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2-1. オウズマート

 この物語はフィクションです。

 作中の人物・団体などの名称は全て架空のものであり、

 特定の事件・事象とも一切関係はありません。

「‥‥ってことがあってね」

「何も入ってこなかった。話が」


 職場にて。サトウは昨晩の出来事を同僚に話していた。

 だが蝉で童貞を捨てるような、あまりに頭の悪い内容に早々に興味を無くした同僚は、品出し準備のためにバックヤードへ向かってしまう。


 オウズマート。

 ハッチョーボリ、ヤエス通りにある小売店。

 帝国中の小売店がIoTで無人化したにも関わらず、この店では帝国法によってF・Eランクに位置づけられた青年たちを雇用している(日給五〇〇円)。


 来店する客もないため暇を持て余したサトウは、売り物の新聞に目を通していた。


「水道水の水質悪化ね。飲水なんて買う金ないのに」


 自動ドアの開閉音が鳴った。

 入店した人影に対し、サトウはレジの内側から小さな声で挨拶した。


「っしゃいませ」


 バックヤードから同僚の「らっしゃーせー」という声も聞こえる。

 新聞を眺めていたサトウが顔を上げると、男と目が合った。


「ンー、サトゥ。もうちょっト、元気に挨拶できるカ」

「すみません。朝一で声が出なくて」

「朝一というカ、いつも声が小さいヨ。ワタシがこの国きたトキ、挨拶は大事ト、教わったヨ」


 サトウは申し訳無さそうに、だがどこか照れたように「へへっ」と言いながら鼻の下を擦る。


 カタコトで喋る男の名はワン。

 超高齢化施策以前、海の向こうの共和国からやってきた老齢の移民であり、この店のオーナー兼店長。

 小売店を無人化せず下級国民を雇用する変人だが、サトウにとっては一四年間も面倒を見続けてくれている恩人とも言える人物だ。


 サトウが声の大きさで注意されるのはいつものことで、しばらく声を出していないと「あっあっあっ」しか言えなくなるため敢えてレジ打ちを担当させられていた。


「もう何年も言ってるのにナ。給料減らすカ」

「勘弁してください。もう四ヶ月以上休みなしですよ?いい加減に限界です。ずっと休んでるけど、ゴ君はどうしたんですか」


 サトウは元から接客ベタだが、最近は特に調子が悪い。

 通常であれば週休一日制なのだが、出勤しなくなったゴという同僚の穴を埋めるためにシフトを増やされたことにより本日で一二五連勤目なのである。

 彼は連日、血尿を出す夢を見ることにも悩んでいた。


「ゴ君は田舎の家族への仕送りが足らないとかデ、人体実験のバイトに行ってるヨ」

「前にも臓器売るとかで休んでませんでしたっけ。大丈夫なんですか、そのバイト」

「今回は何だったかナ。ロボ、何だっケ。大昔にあった性格を変える手術を再現するらしいヨ」

「絶対ヤバいやつですよね」


 下級国民が生活苦のため怪しげな治験や、人体実験に参加することはそう珍しくもない。

 サトウはそういったものに参加した経験は無いが、参加したきり消息を絶った知り合いは多い。


 バックヤードから戻り、品出しをしていた同僚が通りかかった。


「もう戻ってこないかもな。ゴ君は」

「そうだね、イナガキ君。相談なんだけど、もっとシフトに入れない?」

「兼業の方が忙しい。無理だ」


 兼業が忙しいとアピールする同僚。

 この長身眼鏡の男はイナガキ。その左手の甲には「E」の文字が見える。


 Fランクの国民は、ある条件をクリアすることで仮中級国民とされるEランクへの昇級が可能となる。

 だが薄給・長時間労働のFランクへ課す条件にしては難易度が高く、多くの人々が昇級できずにいるため珍しい文字である。


「あぁーん!一二六連勤以上が確定しました!そろそろ本当に血尿が出るってば!」

「祈るしかないな。ゴ君の帰還を」

 実際、八丁堀ってどんなところなんですかね。

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