4-10.一方的な取調べ
私たちは研究所の寮にある招待者用の部屋に戻ってきた。あのまま現地にいたら面倒な事になりそうだったからね。
「ハル?アキが連れて行かれちまったが、いいのか?」
「···レオ、だいじょぶ。···アキの居場所はスマホで把握済み」
「おっ!?GPS機能だな。じゃあ、助けに行くか?」
「···作戦実行は明日の深夜」
「えっ···?それはどういう事だ?」
「···アキは『明日の月は一緒に見れないけど』って暗号を口にした。···明日の深夜に襲撃して、そのまま国を脱出するって意味」
「そんな暗号を事前に決めてたのか···」
「あたしにも『ハルと一緒に』ってアキは言ったわ。これはハルと一緒に行動してって暗号よ」
「アキはナナにまで暗号を伝えていたのか。そこまで用意周到だったんだな···。で?オレたちはどうする?」
「···このままおとなしくしておく。···動きがあれば状況次第」
「了解」
「···モンドたちもゆっくりしてて。···なにかあったら大暴れだよ」
「わかったぜ!」
「フーもがんばるよ〜!」
「あたしも!ねむそうだけどね!」
「あたいもだ!きょあくにたちむかえるなんてそうそうないからな!」
部屋に戻ってからしばらくすると、教授とジャミンさんがやってきた。
「話は聞いたわ。今回ばかりは止むを得ず使ったとしか考えられないわね···」
「最近、帝王も厳しくする一方だからなぁ〜。『魔法』ってだけで拒否してるのだろう。さて、どうしたものか···。私の力ではなんともできないかもしれないが、打てる手は打ってみるよ」
「···アキは私が明日の深夜に助け出す。···その足で国を出るつもり」
「それは危険よ?周辺各国に指名手配されるわよ?」
「いや、ジャミンくん。その方がいいかもしれないな。アキさんたちはおそらく極刑にされる可能性が高い。おそらく魔法行使罪だろうし、あれは無期懲役になることがほとんどだ。ハルさんだったかな?アキさんは転移ができるのかな?」
「···ん」
「なら、研究所に転移してくれ。トラックで城門から密出国させるよ。そして···、ウェーバー大陸にはもう来ない事をオススメするよ」
「···わかった。···明日の深夜に決行する」
ハルたちと教授たちが打ち合わせしているその頃、ボクたちが乗せられたパトカーっぽい車はお城の搬入口だった。警察署みたいなところに連れて行かれるとばかり思ってたから、これはラッキーだったよ。
搬入口で降ろされた。もちろん、ボクとリオの両脇は憲兵に挟まれている。抵抗する気はないけどね。
「ここに入ってろ!」
ガシャーーン!!
城の地下にあった牢屋にボクとリオは離されて入れられた。中には誰もおらず、独居房のようだね。
ここに入れられるまでにボクとリオには両腕にリストバンドが付けられた。魔法封じのようで、創作魔法も使えなかった。
スマホを使った魔法も使えなかったよ。これじゃあ何もできそうにもないね。
ちなみに蓄魔の腕輪は取られなかった。っていうか、取れないんだよね···。憲兵も頑張ってたけど諦めちゃったよ。所有者の意思じゃないと取れない神器からね。
スマホも取り上げられたけど、これもボクの場合は一定距離を離れると手元に戻っちゃうから、意味なかったんだよね〜。
初めて牢屋なんて入ったよ···。暗いしカビくさいしジメジメしてるし···。環境は良くないよ。
さて···、向こうさんはどう出るのかな?
1時間後···。
「出ろ!」
ボクは牢屋を出て地上に上がった。そして取調室のようなところに連れて行かれた。中には取調べをする人と調書を取る人、ボクを連れてきた人で3人いたよ。
「さて···、どうしてこんなところに連れてこられたかわかるか?」
「わかるわけないじゃないですか···。ボクは旅人です。この国には先日初めて来たばかりですから」
「そうかそうか。だがな?『旅人だからこの国の法律は知りませんから好き勝手します』なんてのは通用せんぞ!!」
「···おっしゃるとおりですね。ボクもそう思いますよ。だからこそ、説明していただけませんか?どうしてボクとリオが連れてこられたのか?をね」
「ふんっ!お前に質問する権利はない。あるのはこちらの質問に答えるのみだ」
「そうですか。弁護士もつけれないと?」
「···お前の耳はただの飾りか?悪いのは耳か?それとも頭か!?質問に答えるのみだと言っている!!」
「···失礼しました。では質問をどうぞ」
「貴様の名は?」
「アキです」
「どこから来た?」
「···事前に入国審査で申告してますけど?調べてないんですか?ボルタニア大陸のレオナード王国のアクロという温泉街です」
「何しに来た?」
「別大陸に観光ですよ」
「それはウソだな」
「どうしてそう思われるのです?」
「どこのスパイだ?」
「···どこでもないですよ。ただの民間人です」
「それもウソだな」
「···話になりませんね。先ほどからウソって言ってますけど、その根拠は?ただあなたの想像でボクを犯人に仕立て上げたいだけでは?これは取調べじゃないですよ」
バキッ!!
