第3話 いざ、女神の神殿へ
※第2話で魔晶石がドロップする描写がありましたが、正しくは魔晶石の欠片だけがドロップしています。魔晶石はドロップ率がかなり低いアイテムです。
母さんは、帰宅してからずっと泣きっぱなしだった。そして自分のことを責め続けている。
「私が倒れなければ……もっともっと働ける体力があれば! そうすれば今頃はお金が貯まってたかもしれないのに。うう、ごめんね。苦しい思いさせてごめんね、優夏。う、ひぐっ……」
俺はその光景をただ黙って見ていた。
どんな言葉を掛けてやるのが正解なのか、まるで分からなかった。
でも、もう腹は決まっている。
俺は明日、高難度ダンジョンに挑む。
そして死ぬ。
そうすれば俺にかけられたシーカー保険が降りる。その額は5000万以上!
優夏の命が助かるのなら、俺の命なんて安いものだ
とはいえ、F級のシーカーが高難度ダンジョンに挑むなんてのは不可能だ。
挑戦しようにも常設してる探索者協会の人間、もしくは警備員に止められるのがオチ。
だから俺は探索者カードを偽装する。
今の時代、画像の合成なんてのは簡単だ。
もちろん偽装なんてのは数日でバレるだろう。
だが、その頃には俺は死んでいる。
シーカー保険のいいところは、モンスターに殺された場合は絶対に金が振り込まれるというところだ。
俺は自室に籠り、シーカー御用達サイト『ザ・シーカーズ』にアクセスした。
このサイトはダンジョンの出現・消滅の情報などがリアルタイムで更新されている。
それだけでなく、装備品やアイテムの売買も可能だ。
また、動画配信を行うこともできるため、自分の実力を発信することも可能。
つい最近だと本部風馬というシーカーがA級ギルドに引き抜かれていたが、それもこのサイトに投稿された動画がキッカケだ。
「なるほどな。一番近い高難度ダンジョンは【女神の神殿】。難易度はSか」
A級シーカー20人がパーティを組んだが、重傷者を15人も出して撤退してきたらしい。
なんでもこのダンジョンは1層構造らしく、必然的に第1層がボスフロアになる。
入口から1分ほど歩くと両開きのドアが見えてきて、その先に【女神の間】という神殿があるそうだ。
【女神の間】では文字通り女神を名乗るモンスターと戦えるのか。
「A級20人、内重傷者15名。ふっ、これは確実に死ねるな」
俺のランクはF級。
A級シーカーですら叶わないのなら、俺なんて文字通り赤子のように殺されるだろう。
母さんには申し訳なく思う。
でも、優夏のためには仕方の無いことなんだ。
「ごめんな、母さん」
これしか方法が無いんだ。
愚かな俺を、どうか許して欲しい。
#
「えー、S級シーカーの斎藤聖真さんですね? ただいま照会をかけますので少々お待ちください」
……マジか。
まさか照会をかけられるなんて思ってもいなかった。
いや、考えてみれば当たり前か。
探索者カードの偽装なんて対策されてるに決まってる。
低級シーカーはその限りではないが、S級ともなるとチェックも厳重ということか。
クソ、優夏の件で冷静さを欠いていたな。
「うーん、おかしいですね。データバンクにお名前が無いのですが」
「え? そんなハズはないんですけどね。ちょっと画面見せてもらえます?」
「ええ、どうぞ。お名前はこれで合ってるんですよね?」
俺は警備員のスマホを手に取った。
当然だがそこに俺の名前は無い。
なにせ俺はF級シーカーだからな。
しかし、こうも簡単にスマホを手放すとは思わなかった。
「すみませんね、警備員さん。悪く思わないでください。妹の命が懸かってるんです」
「へ?」
俺は手に取ったスマホを遠くの草原に向かって放り投げた。
「なっ、ちょ!? アンタ、なんてことを!!」
警備員の男が大急ぎでスマホの元へと走っていく。俺はその隙に【女神の神殿】に通じるホールを潜り抜けた。
一度侵入してしまえばあとはこっちのものだ。
なにせここはS難度ダンジョン。
ただの警備員が追ってこれるはずがない。
そいつが自殺志願者でもない限りな。
協会に連絡したとて、上級シーカーが到着するまでに5分前後はかかるだろう。
5分もあれば余裕で死ねる。
入り口から【女神の間】までは徒歩1分で行ける距離なのだから。
「……ここか。それにしても、なんだか奇妙な感じだ。これから死ぬってのに微塵も恐怖を感じない。これも優夏のおかげか」
ギィィィ……と両開きのドアを開く。
すると目の前に荘厳な光景が飛び込んできた。
天井は遥か高く、聖なる光を受け止めるかのように繊細なアーチが幾重にも連なっている。
床にはレッドカーペットが敷かれ、最奥部には玉座が鎮座し、神の威光を誇示するかのように輝いている。
玉座に腰を降ろすその存在は、人の形をしていながら、人ならざる威厳をまとっていた。
「アンタが女神か?」
俺が声を掛けると、まるでこの世界の全てを見通しているかのような双眸がすっと俺を見据え、その口元に微笑が浮かぶ。
『さよう。我こそが、汝らが女神と呼ぶ存在である』
「そうか。アンタ、強いんだろ? 細かいことはどうでもいい。早く俺を殺してくれ。それで全部終わりだ」
『斎藤優夏は助からぬぞ』
「…………なにっ!?」
『我が神眼は全てを見通す……隠し事など叶いはせぬ。しかし…………うむ、なるほど。最愛の者のために命を捧げに来たか』
「俺は死ななきゃならない。優夏を救わなきゃならないんだ」
『無駄だ。斎藤優夏に施される魔力吸収手術は失敗に終わる。汝が死んだところで無意味だ』
嘘だ。
そう叫びたい衝動に駆られる。
けれど、俺の口からはどんな言葉も出てこなかった。
女神の言葉は真実。
頭ではなく魂で理解できてしまう。
きっとこれも女神の力の一端なのだろう。
「どうすればいい。どうすれば優夏を救える」
『――汝は最愛の者のために命を捧げる覚悟でこの場へ訪れた。その心意気に敬意を表し、試練を与えよう』
そして、女神が黄金の杖を力強く大理石の床に叩き付けてみせた。
カァン……ッ!!
直後、地面からズォォォ……と黒い影が現れ、その靄は少しずつとあるモンスターの輪郭を成していった。
『たったいま、100匹のゴブリンを召喚した。そして汝にはこの武器を授けん』
「――ッ!!」
再び地面が打ち鳴らされ、そして俺の右手には白銀に煌めく新品のロングソードが握られていた。
『汝に試練を与える。汝に試練を与える。すべてのモンスターを討ち滅ぼせ。すべてのモンスターを討ち滅ぼせ。さすれば最愛の者の命は永らえるであろう。さすれば最愛の者の命は永らえるであろう。――汝には【器】としての資質がある。さぁ、死線を超えよ、窮地を超えよ、試練を超えよ。我に人の可能性を魅せてくれ。さすれば褒美として、我が力の一端を授けん』
なんだかよく分からないが、優夏を助けるためには、コイツらを全部倒さなければならないらしい。
ならばやることは一つだ。
俺は優夏のお兄ちゃんとして、コイツらを全員倒してみせるっ!!
俺はロングソード強く握りしめて、目の前のゴブリンに対峙した。
「待ってろ優夏。お兄ちゃんが絶対に助けてやるからなッ!!」
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