第7話 死闘、果ての勝利
「この先にボスがいるのか」
第1層では3匹のゴブリンを倒し、立て続けにスライム+ゴブリン・ナイトと戦った。
その後2匹のゴブリンを討伐し、第2層へと降りた。
第2層では5匹のゴブリンの群れと遭遇し、そこでポーションを2つ消費してしまったが……。
「まぁ、及第点といったところだろうな」
第3層、ここはボスがいるフロアだから雑魚モンスターはいない。
女神の神殿と同じくまっすぐ歩を進め、俺はいま、ボスの間の前に立っている。
これまでに獲得したのは魔晶石の欠片が4つとSptが1.3。
小数点第1位以下は割り振れないから、今の俺が+できるのはたったの1ポイントだけか。
とはいえ、+しないよりかはマシだよな。
俺はステータスをオープンして、攻撃力に1Sptを割り振った。これで俺の攻撃力は11となり、ロングソード込みで14まで上がった。
ボスモンスターは他の雑魚と比べると全体的に能力が底上げされている。でも、攻撃力が14もあれば多少のダメージは見込めるハズだ。
「さてと、行くか」
俺は意を決して、両開き扉を開け放った。
#
扉の先には、円形に開けた吹き抜けのホールが広がっていた。そして最奥部分には巨大な緑色のモンスターが佇んでいる。
バタンッ――!
背後で扉が閉じられると同時に、円形の壁面に沿って並べられた松明に火が灯されていく。
シュボッ!
ボッボッボッ、ボボボボボッ!
全ての松明に火が灯された。
そしてそれが合図であるかのように、ソイツはゆらりと立ち上がり、赤く光る邪悪な双眸が俺の全身をギロリと見下ろした。
その右手には巨大な鉄斧が力強く握られている。
間違いない。
あれはゴブリン種の中でも上位のモンスター、ゴブリン・アックスだ!
俺は反射的に身震いして、ザッと飛び退いた。
直後、ゴブリン・アックスの巨大な鉄斧が地面に突き刺さり、無数の瓦礫片が舞い上がる。
「――ッ、早い!」
あの巨体で、なんて速さで走りやがるっ!
『フシューーーーー……」
さっきまであそこには俺の頭部があった。
引いていなかったら、今頃は俺の頭は薪のように真っ二つだ。
「ぉおおおおっ!!」
ザンッ!!
俺は野球のバッドを素振りするように、両手でロングソードを振り抜く。
『グオッ!?』
「なっ、今の一撃でこの程度だと!?」
たしかにダメージは与えた。
けれど、あれじゃ最大HPの1/10どころか1/20も削れたかどうか......。
『オオ”ゥッ!!!』
ズガッ!!
「ぐっ、うう”う”う”!!!!!」
なんって重さ!!
コイツ、本当にFランクモンスターなんだよな?
あんな羽虫を振り払うみたいな動作で、どんな威力だよっ!
「ぐっ、がはっ!」
地べたを無様に転がりながらも、それでも俺はロングソードだけは手放さないようにと握る拳に力を入れる。
武器を手放せば、いよいよ勝機は無い。
「ふっ!!」
俺は地面に剣を突き刺して、吹き飛ばされそうになる体をその場に留めた。
前方に視線を向ければ、ゴブリン・アックスは既に追撃の構えに移行し、こちらに向かって突進してきていた。
ズドドドドッ!
激しい地響きがフロア全域を包み込み、松明の灯が一層激しく揺らめく。
『ゴァァァアアアアアアッッ!!!!!』
ドッゴォオンッッ!!
「ぐあああっ!!」
ダメだ、避けるだけで精一杯だ。
「はっ、はぁっ、はぁ。フーッ、せめてトラップでもあればいいんだが……」
ダンジョン・トラップはシーカーに牙を剥くが、うまく活用すればモンスターを嵌めることも可能だ。
『グルゥ……、グウ、オオゥ!』
とその時。
ゴブリン・アックスの攻撃で撒き散らされた土煙が晴れると同時に、俺はある光景を目の当たりにした。
巨大な鉄斧が地面に深々と突き刺さり、抜けなくなっているのだ。
これは千載一遇のチャンス!
「はぁぁああああっ!!」
この隙を無駄にしてはならない。
頭ではなく本能がそれを告げ、俺は本能に突き動かされるがままに全力疾走した。
距離を詰め、がら空きの胴体に可能な限りの斬撃を浴びせかける。
「ふん!!」
ザシュッ!!
『グッ、ガアッ!』
「はあッ!!!!」
ザンッ!
