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第二節

「あんなのありかよ」

「なにー、それだと僕がずるしたみたいじゃないか」

「いや、気分を害したならすまん。でもな」


ムスッとした顔で、先が落とされた剣を杖代わりにして立ち上がり、


「なんだよあの剣術。あんな剣技聞いたことねぇぞ」


決着はあっさりと着いてしまった。

剣と剣がぶつかった途端に、スパッと切り裂かれたのだ。

『交叉法参式・剣殺』。それはカウンター式の剣術である交叉法の武器破壊の型。

鉄の塊である以上、剣には必ずもろいところがある。そこを一撃で仕留めるのが剣殺。

弓使いである僕が持つ極限まで鍛えた洞察力があってこその業だ。

ちなみに『交叉法剣技』は祖父から子供のころ教えてもらった剣術だ。

余談だけど、交叉法は壱式から拾式まである。


「いい感じに汗かいたし、今日はお開きってことで」

「うん、分かった」


グラシア君はスタスタと歩いて闘技場から姿を消した。

そして、それと入れ替わるようにしてざわざわという喧騒が響いてきた。学院中の生徒が集まりつつあるらしい。


「僕も頑張んなきゃ」


僕にとって『強さ』はそれほどまで必要ないけれど、ないとは言い切れない。

もしかしたらこの学院中の生徒にはグラシア君を上回るような実力の持ち主がいる可能性が高い。

それじゃ、ダメだ。僕も強くならないと。ついに念願の学園生活が始まるんだから。


「とても楽しそう、だね」





翌日。

学院生活の二日目が幕を開けた。

ちょっと夜遅くまで弓の手入れをして、短剣をピカピカに磨いていた所為か、こころなしに眠い気がする。


「zzz・・・はっ!」


危ない、危ない。深い眠りに陥るところだったよ。


「私達が使用している『スキル』とは現素と呼ばれるものと脳、正確には思考が大きく関わってきます。現素とは簡単に説明してみますと『考えたことを現実にする』能力を持つ不可視の物質です。『スキル』の発現時、人間はそれを無意識の内に体内に取り組み、無意識領域で演算を行い、それを現実に引き起こします。つまりは、貴方達の頭の中ではいつの間にこのように動きたいと認識して、それを『スキル』という結果としてその場で再現します。当然、脳内の奥底では常に常に使用者本人にとって最適な形になるように微調整が行われているはずなので、体格、身長、使用武器、などなど様々な条件が重なり、同じ『スキル』でも違う型になることが多いです」


この僕が放つ矢のように次々飛んでくる言葉をどうにか出来ません?速すぎて困ります。勉強してたからよかったけど、予習してなければどうなってたことか。


「さて、ここで問題です。現素と魔物には深い関わりがありますが、それについて答えられる人は挙手を」


シンと静まり返る教室で、一人の手が上がった。


「フィアーレ・アンティーノさん、答えをどうぞ」

「魔物とは現素が持つ『考えたことを現実にする』能力により生み出された特殊生命体が一番の定説といわれています。この星が、『これ以上私を攻撃しないでくれ。自然に生きたいんだ』と意思表現していると言われ、これを俗に世界の拒絶とも言います。魔物には理性が無く、極めて凶暴で、本能的に動いており、人が襲われることは日常茶飯事で、多数の死者が出ています。基本的に場所も大きく関わっており、海や湖ならば魚が、山や平原ならば鳥や人型の魔物が現れます。これらは現素の質によって異なるからです」

「正解、詳しい説明をありがとう。現素が濃くなればなるほど魔物もそれに比例して強大になっていきます。この付近であれば、『デイムエンド』という山が代表として上げられます。頂には、魔物として最高位に位置取る『龍』がいるとされます。他にも似たような場所がありますが、決して近づかないようにお願いします。命の保障は出来ません」


何度も念を押すように先生は言った。これって確か中等部の最初に教わるようなことらしいけど、いかんせん僕は貧乏人。そんな細かいことまで勉強しかねません。


「Zzz・・・Zzz・・・」


横目で見てみるとグラシア君は冗談抜きで寝ていた、白昼堂々と。ちょっと僕は勘弁だね。本心では爆睡したいところだけど、さすがに授業初日に居眠りできるほど僕に勇気は無いよ。


