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踏み台勇者のテンプレ的日常  作者: ちとし
1章:踏み台勇者と成り上がり主人公
4/12

遭遇:魔物の群れ

※俺の中のテンプレストックが五つしかない件

 ・いきなり魔王

 ・美少女奴隷

 ・主人公ハーレム

 ・主人公独自の修行でヒロイン強化

 ・主人公がつくったオリジナル武器でヒロイン強化


他に何かあったか・・・?

 緒方が大川達の罠にかかってから二週間が経過しようとしていた。

 緒方の行方は依然として不明。国が総出で捜索を行い、国王の一族のみが保有する特殊な装置でステータスカードに宿った特殊な魔力の波動を探知するも反応はない。

 結果、緒方が地上にいない可能性が濃厚となった。となると……。


「やっぱりダンジョンか」


 これもお約束展開の一つだ。

 いきなり超高レベルのモンスターが蔓延る場所に放り出された主人公が偶然に助けられたりスキルに目覚め助かったりして、そのままなし崩しにサバイバル生活を始め、幾多の苦難を乗り越え成長し、その結果として最強になる。

 果たして、緒方は真の主人公となって俺達の元へ帰ってくるのか。それともダンジョンの奥地で息絶えるか。

 頼むから戻ってきてくれよ。主に俺の明るい未来のために。もし「クラスメイトなんて知るか」と一人旅に出ようものなら、俺が全身全霊を掛けて見つけ出してやる。絶対に見つけ出してやる。


「ケイゴ、少し話がある」


 訓練場へ向かっていると、訓練担当の騎士『ヴァルゴ』に呼び止められた。

 いつもの活気に溢れた顔とは違い、どこか強張っているように見える。何かあったのだろうか。

 俺はヴァルゴの後を追い、王宮内をしばらく歩いた。そして、ヴァルゴはとある一室の前で止まった。


「入れ」


 俺は言われたとおり部屋の中へと入った。部屋の中には鎧を纏った五人の男達がいた。


「勇者をお連れしました」


 部屋にいた一同が一斉にこちらを見た。全員ヴァルゴと同じように深刻な顔をしている。

 そして机の上には大きな世界地図らしきものが広げられており、いくつかの地点に赤い×印がつけられている。

 何を言われるのか分からないが、一つだけはっきりした。おそらく、今から聞かされる内容はとても面倒な事だ。


「突然の呼び出しで申し訳ない、勇者殿。私はスターレンス・エルメリアという。そしてこちらが……」

「ドミニクだ」

「自分はハボイラ・マーズと申します」

「モルオ・ネシアです」

「アーク・セルヴァート。アークと呼んでくれ」


 五人の男達はそれぞれ自分の名を名乗った。

 青色の長髪を後ろで人くくりにした男が『スターレンス』。右頬に十字傷がある茶髪の男が『ドミニク』、唯一冑を身に付けている大男が『ハボイラ』、眼鏡を掛けた短い黒髪の男が『モルオ』、刺々しい赤髪で鋭い目つきの男が『アーク』だ。

