8-10.黒竜滅亡の理由
「大したもてなしはできんが、適当に座っとくれ」
「では失礼しますね」
雄大な滝の岸辺で釣りをしていたら声をかけてきたおじいさん。なんと!クロくんのお師匠さんだったよ。
せっかくお誘いを受けたので、ボクたちはフィルさんの家にやってきたんだ。結構大きな家だったよ。
「一人暮らしなもんで、お茶とか用意ができんのでな。そこは了承してもらいたい」
「構いませんよ」
「アキさんたちはどこでクロと出会ったんじゃ?」
「サバール王国です。格闘技大会で孫たちが対戦しまして···」
「ほうほう!ということはかなり上位になったんじゃな?」
「3位でしたね。その後、サバール王国の傭兵として活躍してますよ」
「そうかそうか!元気そうでよかったわい」
「そこで、ちょっと聞きたいことがあるんですが、よろしいですか?」
「いいぞ。答えられるものであればな」
「では···。クロくんは孤児とのことですが、どういういきさつで拾われたんですか?」
「···それはクロ本人からワシに聞いてほしいと言われた質問かの?」
「えっ!?そういうわけでは···」
「だったら悪いが答えられんな。かなりデリケートな話なんでな···。本人の承諾なしでは話すことはできんのじゃ」
確かにそういう内容なら、赤の他人が聞いていい話じゃないね。これは心証悪くなっちゃったなぁ〜。
そう思ってたら···!
「もしもし〜!クロくん〜?フーで〜す!」
『おっ!?フーか!久しぶりだな!どうしたんだ!?』
なんと!?フーちゃんがちーむッス!でクロくんとテレビ電話を始めちゃったよ!
あぁ~、こういう方法もありだったか···。
「ってことで、クロくんのお師匠さんを見つけたんだ〜。はい!」
『えっ!?し、師匠!?ホントだ···』
「なんと!?よもやこんな魔法があったとは···。クロよ、元気そうで何よりじゃ」
『師匠···。ご無沙汰だぜ。俺は元気でやってるぜ!』
「そのようじゃの。アキさんたちからお前の事を聞かれとるが、話してもいいのかの?」
『俺のこと···?俺自身にも答えてくれなかったのに、話してくれるのか?』
「···そうじゃな。もう今なら話しても問題ないじゃろうな。では話すとするかの。ちと長くなるぞ?」
フィルさんから話されたのは、想像していた以上にひどい話だったんだ···。
黒竜の集落は···、クロくん以外全滅してしまっていたんだ···。ドラゴン族最強と言われた黒竜の一族、滅んだ理由もかなり酷かったんだ。
『ハイパースタンピード···、だって!?』
スタンピードを超えるスタンピード···。ボクたちが王都や緑竜の集落で溜まりに溜まった黒魔力を解放した際のスタンピードをはるかに超えるスタンピードが発生してしまい、数の暴力でやられてしまったそうだ。
なぜこれが起こったのか?フィルさんが察するに、ウェーバー大陸で発生する魔獣を黒竜の集落1箇所に集中させた結果らしいんだ。
その結果、ウェーバー大陸では魔獣の発生が一時的に極めて少なくなったんだ。ボルタニア大陸では至るところに出る魔獣が、この大陸では今でも少ないのはそういう理由だったんだね。
「それをやった犯人はワシの手で始末しておいた。ワシの世界の人間だったのでな。自ら神になろうとした結果だったようじゃ。さすがに同郷の者がやった犯罪は見過ごせなかったのでな···。その時に集落で唯一生き残ったのがクロ、お主なんじゃ」
『············』
「ワシがお主を育てたのは···、罪滅ぼしのようなもんじゃ···。許せとは言わん。お主の手にかけられても文句は言わんよ。好きにせい」
『···俺は師匠には感謝してる』
「············」
『理由がわかっても···、俺を育ててくれたことは違いないからな』
「···そうか」
ちょっと気まずい雰囲気だなぁ〜。非常に重い内容の話だったからね。唯一の生き残り···、ハルたち神狼族と似てるね。
でも、うちもそうだけど、クロくんも今は多くの仲間がいるからね!
