8-7.チパさんの遺志を継ぐ者
「···ん。···最後は私がエマさんに試合を申込む」
なんと!?ハルがエマさんに勝負を挑んだよ!どういう事?
「···なるほど、そういう事ですか。ではありがたくその申し出を受けましょう!」
どういう事?もしかして···、チパさんの事でかな?
二人は試合場に立った。ものすごい威圧感あるよ···。これは本気なんだね?
「ハルさん。よろしくお願いしますね」
「···ん。···こっちこそ。···全力でいかせてもらう」
「ええ!それでは始めましょう!」
エマさんは鎌を構えた!ハルはまず、エマさんにまっすぐ歩いていった!
「空蝉ですか···。これは懐かしいですね。では、こうしてみましょうか!」
エマさんは鎌を振りかぶってブンッって振ると、ブーメラン状の斬撃を放った!その斬撃がハルに当たると同時にエマさんは後ろを振り向き、そこにいたハルに鎌を振り下ろした!
「···残念。···惜しかったね」
エマさんの背後にできた影から、ハルが足元を狙って短剣を振るった!影移動だね!
しかし、エマさんは見切っていた!軽くジャンプして避けてしまったよ。
「おっと!?ふふっ!いいですねぇ〜!懐かしいですよ。まだまだ楽しませてもらえるのですか?」
「···ある程度は期待に応えるよ」
ハルは次々とチパさんの暗殺術を披露していったよ。それをエマさんは喜んで相手していたよ。まるでチパさんを懐かしむように···。
ボクから見ると、ハルは基本技を忠実に繰り出し、さらに応用技と連携技も見せていた。···そうか!これはこの里の人たちにチパさんの暗殺術をお披露目してるんだ!
練習だとどうしても寸止めになってしまう。エマさんは凄腕の神様だから、本気でやっても凌がれてしまう。だからこそ、チパさんの本当の技を披露できるんだね!
ハル···。そこまで考えてやってたんだね!
「ははは!素晴らしい!チョッパの技もこうしてちゃんと継承されているのですね~。安心しましたよ」
「···ん。···満足?」
「ええ···。とても懐かしい感じがしましたね。ではお礼と言ってはなんですが···、次は私からいかせてもらいましょうか」
「···どぞ。···どこからでも」
「ではさっそく···」
そうエマさんが言うと、ハルの足元が泥沼になった!
さらにエマさんの鎌が1本じゃなくなってる!?
「まずはこれでいかがでしょうか?」
そう言ってエマさんは鎌を投げてきた!足元がぬかるんでハルは思うように動けない!
「···この程度なら」
ダダダダ!!
ハルは短剣をひっくり返して魔力銃の弾幕で的確に撃ち落としていった!
「やりますね!ではもっといきますよ〜!」
さらにエマさんの鎌が増えた!どんどん投げるエマさん、それを撃ち落とすハル。両者の間には撃ち落とされた鎌が溜まって···、あれ?消えてるってことは、幻なのか!?
でもハルは撃ち落としていった!どれが本物かなんてわかんないなら、全部叩き落とすのみ!って事か。カークくんと同じ戦法だね!
「ふむ···。このままではつまらないですね。では···、場所を変えましょうか」
そう言って指をパチンと鳴らすと、ハルの足元が泥沼から···、空中に張られたロープになっちゃったよ!?これも幻なの!?ハルはちゃんとバランスをとってたよ。すごいわ···。
「おっと!これは幻ではないですよ。ちゃんと落とし穴ですから。ほら!」
そう言ってエマさんは小石を穴に放り込んだ。···音が聞こえないんですけど?底ないんです···?
「では···、このステージで決着をつけましょうか?」
「···ん」
「ふふっ。実はこのステージ、チョッパを引退させた時に使用したんですよ。あの時は落として私が救出しましたね」
「···そう。···なら、今回は私がそうしてあげる」
「ええ。もっともそうさせてあげませんけどね!」
エマさんがハルに突っ込んでいった!バランスが悪く、踏ん張りが効かない足元で、ハルはどうするんだ!?
「···残念。···今回は私の勝ちだね」
ハルは張られたロープを切断した!
「なんだと!?ぬわっ!?」
ロープを切断した事で、ハルとエマさんが落とし穴に落下し始めた!
そしてハルは一緒に落ちていくエマさんの腕をつかみ、そして···!?
ゴーーーー!!
