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踏み台勇者のテンプレ的日常  作者: ちとし
1章:踏み台勇者と成り上がり主人公
6/12

転機:アヴァンテ強襲

成り上がり主人公登場まで、あと1話。


2014/10/24 本編加筆

2014/10/26 一部誤字修正

 リーシャという人物を一目見て分かった。彼女は主人公(緒方)のヒロインだ。

 何故分かったかだって?だって、一人だけ明らかに別世界の人間なんだもの。

 戦闘で邪魔になりそうな美しい銀色の長髪。絵画のように整った顔立ちと宝石のような碧眼。周囲の騎士達が鉄色の同じ鎧を纏っている中、一人だけうっすらとした青色のデザインの異なる鎧を纏っている。

 佐竹風に言うなら『キャラが立っている』というやつだ。

 まあ、慕われていて美女で最強で戦乙女ヴァルキリーの時点で予感はしていたのだけれど。


「まずは礼を。昨日の戦い、あなたのおかげで勝利することが出来た。我ら『アヴァンテ騎士団』一同、心から礼を言う」


 リーシャが頭を下げると同時に、周囲の騎士団長達も一斉に頭を下げた。


「当然の事をしたまでです。私は勇者ですから」


 俺の謙虚を美徳とする日本人の心と『踏み台勇者』としての決意がせめぎ合った結果、出てきたのがこの台詞である。自分で言っておいてなんだが、恥ずかしいことこの上ない。

 周囲の騎士達からも色々と感謝の言葉を貰ったが、それらに対しても「自分、勇者ですから」と返しておいた。恥ずかしいことこの上ない。

 という訳で、そろそろおいとまさせていただこう。用事はこれだけなのだろう?なら、もう帰っても問題は無いはずだ。


「それで勇者殿。昨日の今日で悪いのだが、今一度あなたの力を貸してもらえないだろうか」


 どうやら、そうは問屋が卸さないらしい。

 相手方の用件はただ一つ。魔物の大群を生み出す原因であるダンジョンについてきて欲しいというものだった。


「最近になって見つかったというダンジョンのことですか?」

「話が早くて助かります。ダンジョンの構造は外部からの探知でおおよそ把握できています。あなたの力が加われば、今日中にでも攻略できるでしょう」


 俺はまだ返答していないのだが、彼女の中では俺の同伴が既に決定しているようだ。この人、一癖ありそうだなぁ……。

 まあ、『踏み台勇者』である以上ある程度の実績を作っておかなければならないのも事実。ここは反論せずに、流れに身を任せよう。


「既に準備は出来ています。早速参りましょう」


 俺はミリーを宿に帰し、騎士達と共にダンジョンへと向かった。

 ダンジョン攻略はリーシャを筆頭に名前が分からない騎士団長三名と騎士三十名に俺を加えた合計三十五名で行うことになった。

 ダンジョンへは徒歩での移動となった。ダンジョン内では馬の機動力が十全に生かせないし、入り口で待機させていても魔物に襲われる可能性があるためだ。

 無駄な犠牲を出したくないと、馬の事を消耗品ではなく仲間として思いやる騎士達の心に俺は感心した。

 やはり、彼らは強い。単純なステータス値なら俺達勇者の方が上だが、精神的な強さは彼らの方が圧倒的に上だ。

 いつ何時においても助け合う心が、相手を思いやる心が彼らには備わっている。昨日の戦場での戦いと今のやり取りを見てよく分かった。

彼らは誰かを守るための盾としての、戦士としての心構えがしっかりとできているのだろう。

 『踏み台勇者』云々は関係無しに、そういった心は見習っていきたいものだ。


「見えました。あれが例のダンジョンです」


 俺はリーシャが指差す先を見た。そこには巨大な洞窟があった。


「調査班の報告によると、あのダンジョンには階層が存在しないそうです。最奥には大きな空間が広がっており、ダンジョンボスが待ち構えているものと思われます」

「魔物の大群と鉢合わせをする可能性はないのですか?」

「敵の湧き出る周期も判明しています。敵が湧き出すまで、まだ時間は十分あります」


 洞窟型のダンジョンは近くで見ると更に大きさを増した。高速道路でよく見かける山を一直線にくり貫いたトンネルにも匹敵する大きさだ。

 整列する騎士達に向き直ったリーシャは士気を向上させるための演説を行った。


「気を引き締めろ!互いを助け、互いを守り、全員生きてこの場に戻るのだ!」


 さすがは最強の戦乙女だ。彼女の放つ言葉一つ一つが心に響いてくる。「心が震える」という言葉はこういったときのためにあるのだろう。言いえて妙なこの感覚。この言葉を考えた人物は天才かもしれない。


