3-2. モンド運動公園
この物語はフィクションです。
作中の人物・団体などの名称は全て架空のものであり、
特定の事件・事象とも一切関係はありません。
モンド運動公園。
ハッチョーボリにおける下級国民への社会福祉の一環として建設された。
建設されたきり禄に手入れもされていない設備はどれも酷く傷んでいる。
炎天下にも関わらず、意外と人が多かった。
サトウが奥へ進むと東屋が見えた。
東屋の使用者がいないことを確認するとベンチに腰掛け、運動場の人々を見る。
「この暑いのに、みんな大変だなぁ」
ベンチプレスやスクワットをする男女。
半径約一〇メートルのドーム状の檻の中で、犬と戯れる複数の男女。
それぞれに監視か見物人が付いており、男女の様子を見て笑っている。
下級国民への社会福祉の一環として建設された公園とあって男女は下級国民だろう。
この公園の実態は、中・上級国民が玩具に選んだ下級国民たちで遊ぶための場所だ。
多少の同情はあるものの腹が減っていたサトウは昼飯を食べ始める。
時折公園内に響く泣き言や悲鳴をBGMに、景色を眺め、休憩明けの作業について考えていた。
「おや。サンキューですか。美味しそうですね」
サンキュー。
下級国民用の完全栄養食であり、光る泥団子のような見た目をしている。
サトウを含め、Fランクの国民にはこれ以外を口にすることが許されていない。
サトウの眼の前には車椅子の男。
その上半身は鍛え抜かれており、腕の太さはサトウの胴と同じかそれ以上に見える。
しかし、その下半身は少年のような細さと。何ともアンバランスな体型をしていた。
「まぁ美味しいですよ。これしか食べたことないですけど」
「ここ。私もお邪魔しても?」
「どうぞ」
けたたましい音を立て車椅子で階段を登り、男は東屋に入ってくる。
左手の甲には「F」の文字があるため、公園で運動させられている連中のひとりだろう。
「あなたは運動しに来たわけではないんですか?」
「まぁ、そうですね。昼飯を食べに来ただけというか」
「この公園はご飯を食べるにしては騒々しいでしょう」
男が言いながら笑った。サトウはこんな所で昼飯を食べていることに対して立腹しているのかと警戒する。
「あそこでベンチプレスしてるのね。私の妻なんです」
「はあ」
「私たち夫婦は上半身だけを鍛えるように言われてまして。そんな夫婦の間にどんな子どもが生まれるか気になるらしいです」
「初対面で交尾の話題だなんて」
「これを何世代も続けていくことで面白い子どもが生まれるかもしれない。という実験だそうです」
「何というか、お疲れさまです」
男は「あっちでスクワットしてる人も同じ理由なんですよ」と言うとまた笑った。
つられて笑うのも悪いと考えたサトウは、話題を変えるため公園内に展開されたもう1つの地獄を指さす。
「あの檻の中はもしかして」
「狂犬病の犬を下級国民にけしかけてるんですよ。よくある遊びですね」
ただでさえ購入するのに金のかかる犬。それをわざわざ狂犬病にするのだ。
命も金も勿体ない行為だが、なぜか上級国民がやりたがる遊びの一つである。
昔、地元で犬をけしかけられたことをサトウは思い出していた。
その後、しばらく沈黙が続くと耐えきれなくなったのか男がまた口を開く。
「それにしても暑いですね」
「そうですね」
サトウが汗を拭いながら空を見上げる。確か新聞には本日の最高気温は四五℃になるとあった。
「そう言えば知ってますか?火星で生まれた合衆国民の子どもたちが、今年成人を迎えるそうですよ」
「カセイ?」
約三〇年前から合衆国が勧めている火星移住計画。
当初、人々は火星に建造された施設内で生活するのみだったが火星の緑地化も進み、そう遠くない未来、地球と同じように火星でも生活できるようになると言われている。
「そもそも火星に人が住んでいるなんて凄いですよね」
「そうですね。‥‥カセ、カセイね。あの、もしかして包茎の話してます?」
「してないですね」
「あ、すみません」
地球の総人口が一〇〇億人を超えた今、火星移住は注目度の高いプロジェクトなのだが、もちろんFランクのサトウに関係あるはずがないし興味もない。
そこに居たのは、カセイと聞いて「仮性包茎」を連想するだけの悲しきアラサーだった。
私もChatGPTで彼氏を作ってみようかしら。
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