にわか雨
「離して!」
フェンスの向こうで暴れる少女。細い体を揺すらせて必死に手を引き剥がそうとする。
「落ち着いて!とりあえず話を聞いて!」
「こっちにおいでってば!」
僕と凛花は必死に服を引っ張り落ちないようにする。
「あー!もう!あなた達なんて知らない!」
そういって僕たちを水色の目で睨んでなにやら集中し始めた。
すると、
「私に関わるからだよ!頭上に注意しなよ!バカ!」
泣きながら訴える少女。
「あぶない!…仕方がないね…。」
そういって凛花も集中を始めた。この時僕は理解してなかったが上を見てわかった。
「!!」
大きな雹が降ってきていた。全長20センチ程度はある。
「私に関わるから怪我するんだよ!だからいなくなるの!怪我する前に!早く逃げて!」
少女は叫ぶ。悲痛に。そして、絶望的に。
「玲翔!手を離さないで!私が止めるから!」
そういうやいなやいつの間にか持っていた傘を落ちてくる雹に向かって投げつけた。
「その傘は…。」
そう、あの時貸してくれた傘だった。
「離してよ!そんな傘で防げるわけないから!早く逃げてよ!また傷つけちゃうよ…。逃げてよ…。」
泣き疲れて弱々しくなる少女。
「大丈夫。この傘は特別なの。だからほら見てて。」
傘は雹に向かって飛んでいく。そして雹にぶつかる…というところで不思議なことが起こった。
「え…なんで?」
僕も同じように呟いていたかもしれない。驚きのあまり覚えていなかった。
「ね?言ったでしょ?大丈夫って。」
傘は雹にぶつかる瞬間に雹はなくなりそして傘は透明だった色が水色となった。僕たちと同じ雨のような水色。
投げて落ちて来た傘を綺麗にキャッチすると笑顔で少女に向けて話しかけた。
「とりあえずこっちおいで。雨に好かれた人、梅雨 雫雨さん。」
梅雨 雫雨。学年は1つ下だから高校一年生。細いって印象の見た目にストレートの黒髪は清楚と思わせる印象を与える。外はまだ雨のためその見た目には似合わない水色の目で僕たちを見ていた。目元は泣き腫らしているためか手で目を隠すようにしていた。
そんな雫雨のことを話しているためか雫雨は黙ってこっちに耳を傾けている。
「雨って名前付いてるね。間違いなくこの子は雨の人だね。」
「雹を降らせる能力か…すごいな。下手したら死人が出るぞ。」
「雨の人って感情で時々暴走するの。能力って。だからさっきの雫雨が言ってたこと覚えてる?」
「覚えてるよ。」
また傷つけちゃうよ…か。
「たぶんいろんな人を傷つけてきたんだと思うよ。」
「とりあえず僕たちのこと話そうか。凛花。」
「そうだよね。私から話すね。」
そうやって雫雨に雨の人達の情報を教えることにした。戸惑い、混乱。いろんなことを一気に教えたせいで疲れきっていたけどなんとか理解してもらえた。
「やっと…わかってくれる人がいるの…?私には…。」
「そうだよ。雫雨。」
優しい声色で凛花は言い聞かせた。
こうして雨の人を1人見つけることができた。ちなみに、休み時間はとっくに過ぎていて僕たち3人は遅刻扱いになった。
次の日
その日から僕たちは3人で休み時間と放課後に屋上に集まることにした。楽しい会話をしたり、相談事など。
でも近づいていた。秋雨の時期も終わりを。 僕たちの繋がりの終わりも。誰もが想像できない形で。




