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【ちぇんそーまんず】唐揚げ【漫才】

 漫才王になろうGP敗者復活戦。昨年も彼らはこの舞台に臨んだ――



 今年が結成15年目のラストイヤー。



 昨年は惜しくも敗者復活戦の2位で決勝を逃したコンビ。



 今年こそチャンスを掴むのか?



 寒空の下! 特設野外ステージで吠えろ! 茨木お笑い殺人鬼たち!



「こんばんわぁ!!! う・る・さ・い・ぞ!!!」


「お前がだろ【叩く】! ちぇんそーまんずです。ども宜しくお願いします」



 アキはいつのように軽く礼を繰り返し、デンジローは笑顔でガッツポーズの屈伸運動。とても寒い気温の中だったが、彼らはいつものスーツ姿で登場した――



「いやぁ! 今日はクリスマスイブですね!」

「だよな。こんな日に俺たち、一体何しているのだろうな?」

「何って漫才だろうがよ【軽く叩く】」

「ちょっといってぇな! チャンマゲ!」

「あのさ、こういう時に言うのも何だけどよ、ずっと気になっていた事を言ってイイか?」

「何だよ? チャンマゲ?」

「これはチョンマゲじゃなくてポニーテールな?」

「はいはい。寒いよなぁ。唐揚げ喰いてぇなぁ~」



 デンジローがそう言って空を仰ぎ白い息を吐き続ける。ゆったりめの会話ではじまり、この時点でまだ観客席の笑いもそこまでとれてはなかった。苦笑いをしながらアキが話を続ける。



「あと、お前、活舌悪いのかどうか知らないけど『チャンマゲ』って何だよ?チョンマゲだろうが」

「俺は小学生の時からずっとそう呼んでいたぞ?」

「チャンマゲって?」

「ポニーテールもチャンマゲも似たようなものだろうが?」

「全然違うよ。チョンマゲはお侍さんがする髪型」

「めんどくさいから同じでいいだろうが? 令和も江戸も日本人は日本人だろうが」

「よくねぇよ。あとお前、顔面ナニナニって人の顏をディスるのやめろ」

「何でだよ? ムカついたから顔面唐揚げって言ったのが悪いのかよ?」

「芸人でもない芸能人の先輩にそれをするなって言いたいの【叩く】!」



 例のニュースになったデンジローの「顔面唐揚げ騒動」をここで話題にする。会場にドッと笑いあり。会場にいる観客もテレビの視聴者もその話題でネタを膨らますものだと思っていたが――



