表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
踏み台勇者のテンプレ的日常  作者: ちとし
1章:踏み台勇者と成り上がり主人公
5/12

対面:最強の騎士

「敵襲、敵襲だーっ!!」


 ミリーの質問攻めが続く最中、俺の耳に男性の大声が飛び込んできた。

 周囲の騎士達は馬を走らせ進路前方へと向かっていった。窓の左淵から右淵へと、まるで流星群のように騎馬が駆け抜けてゆく。

 俺の乗る馬車は停止した。ドゥーオの群れの時とは様子が明らかに違う。 きっと、急を要する事態が発生したのだろう。

 俺は馬車から降り、騎士達の行く先を確認した。


「……これはヤバい」


 俺が視線を向けた先では既に戦闘が始まっていた。

 魔物の群れの数は既に戦っている騎士達の数を上回っている。

 現在戦場に向かっている騎士達が合わさっても、おそらく敵の数には及ばないだろう。


「勇者様、出番ですよ出番!」


 俺の両肩を掴んで揺らすミリーは輝かしい笑顔でそう言った。

 彼女の緊急事態を楽しむ態度は少し気に入らないが、言っていることは事実だ。

 出来れば【魔術】や【雷光】で遠距離攻撃をしたいところだが、戦場は今混戦している。

 制御が完全でない魔法やスキルを無闇に放っては味方を巻き込む可能性がある。使用は控えたほうがいい。

 となると方法は一つ。剣による直接攻撃しかない。


「……俺に出来るのか?」


 死と隣り合わせの戦場に立つのは今回が初めてだ。想像の中では何千もの敵を葬ってきた。しかし、体が想像通りに動かないのは世の常だ。想像の中では存在しない疲労が、恐怖が、圧力が、一斉に襲い掛かってくる。

 そんな中で動けるのはそれらを何度も経験してきた者か、天賦の才を持つ者か、精神に異常をきたした者くらいだろう。

 平和な国でのほほんと生きてきた俺に、今すぐ戦場で戦えるだけの度胸があるだろうか。


「出来ますよ!勇者様なら必ずやれます!さあ、連中に目に物見せてやってくださいっ!」


 俺のつぶやきが聞こえたのか、ミリーは俺に不可能はないのだと断言した。その後もミリーは俺の事を無敵だとか最強だとか、思いつく限りのお世辞を投げかけてくる。

 まったく、こういう切羽詰った状況でどうしてそうも気楽でいられるのか。目の前の不利な状況が、彼女には見えていないのだろうか。

 でも、その気楽さが今はありがたい。彼女の応援が俺に力を与えてくれる。

 男と言うのは実に単純な生き物だ。美女に応援されてその気にならない男はいないし、いいトコを見せたいと思うのは男の性。

 もちろん、俺も男だから例に漏れずその気になったわけで。


「わかったよミリー。ちゃんと見てろよ?」

「見てます見てます!絶対目を離しません!」


 とりあえずステータス上昇スキルと戦闘補助スキルは全て発動だ。

 俺よりも強い敵がいないという保証はない。敵のステータスが分からない以上、俺は全力で敵を迎え撃つ。

 俺は全力で地を蹴った。零から百への超加速。戦場の光景が早送りされる映像のように急激に近づく。ものの数秒で、俺は戦場へと突入した。

 俺の眼前には武器を失いへたり込む騎士と今まさに襲いかかろうとするドゥーオの姿があった。


「ふんっ!」


 俺は側面からドゥーオの首を勢い任せに振りぬく。ドゥーオの首はいとも簡単に切り裂かれた。


「うわぁあああ!?」

「何だぁあーっ!?」

「おおぉおおぉ!?」


 しまった。考え無しに剣を振ったものだから、近くにいた魔物と騎士達が風圧で吹き飛んでしまった。

 次は少し力を抜いてみよう。俺は前方にいた人間の背丈に匹敵する大きさの蜘蛛の懐にもぐりこみ、剣を振りぬいた。

 蜘蛛はハジケ飛び、地上に臓物の雨を降らせた。


「ぐおおおっ」

「何事だ!?」


 戦っていた騎士達は俺の剣によって発生した突風にしりもちをついた。どうやら、まだ力が強すぎるらしい。

 その後、俺は近くにいる魔物を片っ端から切り伏せ力加減を覚えていった。

 魔物を斬る時の感触は独特で斬る度に悪寒が走った。悪臭を放つ魔物を見たときは冷や汗が吹き出たし、体液を飛ばしてくる魔物を相手にした時なんかは思わず鳥肌が立ってしまった。

