4-11.翌日の尋問の相手は···!?
グロー歴523年8月27日 天気不明(地下牢だから)
···おはよう。枕もふとんもないから、ほとんど寝れなかったよ。空腹だからなおさらだよ···。
さて···、今日はいったい何をされるのやら···。そういえばリオはどうしてるのかな?空腹のあまり、暴れてないよね?
そうしていると、誰かがやって来た。
「やあ。ゆっくり休めたかな?」
···誰だ?憲兵の服を着てないな。何者だ?
「ええ。非常に居心地良かったですから一睡もできませんでしたよ」
「お気に召して良かった。さて、話の続きを聞きたいんで、ちょっと移動しようか?」
···昨日のヤツよりかは丁寧だな。だけど、こういうヤツは要警戒だ。···寝不足で頭が回らない状況だから、うまく立ち回れるかは不安だなぁ〜。
部屋は昨日と同じだ。ただ、今回はボクを迎えに来たヤツ一人だけだ。···どういう事だ?
向かい合わせに座った。座ったけど、ヤツは何もしゃべろうとしない。···何する気だ?
しばらくしたら扉がノックされた。入ってきたのは両手にトレイを持ち、その上には···、どんぶり?中はフタがされてるのでわからない。
そのトレイはボクの前に置かれた。
「手違いで昨日夕食が食べれなかったみたいだから、朝食は用意させてもらった。気にせずに食べてくれ」
「············」
どういう事だ···?まさか自白剤入りって事はないよな?だったら牢屋で食べさせたらいいじゃんか?なんでこの場なんだ?どういう意図があるかが読めん···。寝不足で頭が回ってないってのもあるけど。
「遠慮せずに食べなって。毒も自白剤も入ってないから」
「···信用しろと?」
「そうだね」
「···できると本気で思ってます?」
「昨日の対応がマズかったのは謝るよ。ただ、こちらとしても引けない一線ってものがあるからね」
「こちらの話を聞こうともしないし、挙句の果てには手まで出してくる。こんな不誠実な対応で信じろって言うんですか?ボクはそこまでお人好しじゃない」
「確かに。じゃあ、どうすれば信用するんだい?」
「こちらの質問に答えていただきたい」
「わかったよ。ただし、答えられる範囲内でよければ」
「あなたの名前は?」
「おっと!?いきなりだね···。まぁ、知ってもらっても問題ないか···。余はウェル。このマクス帝国の帝王だよ」
「···はぁ?本気でそれ言ってます?」
「もちろん。まぁ、こんな場所に帝王が来るなんて思わないよね?」
「そりゃそうだ。ボクと話する時間を取れるわけがないし、場所にふさわしくない」
「ごもっともだ。だからあんまり時間が取れないんだ。手短に頼むよ」
「じゃあ、仮にあなたが帝王だとして、ボクに接触した理由は?」
「この目で魔法を使ったスパイ容疑者を見てみたかったのさ」
「帝王自ら取調べをすると?」
「ああ。国家間のバランスもあるしね」
「ボクの罪状は?」
「魔法行使及びスパイ防止法。この国では魔法を使えるものがほぼいない。魔法を使った者はこの国の者じゃないから、問答無用で全員魔法行使とスパイ容疑がかけられるのさ」
「なるほど。人命救助で魔法を使ってもですか」
「そういう事。この国で魔法を使うこと自体が重罪だ」
「人命よりも大事ですか···。まさかそんな扱いだとは知りませんでしたよ」
「それはキミの解釈の誤りだね。人命が法よりも優先だなんて自分の勝手な解釈でこの国の法を犯したんだから」
「············」
「これで自分のした悪事がわかってもらえたかな?まだこの程度で悪事?って思ってるだろう?表情に出てるよ。···旅人と言う割には警戒心がなさ過ぎる。よくここまで来れたもんだよ」
「············」
「さて、重要なのはそこじゃないんだ。昨日の取調べでキミは『ボルタニア大陸のレオナード王国から来た』と言った。ボルタニア大陸は何を考えてるんだい?」
「···と言うと?」
「ここ最近、ボルタニア大陸との交易が盛んになってきてるのは承知している。特に接触が多いのはピムエム皇国という国だが···、今回はレオナード王国からの旅人が来た。さらには『青竜高速特急便』なんて物流網がボルタニア大陸から隣のサバール王国にやって来た。···ボルタニア大陸はこのウェーバー大陸をどうする気?」
···もしかして、いきなり交易が発展しちゃったから、ボルタニア大陸からの侵略って思われた?武力による侵略じゃなくて経済的侵略と?
「どうする気なんて知りませんよ。ただ、交流してお互いが発展したらいいと、ボク個人としては思いますけど?ここの科学技術はこの世界にない技術ですし、輸出してもらえると喜ぶと思いますよ?」
「なるほどね。···よくわかったよ。私からは以上だ。情報提供ありがとう」
「お礼を言われるんだったら釈放してもらえませんかね?」
「それはできない相談だね。法律違反している以上、犯罪者として扱わないと国民に示しがつかないんでね」
「こうして情報提供したんですから司法取引という扱いもダメですか?若干意味違いますけど」
「···キミ、自分が何を言ってるのか分かってるのかい?」
「え···?」
「そんな難しい言葉、一般人は知らないよ?ましてやこの世界の住人ならなおさらだ」
···まさか!?コイツ、外の理の者か異世界の神か!?
「···キミは感情が表情に出やすいね。言葉に出さなくてもよくわかるよ。キミ、外の理の者だろ?」
···それは元の世界でもよく言われたよ。まぁ、ボク自身が変わってないんだから今でもそうか。
これはウソつけなさそうだなぁ〜。的確に逃げ場を潰しに来てるよ。帝王なんて職に就けるんだ。権謀術数に長けてるんだろうね。
じゃあ、正体を明かしてみるか。今日の夜まで生き延びればハルが助けてくれるし、万が一処刑されても『旅行保険』で生き返るからいいか!···処刑って保険適用外じゃないよね?この状況じゃあ、エレさんに確認はできないなぁ〜。まぁ、どうにでもなるか!
