剣は零れ落ち、体を丸め、激しい痛みにのた打ち回る。マズい。この状態はマズい。このままでは更なる攻撃を受けてしまう。

 俺は涙がうっすらと浮かぶ瞳で敵を見た。丁度そのとき、ジェバディエグの尾が消えた。


「ぐっ!」


 俺は我武者羅に体を起こした。敵の攻撃は俺の右側を通り過ぎ、俺がもといた場所に突き刺さった。


「ハァ……ハァ……頼むぞ、主人公」


 俺は【精霊術】を使い痛みを和らげた。

 『俺』に勝機はない。それは揺るぎようのない事実。だが『俺達』の敗北が決まったわけではない。俺達にはまだ最後の希望が残っている。この場にいない最後の勇者が必ずコイツを倒してくれる。

 俺に出来るのは、お約束が起こる事をを信じてひたすら時間を稼ぐことだけだ。


「ふっ!」


 俺は【加速】で剣を素早く拾い、ジェバディエグの懐へと潜り込んだ。そして、下から勢いよく剣を振り上げる。だが、刃は通らない。剣は皮膚の表面を下から上へと滑りぬけた。

 次は滑らないよう垂直に切りつける。俺はジェバディエグの左前足を真横から切りつけた。刃はまたしても通らない。剣は皮膚を切り裂けず、筋肉の硬い弾力で押し返された。

 敵の防御を貫通する【覇撃】も発動しているはずなのに、敵には一切傷がつかない。レベルが、ステータスが圧倒的に違いすぎるのか。


「だったら!」


 俺は【雷光】でジェバディエグの足元を攻撃した。

 ぐらり、と態勢を崩したジェバディエグの体は右側へと大きく傾いた。皮膚を切り裂けないのであれば、攻撃が通りそうな場所はひとつしかない。ジェバディエグの長い首の先にある目玉だ。

 皮膚に覆われていない目玉であれば、剣が通る可能性は十分ある。


「くらえっ!」


 俺は大きく跳躍し、落ちてくる目玉を切りつけた。


「!!!!!」


 刃は目玉に傷をつけた。倒れたジェバディエグは痛みにのた打ち回っている。

 チャンスだ。敵が痛みに悶えている今、俺の存在が希薄になっている今が攻め時だ。

 俺はジェバディエグの目玉に再び切りかかった。


「っ……!」


 斬りかかろうとした瞬間、俺は信じられない物を見た。俺がジェバディエグの目玉に傷をつけたのはほんの数秒前だ。しかし、今目の前にあるジェバディエグの目玉には俺のつけた傷がない。

 数秒のうちに、ジェバディエグの傷は完治していた。


「がはっ!?」


 俺の右腕に強い衝撃が走った。俺の体は宙を舞い、受身を取れないまま地面に叩きつけられた。

 肩には鈍い痛みが残っているが、肩から下には痛みがない。俺は右腕へと目を向けた。腕がおかしな方向を向いている。俺の右腕は完全に折れているようだ。


「あがっ!」


 倒れ伏す俺に、ジェバディエグは追撃を仕掛けた。腹部の痛みがぶり返し、俺は再び体を丸めた。

 ああ、くそっ。何をやっているんだ主人公。早く来てくれ。これ以上は本当に身が持たない。


「やめろぉおおー!」


 俺の祈りが僅かに届いたのか、主人公ではなく主人公のヒロイン達が俺の下へと駆けつけた。

 西条は俺に治癒魔法をかけ、島田はジェバディエグに剣を向けている。彼女達の行動は勇敢ではあるが、同時に無謀でもある。俺のステータスでも太刀打ちできなかった相手だ。彼女達が正面から戦って勝てるとは到底思えない。


「に……げ…………」

「大丈夫、羽追は休んでて」

「すぐに治してあげるから」


 ダメだ。うまく言葉を口に出来ない。早くしないと攻撃が始まってしまう。俺は必死に口を動かすが、呼吸が乱れているせいで声がしっかりと出てこない。俺の言葉は二人に届かなかった。