 何度も冷静さを失いかけたが、倒した魔物が死体として残らず消滅してしまうのが唯一の救いだった。

 もし血生臭い死体がごろごろ転がる状況だったら、俺は今頃正気を失っていただろう。


「……よし」


 俺の参加で戦況は好転した。魔物の数も減り、騎士達にも軽口を叩くだけの余裕が出始めている。

 かく言う俺も、敵を攻撃する【魔術】を使ったり疲労を回復させる【精霊術】を使ったりと、スキルの練習を出来るだけの余裕が出来ていた。

 俺は騎士達と共に辺りの魔物を掃討し終えた。


「やりましたね勇者様!」

「我々の勝利は目前ですぞ!」


 駆け寄ってきた騎士達は俺に対し次々と感謝の言葉を述べる。

 自分の力が不特定多数の人々の役に立つのは生まれて初めての経験だが、なるほど、これは悪くない。

 少しだけ、いい気になる『踏み台勇者』の気持ちが分かったような気がした。


「まだ終わりではないぞ。まだリーシャ様が戦っておられる」


 騎士の一人の言葉に反応した一同は、ある一点を見つめた。

 俺も周囲に釣られ視線を向ける。視線の先にあったのは、二階建て家屋に匹敵するほどの大きさの魔物と戦う騎士達の姿だった。


「こうしちゃいられない。お前ら行くぞっ!」

「我々がリーシャ様をお助けするのだ!」

「うぉおおおおおお!」


 剣を掲げながら雄たけびを上げる騎士達は、巨大な魔物へ向かって走り出した。


「……オーク?」


 緑色の皮膚、脂身たっぷりの胴体、原人のような格好、巨大な棍棒。俺の中にあるオークのイメージと合致する生物が、騎士達を相手に大立ち回りを見せている。

 初めて見るオークに興奮!するかと思いきや、俺のテンションは至って平常だった。

 どうやら戦闘による肉体的疲労と精神的疲労が原因のようだ。さっきから『休む』以外のことを考えられない。


「全員、オークから離れてください」


 俺は【ファイ】と【威厳】を使い戦う騎士全員に呼びかけた。

 騎士達は俺の言葉を無視して戦い続けていたが、俺が勇者であることを告げるとすぐに事情を理解したのか、オークに背を向け退避を始めた。

 俺は【加速】を使い退避する騎士達と追いかけるオークの間に割って入った。


「【雷光】」


 俺は間髪入れずに【雷光】を放った。

 【雷光】はオークに直撃した。オークは叫び声を上げるが、俺の攻撃に耐えきったのか消滅せずにいた。

 だが、今の攻撃でオークが弱っているのは一目瞭然だった。

 オークは体中のあちこちが焼け焦げ、口から涎をたらしながら肩で息をしている。先ほどまで悠々と振り回していた棍棒も引きずりながら何とか持っているような状態だ。


「…………」


 俺はオークに近づき、無言で剣を振った。周囲に味方はいないため加減は必要なかった。

 オークはゼリーのようにつるんと真っ二つに切り裂けた。

 オークの体が消えると同時に、俺の背後から大きな歓声が上がった。


「……うっ」


 騎士達が肩を抱き合いながら勝利の余韻に浸る中、俺は【加速】で一目散に馬車へと駆け込んだ。

 あの場に留まっていれば、騎士達が勇者である俺を讃えようと周りに群がってきただろう。俺も男だ。プライドは人並みにある。大勢の前でへたり込む姿を晒すなど恥ずかしくて出来なかった。

