序章
ロイガー帝国の都で暮らす少年らにとって、【そら】とは、流弾が当たっても傷一つ付かない超硬質硝子でできた、巨大な天窓のことだった。そこには、外向きと内向きの両方に、越えようとするものを焼き尽くす強力な結界が張られ、侵入することはおろか、外に出ることすら不可能になっていた。
帝国政府が、そんな妙なもので帝都上空をすっぽりと覆う計画に乗り出したのは、今から二十年前のことだ。結果的にそれは空のみに止まらず、それから僅か半年後には、帝都全体を巨大な壁がぐるりと囲うことになったのである。ちょうど、硝子の屋根を持つドームの中に、街を閉じ込めるように。
壁内都市計画……来る大国との対戦に備え、帝都の防衛、中央集権、主要物資の都外への拡散防止、秘密漏洩防止などを目的に、帝都の出入りを極限まで制限しようとしたのだ。現在出入を許されているのは、政府の許可証を持つ一部の商人や、軍隊だけだ。
それまで各地に点在していた主要な貴族は帝都に召集され、以来、外へ出ることは許されなかった。そして、召集されなかった他の下級貴族やそれ以下の位の者は、厚い壁の外へ追いやられることとなる。それは壁内の人々の心に優越感を芽生えさせ、いつしか、壁の外に住む人々は低俗で野蛮な劣った人種だと看做されるようになってしまった。壁内都市計画は、帝都の物理的隔離のみに止まらず、人々の意識領域までも、『帝都と、それ以外』に完全に分離してしまうことに繋がったのである。
そして現在。時代は、急速に戦争へと向かいつつあった……。