「今日の授業はここで終わりです。では今日の日直さん、終わりのあいさつを」

「起立、礼」


先生の礼に合わせて、僕たちも礼をする。グラシア君を起こそうと立ち上がると、既に先客がいた。


「あなた、あの態度はなんですかっ!」

「・・・(パチパチ)んあ?」

「『んあ?』じゃないですよっ!」


顔を真っ赤にしてカンカンに怒っているのは、授業で先生の質問にしっかり答えられたフィアーレ・アンティーノさんだ。あまりのお怒りに頭からプシューと白い煙が吹き出ていた。意味分からないとやる気の無い顔をしているグラシア君は彼女の顔を見ると、


「ふぁああ、眠ぃ。あー、お前だったのか、えぇーと・・・・・・フィア」

「今、私の名前忘れかけてましたよね!?」

「あぁ、すっかり忘れてた」

「度忘れですらない!?」


ちょっと会話の方向性が変わってきて漫才のような会話を繰り広げる二人。本当なら面倒事は嫌いな僕は速く立ち去りたいんだけれど、友好関係に疎い僕にはグラシア君以外に話し相手、というか午後を過ごせる人がいない。仕方なく二人の下まで足を運んだ。でも足取りは精神的に重かった。


「まぁーまぁー、落ち着こうよ。昨日グラシア君は闘技場でたくさん練習しすぎたんだよ。今日は身体を休めて、次から気をつければいいんじゃないの?」

「そうだよな、つなわけで後の処理よろしくー」

「さりげなく手を振って逃げるな!四大貴族と僕問題作りたくないよっ!?」

「ちょっと!私を意図的に会話から外さないでください!」

「ほら、フィアーレさんもこう言ってるから」

「ちっ、めんどいのになぁ」


しぶしぶといった表情をして戻ってきた。フィアーレ・アンティーノさんは間違いなくグラシア君と同じ四大貴族の一つ、『術』のアンティーノだ。僕の予想だと、四大貴族もあって二人は知り合いなのだろう。

もしも問題でも起こしたら権力的に僕が抹消されちゃう。歩みを止め、こちらの方を向いたグラシア君を見て、仲間もとい盾ゲットと心の中で呟いた僕がいたりする。


「つまりはまじめに授業受ければいいんだろ」

「はぁー、お兄様たちはご優秀なのに・・・それに比べて貴方は」

「あぁ?なんか言ったか?」

「抑えて!おそらく魔物継承スキルの『威圧』だろうけど、デーモンオーガは洒落にならないからね!?」


グラシア君から放たれたプレッシャーは空間が帯電してるかのようにピリピリしていると錯覚させるほど強烈だった。


「あ、すまん。それにしてもよく分かったな、これがデーモンオーガの『威圧』だって」

「まあね、僕も持ってるし『威圧』」

「へぇー、納得」

「ま、待ちなさいっ!貴方達はもうC級の亜種を倒したのですか!?」

「そうだが?」「そうだけど?」

「これだから男は、いえ漢は・・・」

「何か問題でもあるのかな?」

「大有りです!C級の亜種を一人で倒すなんて一般生徒がするレベルではありません!」

「へぇー、俺たちってこの学校でも実力的にトップクラスかー」

「うぬぼれないでください!はぁー、なぜか貴方方と話してると無性に疲れますわ」


力ない足取りでフィアーレさんは扉に手を掛けたと思ったら僕達を猫のように睨んで、


「ヘルマーさん、一時間後に闘技場に来てください、絶対ですよ」


扉を開き、教室を出て行った。僕達だけが教室に取り残された。


「ヘルマーじゃなくてフェルマーだよ・・・」

「よかったじゃないか、四大貴族の娘からプロポーズだぞ」

「あの一言のどこに告白要素が!?」

「冗談だ、冗談。あれは宣戦布告だな、なぜだが知らんが」

「うぅー、僕は何も悪くないはずなのに・・・」


ショボーンとうな垂れて、僕らは教室を後にした。






そして午後。

僕たちは闘技場に来ていた。昨日とは打って変わって早く来たつもりだったけど、既に多くの生徒が闘技場に顔を出していた。そんな中でも弓使いの距離レンジは確保できるのだから、相当広いことが窺える。

