第1話 レベル不全の無能探索者
新作です、よろしくお願いします。
万年F級のクズ、レベル1のゴミ、スライム以下。
どれも、俺を指し示す常套句。
実際、嘲笑われるのも蔑まれるのも無理のないことだと思う。
今から数百年前、突如として【ホール】と呼ばれる穴が出現し、その先はモンスターの住処【ダンジョン】へと繋がっていた。
ダンジョンは危険だ。
RPGに登場するようなモンスターが跋扈している。
だからこそ俺のような無能は蔑まれて当然だ。
けれど、俺にも引けない理由がある。
俺の妹・優夏は病気を患っている。
魔力症――ごく稀に、ホールから漏れ出る魔力によって体調不良に陥る人間がいる。
軽微なものから重篤なものまで症状は様々。
そして俺の妹・優夏の症状は重篤だった。
3年前に発症し、以降、現在に至るまで目を覚まさない。
物心つく前から父は行方知れず。
頼れるのは母さんだけだった。
女手一つで俺たちを育ててくれた母さんだが、妹の件を受けてパートのシフトを増やした。そしてついに過労で倒れてしまった。
だから俺はシーカーになることを決めた。
シーカーは危険な仕事だけどそれだけに見返りも期待できる。
魔晶石を手に入れて換金すれば、きっと役に立てるだろう。
魔晶石というのは最も価値の高い財宝で、1つ10万にも20万にもなる。欠片でも1万円以上で取引されている。
必然的に、モンスターと戦うシーカーの地位は向上していった。
だが、世界というのは無情だった。
レベル不全――それが俺の体質。
どれだけモンスターを倒しても俺は経験値を得られない。つまりレベルが上がらず、ずっと弱いまま。
雑魚モンスターのスライムやゴブリンにすら苦戦する俺は足手纏いだと見下され、周囲のシーカーからはゴミのような扱いを受けていた。
けれど、そんなことで立ち止まってはいられない。
俺は母さんと優夏のために稼がなきゃならないんだ。
文句を言いたいヤツには好きに言わせておけばいい。
それで母さんと優夏の助けになれるのなら、安いものだ。
「えー、今日のメンバーは宮田さんに黒川さん、松本くんに……ああ、君もいるのか。万年F級の無能シーカー・斎藤聖真くん」
「ど、どうも……」
今回のクエストリーダー・森戸さんが舐め回すような視線で俺を見下し、硬い顎髭を弄りながら嘲笑を浮かべる。
「ま、所詮はF難度ダンジョンだ。流石に死ぬことは無いと思うが、精々足を引っ張らないでくれよ。スライム以下の聖真くん(笑)」
森戸さんの侮蔑の言葉に、宮田さんと松本さんが卑しい笑みを浮かべた。唯一、黒川さんだけが心配そうな顔をしていた。
黒川さんは青髪が特徴的な端正な顔立ちの美少女で、歳は俺と同じく17。
それが理由かは知らないが、何かと俺のことを気にかけてくれている。
俺は苦笑を浮かべながら、その場をやり過ごす。
こういう時は大人しくしているのが得策だ。
「それじゃ、さっそく行きましょうか」
そう言って宮田さんが我先にと歩を進めた。
宮田さんとは何度か同行したことがある。
鍛え上げられた腕は俺の数倍は太く、剣の腕もかなり良い。シーカーランクもD級と申し分のない強さだ。
森戸さんも同じくD級、松本さんと黒川さんはE級だ。
宮田さんが先陣を切り、その後ろを森戸さんと松本さんが歩く。最後尾には俺と黒川さんが続いた。
「聖真くん、森戸さんはあんな風に言ってたけど、くれぐれも挑発に乗らないようにしてくださいね? 聖真くんが怪我したら、悲しむ人だっているんですから」
「大丈夫です、家族を悲しませるような真似はしません。身の程は弁えてます」
「それならいいんですけど。でも、ほんとのほんとに気を付けてくださいね?」
「もしかして、左腕のケガのことを言ってます?」
以前、E難度クエストに潜った時。
俺はゴブリンの奇襲を受けて、とっさに左腕でガードを上げた。
その時のダメージを回復してくれたのは黒川さんだ。
正直言うと、まだ完治したとは言えない。
でも動かしても影響のない程度には回復している。これも黒川さんの回復スキルの賜物だ。
「だって、まだ包帯巻いてるじゃないですか。もしかして私の回復、効果無かったですか?」
不安そうに俺を見る黒川さん。
俺は噴き出しそうになるのを堪えて、これ見よがしに左手で素振りを繰り出した。
「念のため安静にしてるだけで、痛みはとっくの昔に無くなってます。こう見えてポーションに関してはそこそこ詳しいんですよ? 適切な使い方をすればすぐに治ります。それに、黒川さんの回復スキルは効果抜群でしたからね」
「そ、それなら良かったです……」
そんな雑談を交えながら、俺たちはダンジョンの中へと足を踏み入れていった。
#
「どらぁああッ!!」
ザシュッ!!
