4-7.マクス帝国の成り立ち
グロー歴523年8月25日 雨
おはよう!今日はあいにくの天気になっちゃたね。かなり蒸し暑いよ···。
朝食も食堂でいただいた。どうもパンをここで焼いてるようで、いい香りがしてるよ〜!これは期待できそうだね!
「おいし〜!このやきたてでサクサクするのがいいね〜!うちでつくれないかなぁ〜?」
「フーちゃん?パンって相当早起きして仕込まないとダメだから、ナツには厳しいと思うよ?」
「そっか〜。でもママならパパをつかってなんとかするかも〜?」
···ナツならやりかねんなぁ〜。ヨウくんはのんびりする暇を与えられそうになさそうだよね?
おいしい朝食をいただいて部屋に戻ると、しばらくしてからジャミンさんがやって来たよ。
「おはよう〜!ゆっくりできたかしら?」
「おはようございます、ジャミンさん。おかげさまで快適でしたよ」
「9人なのに8人部屋だったから厳しかったかな〜?って、案内したあとで思っちゃったけど良かったわ!それじゃあ、教授の研究室に案内するわ。ついてきてくれるかしら?」
ジャミンさんに連れられて、ボクたちは教授がいるという研究室にやって来た。
やって来たんだけど···、廊下には本や研究に使う道具とかが乱雑に端によせられていた···。これ、元の世界だと防火対象物点検で引っかかるけどなぁ〜。部屋の中ならまだしも、廊下の幅が人一人ギリギリって火事になった時に危ないよ?
「教授〜!連れてきたわよ〜!」
「おっ!?来てくれたのかい?···って!?キミたちは!?」
「あっ!?必死の洞窟に入りたがってた人!?」
そう、教授は先日入った温泉で聞き耳立てて必死の洞窟の入り方を聞いてた人だったよ!
「あら、アキさんは教授に会った事があったの?」
「ええ、ジャミンさん。先日宿場町の温泉に入った時に。教授とは名乗ってなかったですけど」
「ああ、そういえば名乗ってなかったか。私はベンという。この技術研究開発機関『ガウス』の代表だ。みんなからは『教授』って呼ばれてるけどね」
「そうでしたか。ボクはアキ。あと妻のハル、孫のモンドとフー、親戚のレオ、あと知り合いの一家でリオ、ナナ、ルメ、アトラと言います」
「獣人の一家とドラゴン族の一家ね。しかもこの大陸にはいない獣人とドラゴン族だね。ちょっと調べさせて···」
物騒な言葉が出たよ!?するとベンさんの背後に立っていたフランさんが···!?
バシーーン!!!
ハリセンでベンさんの後頭部を思いっきり叩いた!ハリセンなんて久々に見たよ···。エーレタニアに来てからは初めてだけど。それにしても野球のバッターのようなフルスイングだったよ···。ホームラン狙えるんじゃね?
「痛いじゃないか!?フランくん!?今のは全力だったでしょ!?」
「教授!お客さんに失礼よ!!実験じゃないのよ!?」
「···はっ!?そうだったね!これは失敬···」
「ははは···。あの、それで聞きたいことがあるそうですけど?」
「そうそう!話によると、キミたちは東にあるボルタニア大陸から来たそうじゃないか?向こうの大陸にはどんな技術があるのか教えて欲しいのだよ」
「技術ですか?国にもよりますけど、一番発達してるのだと魔導具ですかね?」
「魔導具ね···。どういったものかね?」
「物を凍らせたり、温度を上げて調理したりとかですかね?あとは魔石を使った乗り物とか、太陽の光で魔力を作り出したりとかかな···?」
「ほう?なかなか興味深い話だね。我が国のような技術はあるのかね?」
「いや、ないですね」
「そうだろうそうだろう!この国では魔力に頼らない技術開発のみ行なっているのでね」
「魔力に依らない技術···、ですか?」
「その通り。···あぁ~、そうか!外国人にはこの国の特徴を知らないのだったな」
「そうですね。ボクたちはこの国のことをまったく知らないんですよ」
「確かに旅人は拒否しているから、情報がほとんど出ないのだろう。主に取引してるのは隣のテスラ共和国のみだしね」
「そうなんですか?」
「そう。これも理由があってね。この国では魔法の使用が『禁止』されているのさ」
「えっ!?き、禁止ですか!?」
「そう。さっきジャミンからバイクを走って追ってたと聞いたが、まぁ来た先がここだったから通報されないだろうし、その程度は問題ないだろう。この国では魔法はこれ以上使わない事をオススメするよ」
「ありがとうございます。でも、なぜそこまで魔法を拒否するんです?」
「この国の国民はほとんど魔法を使う事ができないのだよ」
···衝撃的な話だったよ。ここ以外だと、魔法の得意でない人でも生活魔法は使えていたんだよ。
それにもかかわらず、この国では魔法はほとんど使えない···。これは何かあるぞ?