剣を振るい、槍を構え、弓を構える武装空間で、僕らはある人を待っていた。


「来ねぇな」

「遅いね」


同時に声がこぼれる。かれこれ十分ほど二人で闘技場に突っ立っているけど、フィアーレさんは姿を見せない。

「あれは脅しか?だったら二人で始めようぜ」まるでグラシア君が言うことが分かってたかのようにタイミングよくフィアーレさんが登場した。


「怖気づかず来たようですね。決闘ですわ!決闘!」

「だったら、あの戦闘狂に言って下さい」

「いいえ、貴方に申し込みました。受けた勝負は受けるが男じゃないんですか!」

「そんなんだったら男やめて女になるよ」

「なれねぇよ」


そこにグラシア君の突っ込みが入る。


「とにかく話は戦ってつけるとしましょう」

「はぁー、しょうがないな」


こっちは昨日の勝負の疲弊が抜けきってなくて、乗り気じゃないのに・・・。心の中で一人で愚痴りつつ、僕は手にグローブを装着して背から弓を抜いた。


「鏃は気にしなくて構いません。木の枝では大したダメージになりませんので」

「分かったよ」

「いや、お前鏃付きの矢を俺に目掛けて容赦なくビュンビュン飛ばしてたよな!?なんで今回気にした!?」


グラシア君の悲痛は今回無視しようか。

基本的に武器も学園で用意され、支給されることになっている。どれもこれも剣ならば刃引き、槍ならば先端が丸くなっていたりと多少の処理がされている。適切な処理さえされていれば持参の武器も使用許可が出ることになっているため、使用者は少ないけどね・・・。

これらの理由としては、死者を出さないという点が上げられる。学園の問題となってしまうので、実践用の武器は使用できないのだ。

先ほどからグラシア君が鏃がどうのこうのとうるさいが、鏃の先端はかなり丸い、学園で用意された矢だ。あれだけの威力が出たのは、弓と僕の腕の問題だ。たとえ処理してあっても熟練の達人ならばそれでいて、斬ったり刺したりできるのと同じ原理である。


「ということらしいから、グラシア君審判よろしく」

「ああ、両者構えっ!」


弓を硬く握り締め、矢をいつでもゆがえることが出来るように右手でもつと、フィアーレさんを見た。

フィアーレさんが持つ武器は杖。魔法使いのタイプのようだ。まあ、当然か。何せ『術』のアンティーノだし。


「―――始めッ!」

「『ウィンド・マイン』!」


グラシア君の掛け声と共に威勢よくフィアーレさんの魔法統系『スキル』が放たれた。

咄嗟に攻撃の姿勢を止め、回避に専念する。自分の地面が爆発し、砂埃が舞う。石がポップコーンのように飛び散った。それが連鎖反応のように次々を爆発を繰り返し、およそ十ほど立った後にそれが収まった。