『グェーーーーーツ!!』
宮田さんのロングソードがゴブリンの身体に深々と傷をつける。
ゴブリンは苦痛の絶叫を上げながらその場に倒れ、そして魔晶石の欠片をドロップした。
「ちっ、欠片のほうかよ。ま、ドロップ無しに比べりゃマシってなもんか」
宮田さんから少し離れた位置では、森戸さんと松本さんがタッグを組んでゴブリン・ナイトを追い詰めていた。
通常種のゴブリンと異なり、ゴブリン・ナイトは剣を装備している。とはいえ、相手が二人がかりだと焼け石に水程度の装備だろう。
「松本、ヤツを怯ませろ。一瞬の隙があれば、あとは一撃で仕留めてやる」
「了解です!」
「黒川さん、念のため回復スキルの準備を!」
各自、指示を受けて行動に映る。
けれど俺に対する指示は当然のように飛んでこない。
期待されてないのだからそれも当然か。
まぁいい。俺は俺のやりたいようにやろう。
装備品はこのロングソードが一本だけ。
だいぶ刃こぼれが進んでいるが、まだ使える代物だ。
『ゴブゥ! ゴブブッ!!』
「ふー……」
目の前に一匹のゴブリンが立ち開かる。
俺は大きく深呼吸して、ロングソードを構えた。
『ゴブーーッ!!』
「はああっ!!」
ガキィンッ!!
「ぐっ! 相変わらず、パワーだけは一丁前だな!」
『グバァッ!!』
剣とこん棒がぶつかり合い、鋭い音を立てる。
二撃、三撃、四撃。
正直、滑稽な姿だと思う。
たかがゴブリンと互角の勝負を繰り広げているだなんて、ハッキリ言って話にならない。
それでも俺は戦い続ける。
たとえバカにされようとも。
俺には、守るべき家族がいるんだっ!!
「おおおおっ!!」
『グィギァアアアアッッ!!』
ザンッッッ!!!!!
『グッ、ゴギャァァッ!!』
「はぁ、はぁ、はぁっ」
ふう、何とか倒せたようだな。
俺はゴブリンがドロップした魔晶石の欠片を拾い、顔を上げた。
すると。
「ははっ、ゴブリン如きを相手に随分と息が上がってるじゃないか」
「森戸さん……」
どうやら、既にゴブリン・ナイトを倒してきたようだ。その右手には、これ見よがしに魔晶石の欠片が握られている。
「聖真、少し休憩するか?」
挑発するように松本さんが言う。
俺はスルーして森戸さんに向き直った。
「俺は大丈夫です。早く進みましょう」
「ちっ、言われなくてもそのつもりだよ。オイお前ら、ペース上げてくぞ!」
「「はいっ!!」」
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