「ええ。そうですよ。ボクは外の理の者です。今はこの世界で所帯持って生活してますよ」
「やっぱりね。その蓄魔の腕輪なんて神器を装備してるし、それを知ってたら外の理の者か神関係だと見抜けるからね」
···そっちかーー!!という事は最初から気付かれてたんだ!じゃあ、こっちからも聞いてやる!
「あなたもそうなんですね?国のトップに立って、何する気なんです?」
「フフフ···。余は別の世界の神だったんだよ」
「なるほど、エーレタニアに侵略ですか。大した力を持ってそうにないですから、統治者として世界征服しようという魂胆ですか?」
「その通り。もうこの世界が完成して神が辞められている以上、この方法しかこの世界の神にはなれないんでね。···しかし、驚かないんだな?まさか···、キミもかい?」
「ええ。神材不足で世界創世神さんから強引にさせられてますが?」
「ほう···?それはいい事を聞いたな。核を奪ってワールド・エクリプスを発動させて乗っ取るのもいいなぁ〜。だが、今ここでそれを実行するとこの国の法律に抵触するんでね。合法的に行えるよう手配しておくとしようか。フフフ···、単に死刑にしなくてよかったよ」
「···やめといた方がいいですよ?これはボクからの警告です」
「つまらんハッタリはよせ。八方塞がりなのはそちらだからね」
「神になってどうするつもりなんですか?」
「復讐だね」
「誰に対して?」
「この世界にだよ。そしてゆくゆくは元の世界に対しても宣戦布告をして思い知らせてやるのさ。余を追放したことを後悔させてやるためにな!」
「追放···?この国はかつて外の理の者の末裔が集まった国と聞いています。元の世界に帰れなくなった人たちとも聞きましたけど?」
「外の理の者といっても元の世界の文明レベルに天と地の差がある。しかも500年以上前に侵略に来て取り残された者たちばかりだ。この者たちはどういった人物だったかわかるかね?」
「···いいえ?想像ですが、かろうじて生存できた者たちかと愚考しますけど」
「···質が悪かった無能者たちだよ。異世界開拓と題して侵略し、敢えて敗北して体よく置き去りにして帰ったのだよ。つまり、追放されたのだよ。元の世界の連中にね」
「なんですって!?」
「そんな連中が有用な知識を持ち合わせていると思うかね?ここまでの国にするのも相当苦労したのだよ」
「言い切るのは失礼にあたるので、発言を控えさせていただきます」
「その回答でどう思っておるかは読めたわ。余の予想は当たった。ただ、解せない点がある」
「と言いますと?」
「キミ、どうして魔法が使えるんだい?外の理の者は総じて魔法は使えないはずだ」
「そうですね。ボクのこの体は神によって創られました。だからだと思いますよ。元の世界で亡くなって、この世界に迷い込んだものですよ(ホントは他の人も使えるけどね)。帝王はこの世界を支配してどうするのですか?この世界はもう完成してますから、神にはなれないですよ?」
「···キミは知らないのか?」
「は···?どういうことですか?」
「世界を統一した支配者には『敗者復活制度』があるんだよ」
···え?どういうこと?そんな制度があったから、かつての大魔王ムーオも魔獣を率いて再構築を狙ってた···?リアが言ってたのはこの事か?
「初耳でしたよ。そんな話は」
「今回はキミのおかげで余の悲願が達成できそうなのでね。どうだ?余に協力しないか?世界の半分をくれてやるぞ?」
なんだよ?世界を半分って···。某竜退治ゲームのラスボスと同じこと言ってんじゃん!『はい』を2回選択したらゲームオーバーでしょ?無論、ここは『いいえ』一択だよ!
「残念ですがお断りします。ボクは家族と幸せに過ごせればいいだけで、興味ないです」
「では、余に敵対するというのだね?」
「そうしたくないんですけどね」
「ハハハ!まぁ断るなら処刑されるだけだしな。どのみち、キミはもう私の手のひらの上だからね。さて、思ったより長く話してしまって朝食が冷めてしまったな。まぁ、ゆっくりと食べてくれたまえ」
そう言ってウェル帝王は去っていった。
このエーレタニアっていっぱい神様がいるなぁ〜。そんなに魅力的だったのかよ?あのエレさんが創ったんだよ?みんな騙されてないかなぁ〜?···あっ!もしくはナメられてるのか?
とりあえずどんぶりが目の前にあるな···。『腹が減っては戦はできぬ』か···。取調べはこれで終わりだろうから食べちゃうか!この後は深夜にハルが迎えに来てくれるだけだからね!
そう思ってどんぶりのフタを開けると···、カツ丼だった!
···おい!?なんでボクの世界の刑事ものと同じ事してんだよ!?他の世界の警察でもやってるんかい!?
···めっちゃおいしかったです。ごちそうさまでした。
なんと!?帝王自らアキくんの取調べをしました!蓄魔の腕輪をつけてると聞いて神関係だと知って話を聞きに来たんですね。
ただ、なんか有名なゲームネタが出ましたよ···?もしかして?
ちなみに日記の天気で『天気不明』とありますが、これ正式に気象庁で定められている用語でして、気象観測を行う無人の海洋ブイのデータがこれなんですね。記号もちゃんと制定されてるんですよ。
さて次回予告ですが、地下牢に閉じ込められたアキくんとリオくんをハルちゃんが迎えに行きます!もちろん潜入任務ですよ〜!
それではお楽しみに〜!