「初めから強いのが来るね。『フレイム・アロー』」

「魔法・・・ッ?『ウインド・ヴェール』」


僕が放った炎の矢はフィアーレさんの包む風の膜に触れたかと思うと、明後日の方向に飛んでいってしまった。

再びフィアーレさんに目掛けて弓を引き、矢を放つが、それも明後日の方向へ。

どうやら、防ぐのではなく、受け流す防御魔法統系『スキル』のようだ。ただの防御魔法統系『スキル』よりも破るのが困難だ。

・・・さすがにあの二つは使いたくないしな。


「『牙閃一突』!」

「『ファイヤー・ボール』!」


弓の弦を引き絞り、矢を放つ。『ウインド・ヴェール』の防御を上回る威力であることを悟ったのか、炎の弾をぶつけ相殺した。爆発が矢を丸呑みし、消滅させる。


「『ストーム・サイズ』!」

風が収束して、一本の鎌へと化す。振り下ろされ、地面が抉れ、砂埃が舞う。地面との衝突に生じた衝撃が僕の髪を撫でた。ふわりと舞い上がる。

あれを避けきっていなければ間違いなく切り裂かれていた。

技量的な観点で、かなり本気を出さないと勝てなさそうだ。さすがは四大貴族。


「『砕榴弾』!」

「『ガイア・プリズン』!」


フィアーレさんの前にごつごつした岩の障壁が展開された。

これは僕が持つ『スキル』の中でも、かなりの高威力を発揮する。その上、何かを貫くということに特化した攻撃アクティブ『スキル』である。

僕とフィアーレさんの間を遮る堅牢な岩壁は衝突した瞬間、いとも簡単に文字通り木っ端微塵に砕け散った。

この『スキル』は、矢自体に負担をかける大技なため、通り抜けることが無かったが、その衝撃は別物。散らばる破片は全てフィアーレさんに向かって一直線。


「『ライトニング・エスパーダー』!」


刹那、眩い閃光と共に煙に覆われた空間を切り裂くように一振りの稲妻を纏った、いや、稲妻の剣が突き破るようにして現れた。


「おい、それ高位『スキル』・・・ッ!洒落にならない威力だぞ!」


フィアーレさんの耳にはグラシア君の叫び声が届かなかった。その魔法『スキル』は完成し、余波でなぎ払うようにして視界を晴らした。開けた視界に移るフィアーレさんは真剣な顔をしていた。


「避けなさい!」


確かに雷の剣は右六十度ほどから迫り来ている。経験上分かってしまう。回避の可否を。今回は間違いなく可能だ。でも、僕はそれをしない。

意を決して、ビリビリと空間に咆哮を撒き散らす剣に目掛けて走っていく。右手には腰につけた短剣を握っている。


「仕方・・・ないッ!」


最早呆然とした顔をしたフィアーレさんを傍目に、『スキル』を使用した。

短剣が空間をなぞるように奔った。


「『交叉法(なな)式・雷切らいぎり』」


異なった剣同士がぶつかり合った。

その瞬間、雷がぬめり取られるかのように、剣にまきつくかのようにして短剣に吸収された。すぐに手元を返すと、黄色の閃光は急に方向転換し、逆再生のようにフィアーレさんの足元に向かって飛んでいった。

交叉法漆式・雷切。飛んできた雷を剣をうまく操って飛んできた方向に返すスキルだ。


「きゃああああ!」


予想外だったのか、劈くような悲鳴を上げた。跳ね返した雷は地面に当たって爆散。発生した衝撃がフィアーレさんを吹き飛ばした。


「ふう、危なかった」


雷切で軌道を逸らすのは至難の業だ。基本的に飛んできた軌道を取り、相手にダメージを与えるカウンター技だからだ。


「その短剣、俺の片手剣を切断したら、今度は魔法斬りか?」

「純粋な剣技だよ。魔法返し(マジック・カウンター)って言うんだったかな?」

「すげぇな」


関心したかのようにグラシア君はうなずいた。


「いたた・・・」


大きく後ろに吹っ飛ばされたフィアーレさんが起き上がった。見た感じケガはない。骨とかは見ただけじゃ分からないが、痛そうにしてないので大丈夫だろう。


「大丈夫?ケガは?」

「なんとか、大丈夫ですわ。悔しいですわ、ことの始めは私が悪いというのに心配されるとは」

「学校内だから高位『スキル』使うのは控えろよ」

「まさか貴方に注意される日が来ようとは・・・くっ、屈辱ですわ」

「そこまでかよっ!?」

「まあまあ、ここは闘技場ってこと忘れないでよ」

「・・・っ!私としたことが」

「とりあえず場所変えるか」


グライス君の提案に乗って、僕らは闘技場を出た。

そして、場所を変えて会話を再開した。


「剣も魔法も弓もこなすなんて・・・貴方一体何者ですか?」

「うーん、普通に村育ちの子供としか言えないしなぁ・・・」

「そうだぞ、フィア。あまり言及するな。俺たちとは違って自力で鍛えてきたんだろうからな?」

「ということは、貴方の『スキル』・・・全て自力で?」

「弓と魔法は自力、剣は祖父からの継承だね」

「そりゃ、すげーよ。俺たちは金でスキルを買ったようなもんだからな」

「お金で・・・『スキル』?」


グラシア君の言葉にどうしても聞きたくなったことが出来た。首をかしげると、


「ああ、『スキル』の極意書?みたいなのがあってな、それを使って習得するけど、約七割は失敗するな。金を払っただけで無駄になるけど、それでも買う奴らがいるからな。高位『スキル』の大体はそうやって習得したものじゃねぇか?」