いって~!こいつ、手を出しやがった!なおさら冷静になれるわ···。頭にきたから徹底抗戦してやる!
「歯向かう気だな?さらに罪が重くなってるぞ?自分自身で首を絞めてると、まだ理解できんか?」
「···どういう制度か知りませんけど、この国は相当野蛮で低レベルな国だという事は身に染みて理解しましたよ···」
「なんだと!?我が国を侮辱するか!?」
「何度でも言いますよ!···ボクたちは工場街に行って街並みを見学しながら歩いていただけです!大きな音がして救助を求められたから魔法を使って助けたんです!···これのどこが罪なんですか!?」
「どうやって入国した?現在は外国人は入国禁止だが?」
「···あくまでボクの質問に答えないんですね?ガウスの方から招待状をいただいて『正式』に入国してますよ」
「あの事故はお前たちのしわざか?」
「違います」
「なぜ魔法を使った?」
「人命最優先ですから。まさか人命よりも魔法を使わない方が優先とは言わないですよね?」
「···以上だ。連れていけ!!」
ガシャーーン!!
またもやボクは牢屋に入れられちゃったよ···。まったくひどい目にあったなぁ~。こっちの質問にまったく答えようとしないんだもんなぁ~。
でも、やりとりである程度わかったことがあったね。まずはボクたちをスパイだと思ってる事。入国禁止の国で入国をどうやってしたのか聞いてきたからね。もしかしたら教授たちにも迷惑かけちゃったかなぁ〜?
魔法行使罪って罪状らしいけど、あの態度からすると、人命を大切とは思ってなさそうだなぁ~。人命救助に魔法使って逮捕だなんて思わなかったなぁ〜。
それに紳士的対応してくれたらこっちもそれなりの対応したんだけどなぁ〜。よほどこの国では魔法は嫌われてるんだなぁ〜。
···どうやら夕食は出すつもりもないようだね。水筒しか置いてないし。
はぁ~···。ハルに明日迎えに来てもらうけど、今日の方が良かったかなぁ〜?こりゃ思ったほどの収穫はなさそうだわ···。
今回の話の流れは作者が海外旅行に行った時の感想です。警察のお世話にはなってないですからね!
日本では合法でも海外では違法な事があります。逆も然りですね。特に厳しいのはシンガポールです。
ポイ捨てすれば罰金刑の他にごみ拾いを『見せしめ』としてさせられます。他にも地下鉄など飲食禁止場所でペットボトルをカバンから出すのも違法です。
海外旅行する際は、必ず現地の情報を得てから行くようにしましょうね。本文中でも取調べ官が言ったように、『法律知らんから好き勝手します』は海外では通用しません。きっぷ買い方知らなくて無賃乗車してた旅行客が、目の前で連行されたのをフィンランドで見ましたしね。それぐらい海外は厳しいのです。
まぁ、日本は治安が良すぎるので対応が甘いんです。外国人は自国が厳しいため、ユルユル過ぎる日本の居心地がいいので来るんでしょうね。
ぶっちゃけ日本は外国人に対する対応は甘すぎますよ。
ちなみにこの国には人権はありません。命よりも魔法禁止が最優先なんです。海外には人命最優先ではない国もあります。アメリカだと道端で倒れてる人を見かけても、救急車を呼ぶと患者に高額請求が来るので怒られる!なんて事もありますのでね。日本みたいに皆保険ではないですし、あっても任意で高額なんですよ。このように安易に人助けもできない国もありますよ。
さて次回予告ですが、地下牢で一晩過ごしたアキくんは翌朝に別の人から取調べを受けます。この人、とんでもない人でしたよ!?誰なんでしょうか!?
それではお楽しみに〜!