 そしてついにその時は来た。ジェバディエグの尾がゆらりと動き、消えた。


「ッ!!」


 次の瞬間、俺は世界がスロー再生のようにゆっくりと動いて見えた。ジェバディエグの尾は着実に島田の元へと迫る。だが、島田はピクリとも動かない。攻撃に反応できていないようだ。

 俺は痛みを堪えながら起き上がり、島田の元へと走った。自分の動きも遅くなっていて少し動きづらいが、攻撃が島田に当たるより先にたどり着けそうだ。

 俺は棒立ちする島田に体当たりをした。俺と島田の体がゆっくりと傾き、ジェバディエグの尾が横を通り過ぎる。

 倒れた衝撃が全身に走ると同時に、世界の速度は元に戻った。


「えっ、羽追!?なんで……」

「羽追君、いつの間に!」


 二人は俺の動きに驚いているみたいだが、今はそんなことに驚いている場合じゃない。

 今のは本当に偶然だ。世界がスロー再生に見えたのも、敵の攻撃より俺の体当たりが早かったのも、全て偶然。

 次はこうはいかない。偶然はそう連続して起こらない。だから、早く二人を逃がさないと。


「に、逃げろ……俺達じゃ……こい、つに……勝て……」

「ちょっと羽追、しっかりして!」

「いいか……早……逃げ……」

「羽追!羽追!?」

「ッ!!」


 俺の【直感】スキル身に迫る危険を感じ取った。【直感】スキルに従い、俺は咄嗟に島田を抱きしめた。そして、背中に強烈な衝撃を受けた。

 俺達はゴロゴロと地面を転がった。どうやら今の攻撃は俺にとって致命的なものだったらしく、立ち上がろうとしても体に力が入らない。島田も、今の一撃で気を失ったのかぴくりとも動かない。


 ジェバディエグの前には西条だけが取り残された。


 ジェバディエグはゆっくりと西条の前に歩を進める。西条は必死に立とうとしているが足が思うように動かないのか、その場で足をばたつかせるだけで立ち上がれない。

 そして、いよいよ自分の最後を悟ったのか、西条は両手で自分の頭を抱え叫んだ。


「助けてユキ君!」


 ステータスの高い『踏み台勇者』は倒れ敗北濃厚。ヒロインは絶体絶命のピンチ。叫ばれる主人公の名前。となると、この先のお約束は一つしかない。


「……はぁ……遅いんだよ」


 よかったな西条。どうやら、お前の願いは本当に叶うらしいぞ。

 俺の絶望が希望へと転換したのは西条が叫ぶ少し前、【探知】の範囲内に巨大な魔力反応がもう一つ浮かんだ時だった。

 巨大な魔力は目にも留まらぬ速さでこちらへ接近し、そしてジェバディエグと西条の間に割って入った。


「オオォオォオオオッ!!」


 巨大な魔力の持ち主は雄たけびと共に拳を振るい、ジェバディエグの体を吹き飛ばした。

 巨大な魔力の持ち主と西条は向き合い言葉を交わしている。ここからではうまく聞き取れないが、俺には大体予想が出来た。

 巨大な魔力の持ち主が誰なのかを。


「ユキ君!」


 西条が「ユキ君」と呼ぶ相手は一人しかない。緒方幸利おがたゆきとし。西条の幼馴染にして、この物語の主人公。

 なのだが、少々様子がおかしい。ヒロインのピンチに駆けつける主人公。それ自体はお約束の展開だ。緒方も無事覚醒したようで、遠巻きからでもその様子がよく分かる。それはもう、ものすごく。

 俺がおかしいと感じたのは、その覚醒した姿だ。


「ユキ君、敵が!」


 俺はその姿に見覚えがあった。以前インターネットサイトの広告で何度か見かけて興味を持ったことがある。


「ダメ!逃げてユキ君!」


 高校のクラスメイトの家でその漫画を読ませてもらったこともあった。初めて読んだ時の衝撃は未だに覚えている。

 あの姿は、あの独特な格好は間違いない。


「あぁーたたたたたたたたた!!ほぉあたぁ!!」


 あれは、世紀末の男!!


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