4-8.マクス帝国の技術と帝王の考え
「さて、話ばかりだとつまらないだろう?せっかく来てもらったんだから、私の研究成果を見てもらおうかな?」
「いいんですか?ボクたちは外国人でよそ者ですよ?」
「だからこそだよ。我々以外の視点から見てもらいたいのさ。何か私たちでは気づかない事があるかもしれないしな」
「そういうことでしたら···。あっ、すいません。先にお手洗いに行かせてもらえませんか?」
「ああ、いいよ。ここを出て左の突き当たりにあるよ」
「ありがとうございます。いったん離れますね」
「お手洗い以外には行かないでくれ。一応機密なのでね」
「心得ていますよ。みんな、行っておこう」
こうしてボクたちは研究室をいったん出た。その足でお手洗いに行った。後ろではジャミンさんが、じっと見ていたよ。まぁ、予想通りかな?
ボクたちがお手洗いに入ったらジャミンさんは研究室に入った。これで打ち合わせができるね。
「みんな、よく聞いてね。ここでボクの世界の話は絶対にしないでね。特に特撮ものやアニメの話はね」
「アキじーちゃん?なんでだ?」
「ここの技術がボクのいた世界に似てるから。話したらおそらく捕まると思うよ。アトラちゃん?本当にゴメンけど、ヒーローが乗ったバイクの話はしないでくれるかな?」
「···わかった。ここがあくのそしきかもしれないからだな?」
「可能性がある以上はそう考えていいと思うよ」
「わかったぜ!あくのひみつきちにせんにゅうしたはなしのとおりにするぜ!」
ふぅ~、アトラちゃんが一番危なかったからね。そう解釈してくれるなら好都合だ。あんまり正義と悪に分けて考えて欲しくないんだけどね。
ボクたちがお手洗いから戻ると、研究室ではベン教授とジャミンさんたちが待ってくれていたよ。
「お待たせしました」
「それでは行きましょうか」
ベン教授について行き、昨日バイクを収納した建物に入った。昨日はじっくり見れなかったけど、中にはたくさんの工具や床下を見るためのリフト、小さなクレーンもあった。小さな町工場のようだよ。
「ははは!見慣れないものばかりだからね。全部説明すると時間がなくなるから、試作品のトラックとバイクを見てもらおうかな?」
そう言ってベン教授は被されていたシートをめくった。きっちり整備されているようでピカピカだよ。
「魔力なしで走るんですよね?どういう理屈なんですか?」
「複数の筒の中に加工したわずかな油を霧状に噴射して小さな爆発を起こし、その力で回すのだ。かなりの力を持っているから、大型にしてトラックを、小さくしてバイクにしてるのさ」
「油って揚げ物の油ですか?」
「いや、地中から汲み上げた真っ黒な油を加工している。古文書によれば『石油』というものらしいので、我々もそう呼んでいるな」
「この乗り物も古文書からですか?」
「ああ、そうさ。欠けている部分がそれなりにあったが、こうして動かせるまでになってるよ」
「素晴らしいですね。ただ、油を燃やしてると無くなってしまいますけど、どれぐらい走れるのですか?」
「今のところ25リットルで約400km走るな。給油をどうするか?が課題ではあるな」
なるほど、元の世界の大型バイクより燃費は半分程度ね···。まぁ、そんなものかな?トラックも同様だろうね。
「ありがとうございました。いいものを見せてもらいました」
そう言うと、今度はベン教授からの質問が始まった!
