掃討:踏み台勇者の活躍
思いのほか長くなってしまったので分割しました。
成り上がり主人公は次回登場です。
転移ポートへは何事も無く到着した。
転移が終了し、後はアヴァンテに向かうだけとなったところで俺は行動を起こす。
俺はミリーに「戦場の様子を見てくる」と告げ馬車を降り、そして荷馬車を扱う騎士達にも同じ言葉を発した。
「リーシャ様がいるのです。戦闘はとっくに終了していますよ」
騎士達はリーシャを信頼しているため、何も疑うことなく荷馬車を進めようとする。だったら、こっちもリーシャで応戦だ。
「ですが万が一と言うこともあります。私はリーシャ様と約束したのです。あなた方を無事送り届けると」
俺もリーシャの名前を出し、騎士達の信頼を逆に利用することにした。
『リーシャの頼み』に反応した騎士達は、しぶしぶではあるが従ってくれた。ここまではシナリオ通り。後は戦場の様子次第だ。
俺は【加速】を使いアヴァンテへと走った。道順は往路で見た風景から逆算できる。後はその風景が見える道をひたすら進むだけだ。
「あ……」
そうだ。以前読んだ小説の中でこういった技があった。それは主人公の一部が使用していた技で、移動手段としてもよく使われていた。
「雷で加速出来ないかな?」
自分の体に雷もしくは電気を纏わせ光の速度で移動するという謎の理屈から成る技だ。
主人公が戦闘中にその技を思いつき、ぶっつけ本番で成功させ敵を倒すという展開はよく見かけた。
【雷光】のスキルを持っている俺ならば、その技を再現できるのではないだろうか。
俺は一度立ち止まり、魔力を全身にうっすらとなじませた。そして【雷光】のスキルで魔力を雷に変換。
果たして、結果はどうなるか。
「アガガッガガガガ」
俺は感電した。
纏った魔力が全て消費され【雷光】の発動が停止すると同時に、俺は地面に倒れ伏した。
そうだった。この世界にはお約束とファンタジーが溢れているが、フィクションではなく現実だ。全身に雷を纏えば感電して当然だろう。
魔法やスキルが生活の一部になりつつあるせいか、俺の感覚が麻痺していたいだ。普通に考えて人間の体が雷を纏えるはずはないのに。
待てよ、もしかしたら俺が『踏み台勇者』だから失敗したという可能性も……。いや、今はそんなくだらないことを考えている場合じゃない。
いずれにせよ、俺は今のままアヴァンテを目指すほかないようだ。
「……急ぐか」
俺は軽くしびれる体を起こし【加速】でアヴァンテを目指した。
◇
予想外。目の前に広がる光景を見て、俺はそう思った。
戦は俺の予測を遙かに上回る事態に発展していた。この近辺には強い魔物が発生するダンジョンは存在しない。知らせを受けたときも、先の戦闘と同じで数の暴力に圧倒されているだけで、敵自体は大したことないと思っていた。アヴァンテ騎士団がいれば大丈夫だと勝手に思い込んでいた。
まさか、こんなことになっているなんて思ってもみなかった。
「完全に囲まれている」
アヴァンテの騎士達は敵の大群に追い詰められていた。
敵の侵攻は騎士達の防衛陣が辛うじて抑えているが、それが破られるのも時間の問題だろう。
広大な草原は幾千もの魔物で埋め尽くされ、空にはガーゴイルのような姿をした魔物や巨大な鳥の姿をした魔物がひしめき合っている。
こいつらは一体どこから現れた?とてもじゃないが初心者が相手に出来る魔物のようには見えない。俺がいない間に何が起こったんだ。
『佐竹、聞こえるか佐竹!』
俺は念話スキル【ファイ】で佐竹に呼びかけた。しばらくして、佐竹から返事が帰ってきた。
『バーローッ!いきなり大声で呼びかけんな!びっくりしただろっ!』
『あ、すまん。急いでたから』
怒る佐竹をなだめつつ、俺は現状に至るまでの経緯を聞き出した。
『ビビったぜ。いつものダンジョンからいきなり見たことない魔物がぶわーって飛び出してきてさ』
『他の奴らは大丈夫なのか?』