まあ、『瞬天閃花』は俺の家の継承『スキル』だが。グラシア君は笑ってそう付け加えた。

そして、その言葉を聞き安堵していた僕がいたことに気付く。お金で『スキル』が習得できたら、僕の今までの努力が否定されてしまう。


「大体、そんなもん考えるのが間違ってんだよなー。今じゃ、メジャーになっていく『スキル』が多くて対策が練られるぎなんだよ」

「みんな同じ『スキル』を持ってるってことだね?」

「継承『スキル』でも、その手の道場を開いてるからな。交叉法っていうお前の剣技は聞いたこと無いけどな」

「・・・交叉法、名の通りカウンター術なんでしょうが、あんなに多彩なことが出来る剣術ものは聞いたこと無いですわ」


グラシア君の台詞にあった剣術の名前にピクリと反応する。


「確か・・・祖父が、作っておいて誰にも教えることは無かった、って言ってたし」

「ずいぶんと破天荒な性格だったんでしょうね」

「斧とか大剣をブンブン振り回してそうな強面親父みたいな感じだな」


はい、それ正解。大正解。

草刈に鉈を使い、薪割りを素手で行うほどの肉体派だった。

・・・あれ?ここまで来ると、肉体派で済むのかな?

よく分からない観点で心配になる僕であった。


「そろそろ帰りますわね。ちょっと疲れました」

「身体休めて、明日も頑張ろー」

「・・・その前に授業はしっかり聞いてくださいね」

「「は、はいぃぃっ!」」


ただならぬ雰囲気を発したので、声が引きつった。

フィアーレさんはふらふらした足取りで、出口に向かっていった。


「はぁーあ、疲れたー。肉体精神両方ともね」

「来たのはよかったけど、結局何も出来なかったな・・・。なあ―――」

「嫌だ」

「まだ何も言ってねぇよ!」

「どうせ、リベンジさせろとか模擬戦しろとか言うんでしょ」

「そうだが」

「じゃあヤダ。そろそろ帰ろうよ、僕は武器の手入れをしたいし―――」

「したいし?」

「フィアーレさんには怒られたくないし」

「よし、戻るか」


今までの態度は何だよ。あっさりと尻尾振ったよ。

うん、そうだよね。威圧なしであのプレッシャーだよ?本気で怒らせれば何が起こるかわからない。


「短剣に魔法に弓、お前はどれをとってもかなりの腕だけど、一体なんの『神の祝福(ゴッド・ブレス)』を受け取るんだろうな?」

「『神の祝福』?ああ、能力拡張のことだね!」

「そうだ」


聴きなれない単語だったが意味は理解できた。王都の方ではそう呼ばれているみたいだ。

能力拡張。それは自分に合わせて肉体を強化するものだ。当然、それに合わせて弱体化もする。

剣を使う騎士や剣士などは筋力腕力、それにスピードなど。魔法使いや魔術士は知性や体内現素が、弓使いならば隠密性や視力など自分に相応しい能力が強化される。

それに、スキルの習得率も上がるらしい。当然、専門外のものはとことん不可能の文字に埋もれていくようだけど、それに余るほどの特典がもらえるから気にすることは無い。

確か、ここではあと半年もしないうちに儀式が行われるらしい。


「俺は片手剣士かプラスそれに盾の持てる軽装戦士だろうけど・・・お前はどうなんだろうね?」

「さあね」


言葉を濁すが、僕には弓しかないと思っている。確かに自分の意志で能力拡張は出来ないけれど、自分にこの上なく弓が適切だと思っている。短剣や魔法は弓ではこなしきれないものの処理、つまりは代案としてしか見ていない。


「戻るか」

「そうだね」


僕たちは闘技場に手を振り、背を向けて学生寮に向かって歩いていった。

この学院には、能力を数値として表すことができる装置があるらしい。

その装置で能力拡張後の数値を必ず計測することになっている。そのときの全ての能力が上昇している者をこの世界ではこう呼ぶ。




―――勇者と・・・。

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