「ボルタニア大陸ではどうなのかな?こういったクルマも魔力で動かすのかい?どれぐらい走れるのか?どれぐらい普及してるのか?価格はどれぐらいだね?他にどんなものがあるのかね!?」
···まぁ、これぐらいはね。リオのお母さんのイアさんに比べたらカワイイものだよ。全部何言ってるかわかるしね。
「ボルタニア大陸では魔導車って言いまして、ピムエム皇国首都のみでしか運用してないみたいですね。大型のクルマだけで、貨物用とバスと呼ばれる乗合車がある程度です。個人所有はないみたいですよ」
「なるほどね···。魔力は大気中から収集できることを考えると、多すぎると魔力密度が下がる可能性を見越しているのか···」
「そうかもしれませんね(問題点をズバリ言い当てたよ···。魔法にも多少は知識があるという事か···)。それにしても不思議な油があるものですね。ボルタニア大陸では聞いたことないですよ」
「昔からこのマクス帝国のそばに流れているクーロン川は、ある地点からなぜか黒く濁っていてね。魚もその地点から下流には住んでないので、毒だと思われていたのさ。それが古文書に記載があり、川底を浚って調べたら油と判明したのさ。湧出地点も絞り込み、今では川はきれいに、我々は油のおかげで豊かな生活ができてるのだ」
「素晴らしいですね。ちなみに他の研究ってお伺いできますか?」
「残念だがこれ以外は見せるわけにいかなくてね。これは外国まで試験してるので問題ないのだがね」
「それは残念ですね···。でも、町並みを見ただけでも整備されてていい国だと思いますよ?」
「外国人にそう言ってもらえると誇らしいね!いい意見を聞かせてもらえて良かったよ。ありがとう」
「この程度でよろしければ。宿泊させてもらえましたしね」
この国の生い立ちや考え、技術レベルがわかっただけでも十分だよ。あとはボルタニア大陸に戦争を仕掛ける気があるかどうかだね···。もうちょっとだけ探りを入れてみるか。
「この技術って外国に売り込む事は考えてるのですか?」
「そうだね〜。可能ならばしたいのだが、アイツはいい顔しないだろうなぁ〜」
「アイツ···、と言いますと?」
「この国のトップであるウェル帝王さ」
「えっ!?帝王と知り合いなんですか!?」
「そりゃ、私は国の技術研究開発機関の代表だからね。定期的に城で打ち合わせあるし」
「そうですか···。帝王は外国に対して何か思いがあるんでしょうか?」
「···あぁ~、そういう事か。アキさんたちは外国人だから、自分たちの国に『攻めてこないか?』を気にしてるのかな?」
「あっ!?···失礼しました。失言でしたね」
これはちょっと隠しきれてなかったかなぁ〜?ちょっと雰囲気がマズい···。
「まぁ、これだけの技術を見たらそう思うかもしれないかな?安心していいよ。アイツは魔法が大嫌いだから、こちらから攻める事はないと今のところは思うよ」
「そうですか···。ホント、申し訳ありませんでした。気分を悪くしたと思います」
「気にしないでいいよ。それじゃあバイクに試乗してもらおうかな?」
「えっ?いいんですか?」
「これも大事なデータだよ。何も知らない人にどうやって教えるか?のね」
ということで3台あるからボクとハル、それにリオが試乗することになったよ。エンジンのかけ方、アクセルとブレーキのかけ方とかだね。ほぼ元の世界と一緒だよ。
···もしかして、この古文書を遺した人ってボクの世界から迷い込んだのか?
「アキさんとハルさんは飲み込み早いわね〜!」
ジャミンさんとクリンさんがボクとハルを担当してくれた。ハルは何やっても上手いなぁ〜!
一方のリオはフランさんが教えてたんだけど···、
「あっ!?リオさん!?いきなりアクセル全開は!?」
「へ?うわーー!?」
「リオーー!?」
リオはギアがニュートラルの状態で思いっきりアクセル全開にして1速に入れちゃって、ウィリーしながら急加速した!なんとか壁にぶつかる前に浮遊魔法で浮き上がって回避できたよ···。
某旅番組で原付で旅した俳優さんと自転車で空を飛ぶ某映画みたいになっちゃったね···。
マクス帝国の技術は古文書からヒントを得て手に入れたものでした。バイクやトラックなどは実はアキくんの世界から迷い込んだ技術者が遺したものなので一緒なんですね。
これも本文中で入れるか迷いましたが、削除しました。どちらでも話の本筋にまったく影響がないので、特定しないほうがいろいろ可能性が広がるよな〜、と思ったからなんです。ですのでここで明言してますが、非公式の見解ということでお願いいたします。
さて次回予告ですが、翌日にアキくんたちはマクス帝国の町中を見学という名目の散歩に出かけます。
その最中に事故が発生してアキくんたちは国内で禁止されている魔法を救助目的で躊躇なく使ってしまい、憲兵に逮捕されてしまいます!
一体どうなるのでしょうか!?
それではお楽しみに〜!