『まあ、異変が起こったのはダンジョンに到着する一歩手前だったからな。皆命からがら逃げてきたってわけ』
『そうか、無事でよかった。町の様子はどうだ?』
『なんか防壁に特別な仕掛けがあるらしいんだ。詳しくは聞けなかったけど、魔物に突破されるよりも先に食料が底を尽きるだろうって』
『防壁に余程自信があるらしいな』
佐竹の話をまとめるとこうだ。
俺がアヴァンテを出た翌日。訓練で行ったダンジョンから帰る際、勇者一同がダンジョンから魔物が溢れ出る場面に遭遇。
一同は即座にアヴァンテへと逃げ帰り状況を報告した。アヴァンテから騎士団が派遣されるが、その騎士団はすぐに敗走してきた。魔物の強さが桁違いだったそうだ。
騎士達は篭城を選択した。クラスメイト達は自分達が戦うと騒いだらしいのだが、救援が来るまで待って欲しいと言われしぶしぶ引き下がった。
そして次の日、救援であるリーシャ一同がアヴァンテに到着。好機到来と言わんばかりに篭城をしていた騎士達も一斉に飛び出し交戦が始まった。
勇者一同も戦闘に参加した。最初は優勢でどんどん魔物の大群を押し返していたが、いくら倒しても敵の数は一向に減らない。
消耗してきた者は防壁の中へと戻り、戦える者は現在も防壁の外で応戦中。そして、現在に至るというわけだ。
『なあ、外の状況はどうなってるんだ?』
『風前の灯だ』
『つーことは、こっからはお前の独壇場って訳か!武勇伝、期待してるからな!』
『まあ、やれるだけの事はやってみよう』
佐竹との念話を終え、俺はすぐさまステータス上昇スキル及び戦闘補助スキルを全て発動させた。
レベルの低い今の【探知】では敵と味方の識別がうまく出来ないが、少なくとも敵の大群の中に味方がいないことは察知できた。
これなら遠慮なく魔法を放つことが出来る。俺は右手を地面につけた。
不測の事態に備えて魔力は出来るだけ温存しておきたい。圧倒的な魔力量に物を言わせて上級魔法を連発するのもいいが、今は効率優先でいこう。
少ない手数でどれだけ多くの敵を倒せるか。さあ、開戦だ。
「アブソリュートグラビティ」
アブソリュートグラビティは一定範囲の敵を全て地面に張り付かせる上級魔法だ。
魔法の効果により、範囲内にいた空を飛ぶ魔物は一斉に地面に叩きつけられた。範囲内の他の魔物もその場から動けずにいる。
「プラズマホーン」
プラズマホーンは地面の魔方陣から超高温の光柱を発生させる上級魔法だ。しかもこの魔法、込めた魔力が多ければ多いほど大きさが増す仕様になっている。
アブソリュートグラビティの範囲内に味方はいないので遠慮をする必要はない。俺は大量の魔力を大雑把に流し込み魔法を発動した。
プラズマホーンは地面にへばりつく魔物と、その周囲にいた魔物を飲み込み蒸発させた。
「まだ残っているか」
敵の大群に大穴は開いたが、それでも敵は大勢残っている。
プラズマホーンのような一定の範囲にしか作用しない魔法では効率がいまいちみたいだ。
空けておいた一列に長棒を押し込み、積み重なるブロックを一気に消すかの如く一斉かつ爽快に敵を殲滅する術は無いものか。
「……あるな」
地上で暴れる魔物はダンジョンから溢れ出てきたものだと聞いた。
アヴァンテに侵攻する魔物も一定の方角、つまりダンジョンの入り口からこちらに向かってきている。
ならば後は簡単だ。極大の長棒で積み重なるブロック(敵)を一気に消し飛ばす。長棒を直接ブロック(敵)に叩き込むことでな。
俺はその場から駆け出した。邪魔な敵を切り伏せながら一直線に駆け抜け、プラズマホーンによって生じた大群の穴へと滑り込んだ。
そして、ダンジョンの入り口があるであろう方向に向かって上級魔法を発動した。
「フレイムロード」
フレイムロードは巨大な火柱が発動者の前方に向かって直進していく魔法だ。この魔法もプラズマホーンと同じで込めた魔力量によって大きさが変化する。
フレイムロードはプラズマホーンに込めた量と大体同等の魔力を消費し発動させた。後は何もしなくても、巨大な火柱が自動的に敵を撃滅してくれる。