『グムゥ、グァッ!!』
しかしゴブリン・アックスは防御行動を取らず、必死に斧を引き抜こうとしていた。
ダメージはある。
あるが、そこまで大きなものではないということだろう。
しかしゴブリン・アックスの動きが封じられたことで少し余裕が出てきた。
冷静さを取り戻した俺は、即座にステータス画面を開いた。
「ステータス・オープン」
ヤツが動けない今が絶好のチャンス。
今のうちに、Sptを再配分する!
――――――――――――――――――――
斎藤聖真:Lv1 男 17歳
P2
HP35 +
MP5 +
攻撃力11→16 +
#鉄のロングソード 攻撃力+3
防御力10→5 +
魔法攻撃力1 +
魔法防御力1 +
素早さ10 +
スキル ステータス操作
職業:無し
Spt:0.3 (※tips)
――――――――――――――――――――
ここまで攻撃が通らないとなると防御は捨てるしかない。
「全部のSptを攻撃力に加算してやる!!」
本当にSptを振りなおしますか?
ウィンドウに表示された文字をノータイムでタップする。
これで俺の攻撃力は武器込みで19。
代償として防御力は5も下がってしまったが、そこは割り切らざるを得ないか。
『グッ、グアアッッ!!』
ズゴゴゴッ!!
俺がステータスを振りなおしたのと同時に、ゴブリン・アックスが鉄斧を地面から引き抜いた。
『グガァァァアアアアッッ!!!!!』
「はああああああああッッ!!!!!」
ガキィィィンッッ!!!!!
巨大な鉄斧とロングソードが衝突し、激しい火花を散らす。そしてゴブリン・アックスは、明らかな動揺を見せた。
『グア!??』
「おおおおおおッ!!!!」
俺の攻撃力がさっきよりも強くなって、そのことに驚いたのだろう。
その一瞬の驚愕が命取りだ。
ザシュッ!!!!
俺は渾身の力で刺突を放ち、そのロングソードはゴブリン・アックスの腹部を深々と貫いていた。
『グッ、ギャガァアアアアアアッッ!!!!!』
ゴブリン・アックスが苦痛に悶え、縦横無尽に斧を振るう。
そしてその斧頭が俺の左腕に直撃した。
ぐしゃ、メキメキ――ッ!!
「~~~~~~~~ッ!!!!!」
ぐうう!!
さっきよりも相当強い威力……防御力を下げた弊害ってわけか!
だが、左腕の一本くらいなら差し出してやるッ!!
俺はお前に突き刺したこの剣を、絶対に引き抜かないッ!!!!!
「う、ぉぉお、おおおおおおおッ!!!!」
『ギッ!? ギャァアアアアッッ!!!!」
全身全霊の力を込めて、渾身の力でロングソードを突き刺す。
強く、深く、もっと深く!!
もっと強く剣を押し込め!!
この一撃で、コイツの命を確実に断ち切るんだっ!!!!!
「お、おおおッ、ぐぅう!」
優夏!
俺の可愛い優夏!
どうかお兄ちゃんに、力を貸してくれッ!!
「う、お、お、おおおおおおおおッッ!!!!!」
俺がロングソードを押し込むと、ゴブリン・アックスも負けじと斧頭を打ち付けてくる。
何度も何度も何度も打ち付け、その度に肉が抉れ血が噴き出し、俺は視線の端に白い物体を確認した。
いつしか、左腕から骨が剥き出しになっていた。
だがそれがどうした!!
俺は優夏のために勝たなきゃならないんだ!
優夏を想う俺の気持ちが、痛み如きに屈すると思うなッ!!
「ぬぅああああああああッツ!!!!!」
ゴリッ!!
切っ先がなにか硬いものに当たる。
直後、ゴブリン・アックスが紫色の血液を吐き出して、ガクンッ! と膝から崩れ落ちた。
どうやら壊れてはいけない器官に傷が付いたようだ。
『ゴバァッ、バ、ガア……』
「はっ、はっ、はっ、はぁ……ッ」
すぅー……はぁーー……。
俺は大きく息を吸って、ゆっくりとロングソードを引き抜いた。
「終わりだ」
ザシュッ!!
ゴブリン・アックスの喉元はガラ空き。
ロングソードを突き刺すのに、微塵の苦労も無かった。
ブシュゥウッ!!
大量の血液が噴出し、巨大な体躯が地に倒れ伏す。
そして死闘の終わりを報せるかのように、例の機械音声が脳内で告げた。
<ボスモンスターを撃破しました。特別ボーナスとして5Sptが加算されます>
俺はその場に倒れ込んで天井を眺めた。
そして声にならない声で、呻くように呟いた。
「5ポイント――Fランクモンスター50匹分か」
さらに嬉しいことに、ゴブリン・アックスは魔晶石をドロップしていた。
欠片でなく、れっきとした魔晶石。
2年間シーカーをやってきたが、手に入れるのは初めての経験だった。
「ははっ。苦労した甲斐、あったな…………」
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