 出迎えるミリーに返答する余裕もない俺は装備を乱暴に取り外し椅子に腰掛けた。

 疲労困憊とは今のような状態を言うのだろう。息をするのも精一杯で、もう手も足も動かない。

 おまけに高揚していた気分が落ち着いてきたせいか、先ほどの戦場の映像がフラッシュバックして胃の中がぐつぐつと熱くなっている。

 早くこの苦しみから解放されたい。その一心で俺は目を閉じた。次に目覚めたときには、きっといつもの調子に戻っているはずだ。


「お休みになるのですか?でしたらここをお使いください」


 壁にもたれかかりながら深呼吸を繰り返していると、突然俺の顔に何かが触れた。

 抗う力が残っていない俺は、成されるがままに横たわる状態となった。

 妙だ。頭の部分だけがやわらかい。高さも違うし、何より暖かい。

 俺はうっすらと目を開けた。


「お疲れ様でした。今はゆっくりとお休みなさいませ、勇者様」


 俺の顔を上から覗き込むミリーを見た後、再び目を閉じた。

 ミリーの膝はこれまでに使ってきたどの枕よりも寝心地のいいものだった。







 俺が目を覚ましたのは翌日の朝だった。

 俺を起こしに来たミリーの話では、俺が寝た後に噂の戦乙女ヴァルキリー様が面会を申し込んできたそうだ。

 俺が馬車から宿に運び込まれている最中に話しかけられたらしい。その時はミリーが応対し、翌日の朝に面会を行うと約束してしまったそうだ。

 そして今、面会の時間が間近となったためミリーは俺を起こしに来たというわけだ。


「お疲れのところ申し訳ありません。相手方から一方的に用件を言われてしまいまして……私のような一介の使用人ではヴァルキリー様の言葉に逆らうことは……その……」

「いいよ別に。よく寝たから疲れも十分とれてる」


 俺はミリーが用意していた着替えに袖を通した。

 朝食は一階にある食堂で摂るそうだ。昨晩は何も口にしていなかったからかなり腹がすいている。

 宿の食堂で騒動、というのもお約束の一つだがそれは主人公専用のイベント。『踏み台勇者』たる俺には関係のない話だ。


「勇者様、これをお忘れですよ」


 部屋から出ようとした俺を呼び止めたミリーは俺にステータスカードを差し出してきた。

 俺はすぐにズボンのポケットを漁る。ポケットの中にはステータスカードが入っていなかった。

 よく見ると服の汚れやシワがなくなっている。まさか、ミリーがやったのか?


「この服、洗ったの?」

「はい。汚れが酷かったので」

「水で?」

「それは最初だけです。後は魔法でちょちょいのちょいですよ!」


 便利だなその魔法。俺も是非覚えたい。


「これってステータスカードっていうやつですよね?ステータス見せてもらってもいいですか?」

「別にいいけど。見ても面白くないよ?」


 そういえば、最近はずっと訓練ばかりでステータスカードに触っていなかったな。

 昨日の戦闘もあるし、少しはレベルが上がっているかもしれない。

 俺はカードにステータスを表示した。




名前 :羽追圭吾はおいけいご

レベル:3


称号 :光の加護を受けし最強の勇者  覇道を極め伝説を塗り替える者

種族 :人間


体力 :2241247

魔力 :3452596

攻撃 :5566746

防御 :5445335

敏捷 :5648512


スキル:【剣術 Lv4】【体術 Lv3】【槍術 Lv2】【弓術 Lv2】【棒術 Lv2】

    【騎乗術 Lv1】【魔術 Lv3】【精霊術 Lv2】【召喚術 Lv1】

    【錬金術 Lv1】【威圧 Lv4】【雷光 Lv5】【爆撃 Lv1】

    【夢幻 Lv2】【強化 Lv5】【加速 Lv5】【解析 Lv2】【天運 Lv3】

    【千里眼 Lv1】【直感 Lv4】【探知 Lv3】【魅了 Lv6】

    【調合 Lv1】【威厳 Lv2】【龍気 Lv2】【気配遮断Lv1】

    【自動回復 Lv3】【全属性強化 Lv2】【全属性耐性 Lv3】

    【状態異常耐性 Lv3】【覇撃 LvXX】【光の加護 LvXX】

    【真実の瞳 LvXX】【限界突破LvXX】【空我LvXX】

    【アギトLvXX】【ファイ LvXX】




 クラスメイト達は訓練だけでレベルが5以上上がっていた。

 だが、俺はあれだけの敵を倒したのにレベルが2しか上がっていない。その分ステータス値の上がり幅がとんでもないが。

 そういえば、以前佐竹に相談した時「?系モンスターだって強い分レベル上がるの遅いだろ?つまりそういうことだ」と意味の分からない返答が帰ってきたことがあった。

 『?系モンスター』という単語の意味は未だ分からないが、佐竹が言いたかったのは『強い分レベル上がるの遅い』の部分だったのだろう。

 このステータスを見ていると、あの戯言は意外と的を射ているのかもしれないと思えてくる。

 驚くミリーと共に、俺は食堂へと向かった。異世界の食事は地球で言うところの洋風に近いもので、俺でも抵抗無く食べることが出来る。味は少し薄めだが、宿の食事も悪いものではなかった。

 朝食を摂り終えた後は戦乙女ヴァルキリーこと『リーシャ様』との面会だ。

 俺はミリーの案内に従い、騎士団が滞在するキャンプへと足を運んだ。

 見張りの騎士に用件を伝え、俺達はリーシャのいるひときわ大きなテントへと向かった。

 周囲の騎士達は怪我を負いながらも鎧を纏って業務に勤しんでいる。やはり鍛え方が違うのだろうか。一晩中寝込んだ俺とは大違いだ。

 そうこうしているうちに、俺達は目的地に到着した。


「勇者ケイゴです。面会に参りました」

「入れ」


 テントの前で用件を告げると、中から凛とした声が帰ってくる。

 「失礼します」と一言告げ、俺達はテントの中へと入った。

 テントの中には増援部隊を率いたスターレンス一同と、見知らぬ騎士が三名。

 そして、騎士達の中心に彼女はいた。


「始めまして勇者殿。私はリーシャ。リーシャ・クロネシアです」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