夏が来ると想ふ君
今回は短編です。読んでいただけると幸いです
2020年7月ーーー
「おかぁさん!」
「なによーもう玲奈ったら!」
「ダンボール運ぶの手伝ってよぉー!」
「引っ越すのはあんたでしょうが!」
私は今日この田舎から引っ越して上京する。ひまわりばたけとももうお別れなのかぁ、さみしーなぁ。
でも夏が来るたび想い出す15歳の夏を
2015年7月――
その教室の隅に、まるで季節から置き去りにされたような女の子がいた。
白い肌に、青みがかった黒髪。瞳も深い黒で、どこか遠くを見ているような横顔。
まるで、時の止まった風景にだけ存在しているようだった。
誰にも話しかけられることも、誰かと笑い合うこともなく。
それでも、決して“孤独”には見えなかった。
まるで空気のようにそこにいて、なのに、不思議と目が離せなかった。
放課後、私はとうとう声をかけた。
「……ねえ、なんでいつも一人なの?」
彼女はゆっくりと、こちらを振り向いた。
細い指が耳にかけられ、長い髪がさらりと揺れる。
その仕草があまりに綺麗で、私は一瞬、言葉を失ってしまった。
「……名前、教えてよ」
少しだけ間が空いた。彼女は私の顔を、まるで探るようにじっと見つめた。
「え? あ……夏希。夏希麗美」
「そっか。夏希さん、ね。綺麗な名前」
そう言った私に、彼女はほんの少しだけ微笑んだ。
その笑みは、懐かしいようで、どこか切ない光を宿していた。
それが、私と彼女の最初の会話だった。
それから私たちは、少しずつ話すようになった。
昼休みに。放課後に。帰り道の途中に。
まるで、長い時間をかけて関係が編まれていくように。
でも今思えば、それはあまりにも静かすぎる“日常”だったのかもしれない。
彼女のことを、クラスの誰も話題にしないことも。
私以外、誰も彼女に話しかけていないことも。
それなのに、私は気づかなかった。
──でも、今思えば、おかしかったんだ。
私たちは、こんなに一緒にいたのに。
彼女以外、誰も私の話を聞いてくれなかった。
廊下ですれ違うクラスメイトは、私を避けるように通り過ぎるし、
先生は私が挙手しても、決して指すことはなかった。
最初はただ「嫌われてるんだ」と思っていた。
でも、違った。
ある日、彼女がぽつりと聞いた。
「……ねえ、麗美って、どこに住んでるの?」
「さあ、覚えてないや。地元はこの辺ー」
「……いつから?」
「いつだろうね。生まれた時かな?ずーっとここに居る気がするの」
そのときの彼女の表情を、今でも覚えている。
驚いたような、でも、何かに納得したような――そんな顔だった。
彼女は、私が何者なのか、きっと分かっていたんだと思う。
私よりも、ずっと先に。
8月の終わり。
彼女はいなくなった。
教室にも、帰り道にも、図書室にも、もう姿はなかった。
私は、どれだけ探しても、彼女を見つけることができなかった。
……誰にも聞けなかった。
私の声が届くのは、彼女だけだったから。
夏の空はまだ青くて、
蝉の声はうるさいほど響いていたのに。
私は、一人だった。
はじめから、ずっと一人だったのかもしれない。
──でも、あの夏だけは違った。
彼女が、私に気づいてくれた。
私に話しかけてくれた。
私の名前を呼んでくれた。
あれが夢だったとしても、
幻だったとしても、
それでいい。
無我夢中で走っていると海辺にある人影が見えた。それは彼女だった。
「海入っちゃダメだよ」
彼女がほほえみながら言う。
「なんで?」
私がそう言うと悲しそうな顔をしていた。
「透けちゃうでしょ」
「え?」
本当はわかってたでしょ?
その表情、仕草、声からわかった。私はてっきり彼女が幽霊なのかと思っていた。でも違った。それどころか私は、、、
「玲奈!!」
彼女の名前を初めて呼んだ麗美の顔は笑っていた。
そこで玲奈は目を覚ました。夏が来るたび夢に出てくる麗美。果たして本当にあった出来事なのか不思議なぐらい記憶があやふやだ。そう考えているのに目尻から暑いなにかがふとんにたれた。
大粒の涙だった。
夏が来るたび君を想ふよ
青春ですー!(姫ちゃん)
儚げで夏限りってのがええ!(エリファー)
この作者短編小説かきたんだぁ(天空神)
⬆️長編キャラクター達