「よし」
俺は背後へと振り向いた。
残るは俺の背後にいる魔物、つまりは防壁に群がる魔物を殲滅するだけだ。
俺の存在に気付いた魔物が一斉に襲い掛かってきた。接近する魔物は剣で切り払い、飛来してくる魔物は【雷光】でなぎ払う。
どの魔物も一撃で倒せる相手だが、やはり数が多いと対処が難しい。更に【探知】でフレイムロードの範囲外にいた、もしくは攻撃に耐え切った魔物が接近してきていることも分かった。
お前達を相手にするのは味方の形勢を立て直した後だ。しばらく黙っていてもらう。
「エクスコールド」
エクスコールドは一定範囲の敵を瞬時に凍らせる上級魔法だ。
俺は背後のフレイムロードから生き延びた魔物に向かってエクスコールドを発動させた。これで敵の侵攻はしばらく止まるだろう。
俺は再び目の前の敵に集中した。左、前、右上、右下、左前、右前、左下、上、右下。次から次へとやってくる魔物をひたすら剣で切り伏せる。
魔法で一気に消し飛ばしてやりたいところだが、味方の防衛陣がすぐそこまで近づいている。魔力制御が完璧でない魔法を放てば味方を巻き込んでしまう恐れがある。ここは我慢して剣とスキルで応戦しよう。
まったく、魔力制御が完璧だったらこんな苦労をしなくて済んだのに。この戦いが終わったら重点的に訓練だ。
「ふんっ!」
俺は剣を勢いよく振りぬいた。
振りぬいた勢いで巻き起こった強風が、近くにいた敵を一斉に宙へと持ち上げる。
俺はがら空きとなった正面に滑り込んだ。そして、防壁と並行するように両手を真横に上げた。
「【雷光】!」
俺は両手から【雷光】を放った。
【雷光】は魔力を雷に変換して放つスキルだ。これまでの経験から、発生する雷撃は変換した魔力分に比例することが分かっている。
俺の場合は手に魔力を集中してから、魔力を雷に変換して外へと放出しているのだが、では、魔力の集中とスキルの発動を継続して行えばどうなるだろうか。答えはこれだ。
「ぐっ……おぉおおぉおっ!」
俺は両手から【雷光】が放たれている状態で、体を大きくひねりその場で一回転した。【雷光】は俺の周囲にいた魔物全てに襲い掛かり、その体を一瞬で消し炭に変えた。
だが、いつまでも発動し続けるわけにもいかない。このまま発動し続ければ【雷光】が味方の防衛陣にまで到達してしまう。
体を一回転させた後、俺はすぐさまスキルの発動を停止した。
「勇者殿!」
聞き覚えのある声が俺の耳に届いた。この凛とした透き通る声、間違いなくリーシャのものだ。
声のしたほうへ視線を向けると、魔物の包囲を突破したリーシャがこちらへと駆けてくる姿が見えた。
危なかった。【探知】で味方の位置を把握してからスキルを放ったのだが、思いのほかギリギリだったようだ。
「勇者殿、何故ここに……!」
「話は後だ。今はこいつらを片付ける」
「……分かった。話は後で聞かせてもらおう」
俺は残った魔物を殲滅すべく動き出した。
リーシャを中心に、騎士達の防衛陣は巻き返しを見せる。傷を負った騎士達も包帯を巻きながら武器を手に取り戦場へと戻ってきた。俺の存在を知った勇者達も数名程戦場に戻り剣を振るった。
「はあっ!」
「せいっ!」
戻ってきた勇者の中にはヒロインである西条や、西条の親友である島田の姿がある。
「いよっ!踏み台勇者様の活躍を拝みに来たぜ!」
アホな理由ではあるが、佐竹も応援に駆けつけてくれた。
「オラァ!どけよ雑魚共!」
大川も取り巻き達と一緒に残る魔物を相手に戦っていた。
形勢は完全に逆転した。まさに破竹の如き勢いだ。アヴァンテ騎士団と勇者達を止められる魔物はおらず、なす統べなく駆逐されてゆく。
俺は勝利を確信していた。残りの敵を他に任せ、頭の中で後の祭り上げられる展開を予想しながらため息をついてしまうほど、気が緩んでいた。また一歩『踏み台勇者』の結末に歩みを進めてしまったと、お気楽なことを考えていた。
『ソイツ』が来るまでは。