ちなみにダーツの話も聞けたよ。フィルさんの趣味だそうで、あのダーツはフィルさんが趣味で作った神器だってさ。今ではクロくんの武器として使われてるからね。
今日は1泊させてもらうことにしたよ。料理はボクたちで用意させてもらうことにしたんだ。もちろん、ナツの料理だよ!
「これはすごいのぉ〜!初めて食ったぞ!」
「お気に召していただいて良かったですよ。お酒もどうです?」
「これもいいのぉ〜!いやはや、ごちそうになったぞ!」
夕食も終わり、ボクたちも寝る支度を始めた。
···ちょっと気になることがあったので、ボクは1人でフィルさんの部屋を訪ねたんだ。
「こんな時間に来るとは、何か重要な話かね?」
「言いたくなければそれでもいいんですが、気になった事がありまして」
「ほうほう。特に気にせんでいいぞ。どのみち、ワシももう長くないのでな···」
「えっ!?」
「もうこの世界に来て600年ぐらいかの?この世界も完成して他の世界からの大規模な干渉はなかろうて。そろそろお暇をと思っておったのでな」
「でしたら···、フィルさんはムーオのいた世界の神だったんですか?」
「···そうじゃな。なぜ気づいた?」
「魔獣を操る術···、ムーオたちが得意としてましたし、ボクも大変な目に遭いましたから」
「ワシがおった世界は10人の神がおった。しかし、意見はあまり一致せずに世界は停滞したまんまじゃった···。ワシもいろいろやったのじゃが···、うまくいかなんだ···。他の神からも蔑まれてな···。逃げ出したんじゃよ。すると、リアとアドはワシが作った道を利用してこの世界に来たようじゃな。ムーオまで来てしまい、ワシのせいでこの世界には迷惑をかけてもうた」
「そうだったんですね···」
「アキさんたちがムーオを追い返したそうじゃな。ありがとう。ワシが言うのも筋違いじゃろうけどな」
「ボクの力じゃないですよ。みんなが頑張ってくれたおかげですから」
「ふふふ。もう神や異世界からの侵略はないものの、今度はこの世界の住人同士が争う時代になるじゃろうな」
「そう···、ですね。ボクがいた元の世界でも似たような歴史はありましたから」
「その時にはお互いもうここにはおらんだろうがね。ワシもここを去る前にクロに継承しておいて良かった。心置きなく去れるというものよ」
「そうですか···(ボクも···、子孫以外にも遺す事を考えたほうがいいのかもね···)」
このあと、夜遅くまでボクとフィルさんはお酒を飲みながら、いろんな意見を交わすことができたよ。そこで参考になった事を実行するのは、かなり先の話になりそうだ。
黒竜はクロくん以外全滅していました。かなり理不尽な話ではありますが、こういった種族滅亡はエーレタニアだけではなく現代社会でもあるんですね。
ただ、この世界では混血はほとんど生まれずに親のどちらかの種族のお子さんが生まれるというルールがあります。まぁ、実際にそうだと進化の問題が出てきますが、エレくんが番外編で『種族管理メンドクセ!』って考えてしまったためにこうなっております。
そのため、クロくんのお子さんは黒竜になる可能性が高いため、今後は人数が増えていきます。
思いっきりネタバレですが、新作には黒竜が登場します(笑)!どんなキャラかはご期待ください。とんでもないキャラになってますが···。
今回のお話はシリアスですが、実は最後の部分が新作の『賢者の遺産』についてアキくんが構想を始めるきっかけになったんですね。ここの部分は新作を書いてる時に思いついて加筆しました。同じ世界が舞台ではありますが、ネタが作品を超えましたね〜!
さて次回予告ですが、アキくんたちはサバール王国まで戻って来ました。となると、リオくんはカジノに行きたがりますよね〜。また懲りずに散財する様子をご覧いただきましょう。
皆さまはカジノはマカオやラスベガスの現地や、某竜退治RPGでお楽しみ下さいね!違法はダメですよ〜。
明日は夜勤なので朝に投稿します。それではお楽しみに〜!