「行くぞ、突入だ!」


 俺達はダンジョンへと突入した。そして、何事も無くダンジョンを攻略した。

 ダンジョン内では時間間隔が狂ってしまうため正確な攻略時間は分からないが、外では十数時間が経過していた。

 そして肝心の攻略内容であるが、もう何と言うか、俺が同行した意味はあったのか?と思えてしまうほど、俺の出番は無かった。

 大雑把に説明するとこうだ。まず、魔物と遭遇した場合。


「この程度の敵、勇者様のお手を煩わせる程ではありません。我々にお任せください!」


 ちょっと強い魔物と遭遇した場合。


「フッ、昨日は勇者殿に全部持っていかれたからな。ここらで一丁、騎士団長様も活躍しねえと部下に示しがつかねえ!」


 味方が怪我をした場合。


「どれ、治癒魔法なら俺に任せてもらおう。勇者殿は休んでいてくだされ」


 罠が見つかった場合。


「現在、部隊の者が解除を行っているます。もうしばらくお待ちください」


 道が分かれていた場合。


「探知完了。こちらから強い魔力反応がありました」


 ボスとの戦闘に突入した場合。


「平和のために戦え!勇敢なる騎士達よっ!私に続けぇええーっ!!」

「我らが魂はヴァルキリーと共にありぃいー!」

「うぉおおぉおー!」


 ダンジョンコアを発見した場合。


「では勇者殿。お願いします」

「……はい」


 結果、俺はほとんど何もすることなくダンジョンから帰還することとなった。

 というか、普通に強いよアヴァンテ騎士団。俺達名ばかり勇者と違って、彼らは名実共に本物の戦士だよ。勇者必要ないよこれ。

 ボスだった五十メートル超えの超巨大蛇なんて、騎士達の完璧な連携の前に手も足も出せないままやられたし。

 特にリーシャの強さは段違いだった。装飾の施された巨大な矛を悠々と振り回したり、超巨大蛇の尻尾によるなぎ払いを一人で受け止めたりして、思わず「もう全部あの人がいればいいんじゃないかな」と思ってしまった。

 ボス戦に俺の入り込む余地なんて一ミリも無かった。


「ミリー……勇者って何なのかな?」

「勇者は勇者ですよ。どうしたんですか急に」


 傷心中の俺は暖かい食事をちまちまと口に運び、勇者とは何たるかを考え続けた。







 翌日、朝一で知らせが届いた。寝ぼけ眼を擦る俺に対しミリーは切迫した様子でこう告げた。


「アヴァンテが魔物の大群に襲われているそうなんです!」


 ベッドから飛び起きた俺は手早く着替えを済ませ、朝食も摂らずに宿を出た。

 俺とミリーは急いで騎士団のキャンプ地へと向かったが、キャンプ地だった場所は既に更地へと戻っていた。

 テントや物資は全て荷馬車へと詰め込まれ、騎士達は全員装備を整え出発の準備を行っている。

 俺は白馬にまたがるリーシャを見つけ、駆け寄った。


「到着して早々済まない勇者殿。我々騎馬隊は一足先にアヴァンテへと向かう。勇者殿には荷馬車の警護を頼みたいのだが」

「俺の力が無くて大丈夫か?」


 上から目線の言い方になるが、一昨日の前例がある。

 無茶を承知で行こうとしているのなら、俺も先行部隊に同行したほうがいいだろう。

 俺の考えを悟ったのか、リーシャは苦笑いを浮かべながら言葉を返した。


「確かに一昨日は遅れをとしました。ですが、城には頼れる仲間が大勢います。彼らと力を合わせれば、どんな敵であろうと負けはしません」


 その言葉は紛れもない彼女の本心だった。俺の【真実の瞳】が反応を示さないのがその証拠だ。彼女は心の底から自分の仲間を信頼しているらしい。

 ならば、俺の言うことは一つだ。


「……わかりました。ご武運を」

「感謝する」


 リーシャは俺に背を向け、騎馬隊を率いアヴァンテへと向かった。

 さて、リーシャとの約束をしっかりと守りたいところではあるが、俺には別の使命も残されている。『踏み台勇者』としての使命だ。

 俺は『踏み台勇者』。いつ主人公に踏み台にされてもいいように、いつ何時においてもお膳立てを済ませておくのが仕事だ。

 自分の全身全霊を掛けて敵に挑み、真正面から馬鹿正直に剣を振り、物語を演出し、盛り上げ、最高の山場を作る。

 そして、遅れてやってきたヒーローの踏み台となる。


「全部助ける。全部守る。全部倒す。無茶な信条を掲げてこそ『踏み台勇者』だ」


 一度は経験したんだ、大丈夫。そう自分に言い聞かせ、俺は戦う覚悟を決める。

 おおまかなシナリオはこうだ。まず、荷馬車を動かす騎士達に「アヴァンテの様子を見てくる」と転移ポート付近に待機させる。戦闘が終了していればひっそりと後戻り。戦闘が続いていれば「加勢する!」と戦闘に参加。言い訳は「様子を見にきたら戦闘が続いていたから参加した」で十分だろう。

 戦闘区域に荷馬車を突っ込ませないよう安全を確認するのは必要なことだ。俺は約束を果たすために必要な行動をしたまでであって、戦場と鉢合わせしたこと自体は完全なる偶然だった、と。

 もし咎められるようなことがあれば、「仲間の危機を放って置けなかった」と情に訴えかけてみよう。少し卑怯な気もするけど。


「まあ、皆強いし大丈夫だろうけど」


 アヴァンテ強襲。それはプロローグの終幕を告げる合図。俺の運命が、未来が大きく変わる始まりの出来事。


 既に、運命の歯車は狂い始めいていた。


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