「どうして魔法が使えないのですか?」
「それはこの国の生い立ちにある。この世界の人々はほぼ全員が魔法を使える···」
「···!ま、まさか!?」
「そう、この国の人々はほぼ全員の先祖が『外の理の者』なのさ。しかもかつてこの世界に侵攻してきた魔法のない世界の兵士たちとかで、生き残ったものの帰ることができなかった者たちの末裔なのさ」
···エレさんとナビさんはエーレタニアにたくさんの世界から侵攻されたって言っていた。その影響がこんなところに残っていたんだね。
「元の世界と繋がりを絶たれると、この世界では魔法を使えないのさ。しかも、多少血が入ってるだけでも魔法をほぼ使えないのさ。『神の呪い』と言われてるよ。この国はそういった人々の受け皿として成り立ったのさ。だから国交を開かない。いや···、開きたくても開けないのさ。魔法が使えるのが当たり前の世界で魔法を使えないことはとんでもないマイナスだからね」
なるほどね。魔法を使いたくても使うことが出できない。そうなると、よそではかなり異端だ。表立った差別はしないだろうけど、裏ではそういう事が起こるわけだ。
あとは、『自分たちは侵略者で敗者だから』という負い目もあるんだろうね。だから受け入れられないから鎖国して独自の文化と技術が発展したってわけか。要するに、
『魔法に対抗するべく科学で』
ちなみに外の理の者でも魔法は実は使えるんだよね。リオの師匠のエセムさんやカイジの町で情報収集していたリンさんとかがそうだったよ。ただ、この人たちの祖先は魔法が使えない世界の人々だったからなんだろうね。
「だからこそ、私としては外の世界、技術が知りたかったのさ。そのためにはまず『足』が必要と思ってね。ジャミンたちに移動手段であるバイクやトラックの試験走行をやってもらってるのさ」
「そういう事でしたか。この技術はこことは別の世界の技術なんですか?」
「その通り。ただ、遺跡から発掘した古文書や先祖が遺した資料を基にここで研究して実用化にこぎつけてるわけだね。実はあの必死の洞窟内にも遺跡があるのだよ。環境からしてかなり秘匿性の高いものと思われるけどね」
「だからあの時に喜ばれたんですね?」
「その通り!先祖の遺産だ。この国がもっと発展する礎となると思っているよ」
···ちょっと気になるけど、深入りはやめておこう。二酸化炭素で充満した洞窟に隠された遺産···。隠したい技術か知られてはいけない技術か、あるいは厳重に遺棄された技術だと思うから、おそらくは強力な兵器だろう。
これはどうしたものか···。
マクス帝国は別世界の人たちの末裔でした。しかも魔法のない世界の住人だったために魔法自体使えないから科学技術が進歩したという歴史だったんですね〜。
周囲が当たり前にできることができないというのは非常にコンプレックスになってしまいます。これはこの世界でも同じです。どんなにできる人が気を遣っても、できない人は非常に辛い思いをしてしまうんですね。人にもよるとは思いますが···。
そのために自分たちだけの国を立ち上げて鎖国しちゃったんです。最低限の外交はしますけどね。
なかなか重い過去があるんですよ、この国は。
さて次回予告ですが、教授のご好意で開発中の技術を見せてもらいます。アキくんは教授と意見交換もしますよ〜。
それではお楽しみに〜!




