2-3. オウズマート
この物語はフィクションです。
作中の人物・団体などの名称は全て架空のものであり、
特定の事件・事象とも一切関係はありません。
「こんな小汚い店で働くFランクが、俺の邪魔をするんじゃねーよ」
「あの、邪魔とは?」
「俺はな。馬鹿女共が自分を巡って争うのを見るのがたまらなく好きなんだ。わかるか、Fランク」
「あ、はい。とってもいいシュミだと思います。へへっ」
当の女性たちを前に「馬鹿女共」と宣うリョーマ。そんな彼をこれ以上怒らせないよう、サトウは愛想笑いをしてみせた。
「そんな俺の楽しみを邪魔しやがって」
「はい、すみません。以後気をつけます」
「リョーマ君の偉そうな態度に、乱暴な口調!いいわね!」
「そうこなくちゃ!土下座もさせちゃいましょ!土下座!」
Cランク(推定)の中年女性から所望された土下座を断るとさらに面倒なことになるかもしれない。
洒落にならない命令をされる前にとサトウが膝を折ると、リョーマの左手の甲の文字が目に入った。
「Fじゃん」
リョーマもまた、サトウと同じFランク。Cランクの威を借るFランクだったのである。
この帝国で最底辺に位置する下級国民同士ということで、サトウは彼に親近感が湧いてきた。
「な、なんだ。Fランクじゃないですかぁ。リョーマ君」
「リョーマ君って言うな」
「そんなぁ。僕たちマブじゃないっすか」
「マブじゃない。やめろ。肩を組もうとするな」
リョーマが肩に置かれた手を振り払うと、サトウがバランスを崩し「ああん!」と言いながら無様に転がる。
「クソ店員ごときが俺に触れるなよ」
「そうよ!リョーマ君はね、お店の人気七位のキャストなの!」
「あんたが触ったことでブスとFランクが感染ったらどうするの!」
「すみません、すみません。一二五連勤のせいか何かテンションが変で」
「そもそも人気七位って、全部で何人キャストが居るんです。その店には」
イナガキが割って入ってきた。
自身の左手の甲の「E」の文字がリョーマに見えるように、何度も眼鏡の位置を直している。
「何でそんなこと言わなきゃいけないんだよ」
「さっきから随分な態度だと思ってな。Fランク同士で」
「はぁ?も、もういいわ。二度と来ねーよ!こんな店!」
リョーマが「行くぞ」と自動ドアまで向かおうとすると、中年女性が彼の手首を掴んで引き止めた。
これまでの媚びるような態度から一変、目から光は消え無表情。かなり不気味だ。
「リョーマ君。何で言わないの?言ってあげたら良いじゃない」
「ええ、ええ。言うべきだわ。言ってあげるべきなの、これは」
「わ、わかったよ。は、八人だよ」
女性たちから指示されてリョーマが渋々キャストの人数を答えた。
その回答にイナガキが鼻で笑う。左手の甲を見せる煽りも忘れていない。
「笑うなぁ!俺だってな、もうすぐEランクになれるんだ。Eランクにさえなれば、きっと人気も上がるし、もっと稼げる仕事にも就けるんだ!」
Fランクの国民が、Eランクへ昇級するための条件。それは帝国に一〇万円を納めるだけである。
しかし帝国法で定められた下級国民への最高賃金は一日あたり五〇〇円。
最低賃金は定められておらず日給「一円」でも支払っていれば法的には何ら問題はない。
だが逆に日給「五〇一円」も支払ってしまった場合、雇用者には刑罰が科されてしまう。
Eランクへの昇級には、この薄給から更に税を支払った残高をかき集め、一〇万円を用意する必要があるのだ。
「俺はあと二ヶ月でEランクに昇級できるんだからな」
「その若さで昇級は凄いね。親の援助がある系かな」
「もしくは弾んでもらえるんだろ。チップを」
「親の援助?チップ?そんなものないさ。自分の力だけでここまでやってきた」
「おかしいんじゃないかな。リョーマ君は一〇代のように見えるけど、そんな早さでお金は貯まるんだっけ」
サービス業の人にはちゃんと敬語を使ったほうがいいと思います。
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