 彼らは『騎士団長』という称号を持ち、それぞれ自分の部隊を所有しているそうだ。

 その騎士団長が一堂に会しているとなると、事態は余程大事らしい。


「ケイゴ・ハオイ。君にはこれから、勇者として戦場に参加していただく」


 ああ、ついにきてしまったか。俺が『踏み台勇者』として本格的に動くときが。

 とりあえず、少し悩んだフリをして返事をしておこう。


「……分かりました。とりあえず、現状を教えていただけないでしょうか?」

「感謝します」


 スターレンスが現状の説明を始めた。

 最近ダンジョンの活動が活発になっており、外に溢れ出た魔物が人間の町を襲っているという。

 今も騎士団の半分が近辺の人里の警護に向かっているのだが、手が追いつかず被害は拡大の一途をたどるばかり。

 そこで、新たに増援部隊を結成して被害の多い地域に向かうことになった。


「そして、その増援部隊の一員に私も加わるわけですね」

「そうだ。話が早くて助かる」


 今回は騎士団員五十名に俺が加わり、総勢五十一名でアヴァンテから西へニ山ほど超えた辺りにある『ホルン』と呼ばれる町に向かうそうだ。

 ホルンの近くでは最近になって新しいダンジョンが見つかり、警戒度が一気に跳ね上がっているらしい。


「確かホルンには『リーシャ』様もいるんだよな?」

「ああ。それでも抑えられないほどだ。敵の数も相当だろうな」

「……リーシャ様?」


 俺が聞き覚えのない名前に首をかしげていると、モルオが近寄り親切に教えてくれた。

 『リーシャ』という人物は全騎士団を取りまとめる団長的存在で、『戦乙女ヴァルキリー』の称号を持つ最強の騎士なのだそうだ。

 貴族の出でありながらも相手を見下さない。その美貌に見惚れた男は数知れず。築き上げた勇名は山よりも高い。

 人望があって、美人で、強い。そして『戦乙女』という称号。

 まったく、この世界は本当にお約束に満ちているな。


「失礼します。隊長、部隊の準備が整いました」

「分かった、すぐ向かう。ケイゴ、着いてきてくれ」


 俺は五名の騎士団長と報告に来た騎士に連れられ城門前へと向かった。城門前では鎧を身に纏った騎士達が大勢待機していた。

 「出動」の号令と共に増援部隊は城を出発した。城から一直線に続く道はアヴァンテ全体を囲う防壁の出入り口へと続いているようだ。

 まだ馬に乗れない俺は豪華な馬車での移動となった。そして、どういうわけか俺の乗る馬車にはメイドが一人同乗してきた。

 名前は『ミリー』と言うそうだ。


「この後転移ポートで一度休憩をとる予定ですが、言っていただければ途中でも休憩を挟みますので」

「いえ、大丈夫です」


 俺の事を気遣ってか、対面する席に座るミリーがしきりに声を掛けてくる。

 ミリーは勇者である俺の身の回りの世話をするのが仕事で、ホルンに向かう俺の世話をするためにだけに同行することになったそうだ。


「失礼ですが、お一つお聞きしたいことが」

「何でしょう?」

「勇者様達のいた異世界とは、どのような世界だったのですか?」


 俺はミリーの問いに答えた。するとミリーは更に質問を投げかけ、俺は再び質問に答える。ミリーと言う女性はそうとうなおしゃべりのようだ。

 ミリーの質問攻めが終わった後は俺の番だった。俺はこの世界についての問いをミリーに答えてもらった。

 何と言うか、ミリーは俺が抱いていたメイド像とは大きくかけ離れている。俺の思い描いていたメイド像は、主人の命令を忠実にこなし、用事がある時以外は余計な言葉を発しない、自分の意思を持たない人形のような人物だった。

 対するミリーは俺に積極的に話しかけてくるし、俺の言葉に時々ツッコミを入れたりと態度も少し軽い。

 まあ、寡黙で何を考えているか分からないメイドよりも、ミリーのようにおしゃべりで人間味のあるメイドの方が接しやすくていいのだけれど。


「でね、その貴族様ったら大勢が見ている中で愛の告白をしたのよ!キャーッ!そしてその後……」


 ただ、少ししゃべりすぎな気がする……。







 転移ポートは少し大きめの神社のような場所だった。

 中には巨大な魔方陣が描かれている。魔方陣の上にある物や人を、同じ魔方陣の描かれている場所まで移動させる機能があるそうだ。

 しばらく休憩をとったあと、俺達は転移ポートを使用した。転移先はホルンの南にある転移ポートだそうだ。


「ここから更に一時間程の移動すれば、ホルンの町が見えてきます」

「そうか。楽しみだな」


 俺はミリーにホルンの町についての話を聞いた。ホルンは特に見所がない普通の田舎町らしい。少し残念だ。

 俺とミリーは再び他愛のない雑談を始めた。


「敵襲!敵襲!」


 騎士の叫び声と同時にドラのような音が鳴り響いたのは、俺達が雑談を始めてからすぐの事だった。

 俺は窓から外の景色を眺めた。遠くに砂煙と共に接近してくる何かの群れが見える。


「あれは『ドゥーオ』です!そこまで凶悪な魔物ではないのですが、あれほど大きな群れを見たのは私も初めてです」


 俺はミリーがドゥーオと呼ぶ魔物を観察した。

 ここから見て分かるのは、ドゥーオが四足歩行だということと、色が黒いということくらいか。

 周りの騎士達はドゥーオの群れを待ち構えるように陣形を形成し始める。騎士達の進行が止まったため、俺を乗せた馬車も停止した。

 さて、ここから俺はどう行動するべきか。真の『踏み台勇者』ならば間髪入れずに飛び出していく所なのだろうが、情けない話、俺は今相当ビビッている。

 数の暴力を退けるのは至難の業。それが地球での常識だった。ステータスだけで見れば人間と子犬が戦うようなものだろうが、どうしても元いた世界の常識が体を縛り付けてしまう。