「いってぇな! 顔面チャンマゲ!」

「髪と顏が一体になっているじゃねぇか!」

「髪と顏が一体で顏だろうが。馬鹿野郎!」

「そういう話をしにココに来てねぇだろうが【叩く】!」

「黙って聞いてみりゃあよう! 俺だってお前に言いてぇ事が山ほどあるぞ!!」

「何だよ! 言ってみろよ! このチキン野郎!」

「お前、コンビニで何か買ってきて! って頼んだら何でいつも唐揚げばっかり買って来るの!?」

「お前が唐揚げ大好きって事務所HPプロフ欄に載せているからだろうが【叩く】!」

「いつもいつも唐揚げが喰いたいワケじゃねぇよ!!」

「今さっき言っていたじゃねぇかよ!」

「言ってねぇよ!」

「言っていた!」

「言ってねぇよ!」

「言っていた【叩く】!」

「うん、言っていたかもしれねぇな……」

「切り替え早いな。もうちょい素直になれよ。イイ年齢なのだし」

「じゃあ、素直に言うけどよ、今から『唐揚げ』って言ってみ?」

「あ? 唐揚げ?」

「唐揚げだよな? 4文字だよな?」

「おう、4文字だよ。漢字にすると3文字だけど」

「お前の発音って3なのよ。それが嫌で嫌で仕方ないのよ」

「ちゃんと4文字で言っているだろうが! か・ら・あ・げぇ!」

「5! 増えたな」

「お前が言えよ!」

「か・ら・あ・げ・ちゃんと4だ!」

「かぁ・らぁ・あぇ・げぇ!! 4だろうが!!」

「8だ。倍になっているぞ? おとなげねぇなぁ」

「おとなしく言ったらイイのか?」

「いや、フルパワーでも4でいけるよ。か・ら・あ・げ! 4だ!」



 両手をブンブン振り回しながらハッキリと1音1音を発声するデンジローに会場中から爆笑が。一部の観客からは拍手する姿もみられた――



「かぁ・らぁ・あぇ・げぇぇ!! どこが!? これで4だろうが!?」

「9! その叩きつけるようなのが駄目!! もっと下からこいよ!!」

「クゥア! ラァア! アア! ゲェェ!!」

「12! 俺の真似だけしても駄目だぞ!!」

「クゥア! ラァアン! アアア! ゲェェ!!」

「13! どんどん記録を伸ばしているじゃねぇか!?」

「もう……しんどい……休ませて……」

「ちゃんと人の発音を聴けよ! か・ら・あ・げ! 4だ!」

「か・ら・げ!!!」

「3! いつものお前! 進化したり退化したり激しいぞ!?」

「はぁ……はぁ……はぁ……」



かがみこんで手をつき項垂れるアキ。この時点で「いつものちぇんそーまんずじゃあないぞ?」と誰もが感じた。彼らが作りだした異様な世界観はまだ続く――


「お前! イイ姿勢じゃねぇか! そのまま唐揚げを言ってみろ!」

「か・ら・げぇ!!」

「ちょっと違うけど4! できた! もう一度! もう一度その姿勢で!」

「か・ら・げぇぇ!!」

「5! 惜しい! 惜しいぞ! でも水族館でショーができそうだ!」

「お前、人を馬鹿にするのもほどほどにしろよ……」

「立て! 立つんだ! ジョウ! じゃなかったチャンマゲ!」

「しんどいから休ませて……」

「諦めるな! ここでやりきったら、()()()()()()()()()()()()()()()!」

「ネタで言っているのかマジで言っているのかわかんねぇよ……!」

「俺はいつでもマジだ! お前のダチだ!」

「くそう! くそう! くそおおおぉぉぉ!」

「俺に続け! か・ら・あ・げ!」

「か・ら・あ・げ!」

「4だ! もう一度! か・ら・あ・げ!」

「か・ら・あ・げ!」

「4だぞ! いいぞ! か・ら・あ・げ!」

「か・ら・あ・げ!」

「あと一回できたら決勝にいけなくてもお前は男になる! か・ら・あ・げ!」

「か・ら・あ・げ!」

「よっしゃー! 牧野さ~ん!!」

「ムゥアキノォスワァァァン!!」



 両手を大きく回すデンジローと手をつきながら腕立て伏せをするようにして「唐揚げ」と「牧野さん」を連呼するちぇんそーまんずに会場は大爆笑に包まれた。しかし「牧野さん」に対してはその意味が2人にしか分からないものであった為か、ごく数名首を傾げる人や「えっ? 最後なんて言ったの?」と隣の観客に尋ねる観客がカメラにも映る。牧野さんへの大絶叫のうちにアキがゆっくりと膝をつきながらも、立ちあがった。



 立ち上がったアキをデンジローが肩を組み支える。ここで謎の拍手が起きたりも。



 コレはもう漫才と言わない。もはやちゃんそーまんずわーるど。



 少なくとも私はそう感じた。



「大丈夫かよ? お前?」

「ああ、俺でもやればできるだろう?」

「スタンドで4にトライしてみるか?」

「………………」

「無理ならいい。どの道ここで俺達がやったことはヨウチューブで転載されて広められる」

「皮肉だよな」

「それがお笑い芸人ってヤツだろう?」

「そうだな。よし、それを覚悟のうえでいっちょやってみるか」

「おう、お前がいいならコレを外すぞ?」

「おう、その眼に焼きつけておけよ?」



 アキがフラフラしながらもマイクを握って立つ。



 温かく微笑みながら彼を見守るデンジロー。



 一体、私たちは何をみさせられているのだろうか?



「唐揚げ!」

「3!」

「うわぁ……」

「チャンマゲ!?」



 倒れそうになるアキを咄嗟に支えようとするデンジローだったが間に合わず。



 横に倒れたアキを抱きかかえてデンジローがスピーチを始めた。



「彼は今日を以て芸人をやめるかもしれません。でも、俺は彼がか・ら・あ・げ・を4文字で発音できるようにトライしようとしていた事を生涯忘れないつもりです。ねぇ……みてよ、この顏……とても死んだようにみえないでしょう? すごく綺麗でしょう?」

「勝手に殺すな【叩く】!」

「うわっ!? 生きていた!?」

「ラストイヤーだぞ? クリスマスだぞ? 俺達ってば何やってしまっているのよ?でも、何か悪い気はしないな? 全国のBLファンの皆様、御見納めください。ありがとうございましたー!!」



 アキを抱きかかえながら深々一礼するデンジロー。そして笑顔で手を振るアキ。



 とんでもないものを見せられた。



 悪く言えば漫才の破壊。良く言えば漫才を超えた漫才。



 牧野さんのくだりはいらない気がしたが、彼らにとっては必要なモノだったのだろう。



そんな彼らに興味が湧かない事もない。



 結成から15年に及ぶ漫才王になろうGPの挑戦。お疲れ様。




 CRYSTAL EDEN

 野田栄一郎

(´Å`)ご一読ありがとうございました♪♪♪漫才王になろうGP、宜しくお願いします♪♪♪

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― 新着の感想 ―
[一言] お笑いライターさん……! こういう構成だと思わなかったので、意外性があって面白かったです。 何だかからあげが食べたくなってきました笑。 からあげだけで次々に漫才が展開するのがすごいですね。 …
[良い点] まさか、件の作品で漫才を作るとは、意外や意外で驚きでございますw 殺伐とした作風のマンガを漫才に置き換えるとは、やりおりますなぁ~(^ー^) デンジロウとマキマがこんなに楽しく日々を過ご…
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