な、なんと!?高速飛行魔法を使っちゃった!?落下速度を相殺して穴から飛び出してきたんだ!
すぐに高速飛行魔法を切って、ハルとエマさんは穴のすぐ横に着地したよ。
「ハル!まさか高速飛行魔法使えるようになってたなんて···」
「···10秒ぐらいが限界だけどね。···でも、こういう使い方はできたよ」
「ボクでも思いつかなかったよ···。さすがだね!ハル!」
「···ふふっ!ははは!いやぁ〜、完全に参りましたよ。まさかあんな方法を採るなんて思いもしませんでしたね」
エマさんはそう言って落とし穴を解除したよ。元通りの試合場になってたんだけど···、あれも幻なの?
「あれは幻ですが、落ちれば2度と出てこれないんですよ。永遠に幻の中をさまよう事になるのでね」
「エマさん?そんな恐ろしいステージでやったんですか!?」
「いやぁ〜。興に乗ったのでついね。これではっきりしました。ハルさん?あなたはチョッパを超えましたね。参りましたよ」
「···いや、私はまだまだだよ?」
「そうですか?まぁ、それもいいでしょうね。···私のために試合していただき、ありがとうございました」
「···ん。···今日もひとついい勉強になった」
「そうですか···。では、ここからは自由に対戦してもらっていいですよ。ここじゃ狭いですから、ここからは外でやりましょう」
ふぇっ!?まだやるの!?
「よし!たった1戦じゃつまんないからな!」
「ちょうせんしゃ、もとむ」
「せっかくなんだ!あたいだってもっとやって勉強したいぜ!」
「おれもだ!もっとやらせてくれ!」
「フーもまだまだやれるよ〜!」
孫たちはやる気だわ···。
「おう!オレも相手になるぞー!」
「アキがいいならオレもやるぜ?」
「···私もいいよ?」
「あたしはパスね〜。サポート専門だし」
リオもレオも、そしてハルもやる気だった。ナナはサポート専門だからパスだったよ。
じゃあ、ボクも少しだけお相手しますか!
···これがいけなかった。
ツルッ!!
「···え?ま、またぁ〜!?」
「え!?キャーーー!!」
バターーン!!
んちゅーー!!
···ええ、不可抗力ですとも。圧雪だと思ってたらちょっとだけアイスバーンになってて滑ってしまい、相手もろとも倒れ込んでしまって、くちびる同士が触れたのもね!
「···そこをどけ!!」
「ハ、ハルさん!?これは事故だから!事故だから怒らないで〜〜!!」
「ファ、ファーストキスが···。せ、責任取ってくれるんですよね!?」
「···へっ!?ちょ!?なに言ってるのさ!?」
「···いい度胸してるよ。···アキは私の夫!!」
「じゃあ、この責任はどうしてくれるんですか!?」
「ちょっと〜〜!?二人とも!ボクのために争うなんてやめて!!」
「「黙ってて!!」」
「はい···」
ボクのドジのせいで昼ドラのようなドロドロのカオスな状態になってしまいました···。ボクが二股かけたような状況になってないかい!?
ボクはハル一筋だからね!!
エマさんはハルちゃんがチパさんの技をすべて受け継いでくれているのが嬉しかったようで、ちょっと本気出してましたね。
このお話のテーマは『技術継承』でした。技術というものは書物や映像などではなかなか継承することができません。扱う人の『勘』やほんのちょっとした差異を見抜く力というのは膨大な経験があってこそのものです。さらにはそのものの本質を知らないといけません。また、知ったとしても理解するにはこれも経験が必要なんですよ。
そういった意味ではハルちゃんは正当に受け継いでいました。そして、その技術は子どものフユくんとナツちゃん、さらには孫のモンドくんとフーちゃんにも伝承されています。主にナツちゃんとフーちゃんがそうですね。
アキくんはドジがまた発動してくちびるを奪ってしまいましたね~!もちろん事故ですよ!事故!
ハルちゃんとしてはこれは許せないでしょうね~!
さて次回予告ですが、集落での試合がひと段落しましたのでコピーアキくんの自宅警備日誌その5をお届けします。この回でコピーアキくんの出番は終了です。まさかここまで続くとは思ってませんでしたけどね。
襲撃もなく暇だったのでクソゲーやったり温泉配管洗浄の立会をしたり、町に偵察に出たらうっかりナビくんと出会ってしまったり···。そんなドタバタな様子をお届けしますよ~!
それではお楽しみに~!