「勇者殿」


 俺が出ようか出まいか足踏みをしていると、一人の騎士が馬車の扉を開けた。


「スターレンス様がお呼びです」


 俺の選択肢は消え去った。仕方がない。やれるだけの事はやってみよう。俺の身を案じるミリーに一言声をかけ、俺は馬車を降りた。

 スターレンスは陣の最後尾にいた。俺の存在に気付いたのか、スターレンスは馬から下りて俺の元へと近づいてきた。


「勇者殿、お待ちしておりました」

「どうも。それで用とは?」

「既にご覧になったかとは思いますが、現時我が騎馬隊に魔物の群れが接近中です」

「つまり、私の出番と言うことですか?」

「ええ。ですが、ただ出撃して敵を倒すというのでは華がありません」

「華?」


 スターレンスは小さく笑みを浮かべた。何を考えているんだ?


「ここは一つ。勇者様の最高の技で敵を葬っていただきたいのです」


 なるほど。騎士達が陣形を整えたまま進軍しないのはそういう理由か。


「わかりました。やってみましょう」

「ありがとうございます……合図だ。鳴らせ」


 スターレンスの声と共に、騎士の一人がドラのような金属板を叩く。大きな金属音が再び周囲に鳴り響いた。

 次の瞬間、俺の前方にいた騎馬が一斉に左右へと分かれ陣形が二分にぶんされた。

 俺の視界にはドゥーオの群れのみが映る。まったく、用意周到だな騎士団長様。


「すぅー……はぁー……」


 まずは大きく深呼吸をし気持ちを落ち着かせる。

 次に右手を高々と掲げ、体内の魔力を右手の平へと集中。

 最後はスキルを発動し、右手の平に集まる魔力を敵の群れに向かって一気に押し出す。


「いきます」


 勇者の最高の技。それはこの世界の物語にもよく登場する、男なら誰もが一度は憧れる必殺技だそうだ。


「【雷光】!」


 俺の右手から放たれた雷は地面を抉りながらドゥーオの群れへと飛んでいった。

 不規則に軌道を変化させる雷は何本にも分かれドゥーオの群れに降り注ぐ。

 激しい発光にと共にけたたましい轟音がスキルの威力を物語っていた。

 やがて発光と轟音は止み、ドゥーオの群れがいた一帯は砂煙に包まれた。


「敵の反応はありません。全滅した模様です」

「よし、鳴らせ」


 ドラのような音が三回鳴り響く。次の瞬間、騎士達の大きな歓声が湧き上がった。


「…………」


 スキルを放った本人である俺は、逆に声が出なかった。

 想像以上の威力だ。地球の雷と同じで一点に直撃する攻撃だとばかり思っていたが、まさか全体に飛散する攻撃だったとは。

 この威力、この派手さ。誰もが憧れるスキルと言うのも頷ける。


「素晴らしい!さすがは勇者の中でも最高の力を誇るお方だ!」

「は、はあ……どうも」


 俺の中で冷静沈着なイメージが定着していたスターレンスが、まるで小さな子供のようにはしゃぎまわっている。周りも【雷光】の話題で持ちきりだ。

 男なら誰もが憧れるスキルと聞いていたし、スターレンスも一度は憧れたことがあるのかもしれない。

 俺はスターレンスの調子が戻るまで待ち続けた。


「ふぅ……失礼。見苦しい姿をお見せしました」

「いいえ。喜んでいただけて何よりです」


 しばらくして、スターレンスは落ち着きを取り戻した。

 俺はスターレンスから労いの言葉をもらった後、馬車へと戻った。

 ほんの数分棒立ちしていただけなのに体がダルい。自分が思っていた以上に体は緊張していたようだ。

 戦場ではこれが当たり前なのかと思うとゾッとする。果たして、俺はこれから『踏み台勇者』としてやっていけるのだろうか。


「これから慣れていくしかないよな……はあ、今はとにかく休もう」


 疲れた体を休めるべく、俺は馬車へと乗り込んだ。


「勇者様勇者様勇者様!!あれって【雷光】ですよね!?勇者しかつかえないっていうあの【雷光】ですよね!!?」

「お、おぉ……近い近い」


 俺を待ち構えていたのは、【雷光】を目撃したミリーからの質問攻めの嵐だった。

 結局、馬車の中で俺の疲れが取れることは無かった。


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