2-2. オウズマート
この物語はフィクションです。
作中の人物・団体などの名称は全て架空のものであり、
特定の事件・事象とも一切関係はありません。
絶対にオウズマートのシフトを増やしたくないイナガキ。
一二六連勤以上が確定して絶望するサトウ。
そんなことどうでもいいから、ちゃんと接客してほしいワン。
各々が持ち場に戻ると、また自動ドアの開閉音が鳴った。
サトウは眺めていた新聞を畳んでカウンター上に置き、渾身の挨拶を炸裂させた。
「っしゃいませ」
「元気だセ。ワタシのときと変わってないナ」
「すみません。ちょっと、痰が絡んじゃって」
わざとらしく咳払いをしながらサトウは入店客を見る。
若い男が一人と、中年女性が二人。
女性はどちらも厚化粧で個性的なファッションをしている。少なくともCランク以上の身分だろうか。
若い男は、襟足だけ伸ばした角刈りという奇抜な髪型。それなりに容姿が整っており身綺麗であるため、彼らは近所にある女性用風俗店のキャストと客だと予想できる。
ハッチョーボリのように下級国民も働けるような地区には、風俗店や賭博場・その他違法スレスレなサービスを提供する店が点在している。
必然的にこのオウズマートの利用者もそういった店の従業員や、その店を利用する客が多くなるのだ。
「キャスト一人が、お客を二人連れてくるのは珍しいですよね」
「3Pだろうナ」
「あぁ‥‥、可哀想に。働くって大変だなぁ。ということはあの変な髪型も何か関係が?」
「あれはファッションだヨ。一〇〇年前にモ、襟足だけ伸ばしてる変な奴は居タ」
来店もあったのだし真面目にしなければ、とサトウはカウンター上の新聞を元の位置に戻す。
すると何やら中年女性同士が激しく言い争う声が聞こえてきた。
しばらく様子を見たが商品が床に落ちる音までし始め、争いは激化しているようだ。
サトウはため息をつきながら様子を見に行くことにする。レジを離れる際、ワンのことも誘ったが「ワタシも怖いヨ」と振られてしまった。
「お客様。どうかされました?」
「この後どっちがリョーマ君に先に抱いてもらうかで!この女が譲らないのよ!」
「うるさいわよ!先週はあんたが先だったじゃないの!あんたが譲りなさいよ!」
「わぁ、あんまり聞きたくない会話」
女性たちはリョーマと呼ばれた男のTシャツの両袖を掴み合い。綱引きが始まる。
「お客様!長くなりますか、これ!一度退店してもらうことはできますか!」
「ちょっとぉ!リョーマ君の服が破れちゃうじゃない!離しなさいよ!」
「あんたが離しなさいよ!リョーマ君が怪我でもしたらどうするのよ!」
「あの、一度、せーので離してみては!お客様!すみません!お客様!」
3人で言い争っていると、Tシャツが胸元あたりから勢いよく破れ、前衛的なタンクトップのようになってしまった。リョーマが寒そうに二の腕を撫でている。
その様子を見た女性たちは「きぇぇぇあぁぁぁぁっ!」「格好いいわぁ!抱いてぇ!」と口々に騒ぎ始めた。
一体どういう茶番だったのだろうか。
何はともあれトラブルは収まったと判断したサトウはレジに戻ろうとする。そんなサトウの背中に向かって、初めてリョーマが声を出した。
「おい。Fランク」
わざわざ階級でこちらを呼ぶ相手に碌な人間はいない。
髪型についてチクチク言葉で言及しそうになる気持ちを抑え、サトウはリョーマの次の言葉を待った。
「東京は怖い街」という偏見だけで話を書いていきます。
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