雨の中
「雨に紛れる…こと?」
「そう。雨の音、温度、湿度、匂い。すべて雨に消されるの。人間が発するものすべてを。感触は雨の勢いで。声は雨の音で。体温は雨の冷たさで。汗や息は雨の湿度で。匂いは雨の匂いで。すべてをシャットダウンされる。」
「…。」
信じられなかった。元々から存在感は薄い方だがここまでくるとまるで…
「雨の日には秋雨 玲翔と言う人は存在を認識できないの。今のままでは。」
「…そうか。」
やっとのことでこれだけの言葉が出せた。
驚きで声も失うとはこう言うことを言うんだと実感した。
「気がついてなかったかもしれないけど公園にいた時も複数の人が通ってたんだよ?でもね、気がつかなかったの。傘をさしてない人がいるにも関わらず。」
「…確かにおかしい。」
僕なら目について気になるだろうな。そんな人がいたら。
「大丈夫。雨の音が届かない場所なら効果は半減するから。それでも存在感は薄いけどね。」
「…それでもな…。」
あんまり慰めにもなってない気がする。
「うーん。そうだね。なら私の特技もしてみようかな。」
「凛花の特技?」
「ちょっと待ってね。」
そういって凛花は目を閉じる。すると凛花の黒髪が水色に染まっていく。すこしずつ。雨の色に。
そして、数秒後
「これでオッケーかな。玲翔。外を見てきてよ。」
「??わかった。」
わけのわからないまま僕は駅の中から外に出た。
すると、
「なんで?!」
「ね?私の特技、すごいでしょ?」
外は雲ひとつなく青い空が広がっていた。さっきまでの雨なんてわからないほど。晴天。
「雨雲を動かしたの。結構簡単なんだよ?」
このとき、すでにもう僕は諦めるしかなかった。普通の生活を。目の前の少女、僕の体質。少女の能力。すべてを見てしまった。
「…僕はもう、普通には戻れないのか。」
絶望感が僕の中を支配する。
「いつか戻れるよ。私たちは。それはわかるから。理由はまだ言えないけどね。」
「…そうか。」
とりあえず、凛花についていくしかない。そして、僕は凛花の見せるもの聞くものを受け止めて考えていかないと先に進めないみたいだ。
「とりあえずね、私は今日から雨に好かれた人々を探すことにする。困ってる人いるかもしれないから。」
「そうだね。それがいいかもしれない。僕も手伝うよ。何かヒントがあるかもしれない。僕たちが戻れる方法が。」
「うん!ありがとう!」
精一杯の笑みを浮かべて凛花は礼を言った!
こうして僕たちは雨の人々を探す日常が始まった。




