第一部:銀龍の覚醒 御前試練(2)
──意識の海。
勇三郎の精神は、ただひたすらに沈んでいく。
暗闇の中で、彼の前にひとつの“輪”が現れた。
光でできた環。輪の中心には、波紋のように星屑が浮かび、時折、それが文字のように形を変えては、すぐに散っていく。
『……これは、“魂の記憶”……』
テクノの声が、共鳴のように響く。
過去の光景が浮かぶ。
現代日本で、前田健太として過ごした日々──
無力だったあの日。誰も救えなかったあの夜。約束を守れなかった、あの時。
何もかもが“魂の重み”として、この空間に現れていた。
──だが。
それを見つめるもう一つの視線があった。
ゆらりと、巫女の姿がその輪の中に現れる。
だが、その瞳に宿るのは“裁き”ではなかった。
「……貴方は、逃げなかったのですね」
勇三郎は目を見開いた。
「誰しも、過去に縛られ、苦しみ、それでも進む理由を探しています。
あなたの魂には、その“迷い”と“灯”が、どちらも……ある」
彼女の言葉は、直接語られたものでなく、魂を通して染み込んでくるようだった。
──彼女の名は、
月詠澄音。
“光龍の巫女”の名を継ぐ少女。日の国の巫女の名家である月詠家に生まれ、歴代最年少で選ばれた存在でありながら、最も深く光龍と共鳴した巫女として知られる。
外界と切り離された神殿で育ち、言葉ではなく魂で語ることを学び、世界を見る目を“視る力”で持つ者。
勇三郎の魂に触れた澄音は、静かに頷いた。
「……次は、貴方たち“全員の想い”を見せてください」
その言葉と共に、光の輪が四重に分かれ、それぞれ蓮、仁、セリナの魂に共鳴していく。
それぞれの過去──それぞれの傷──
光龍の気配が、彼らを包み、その“核”を覗こうとしていた。
そして、巫女澄音の瞳は、テクノへと向いた。
眠る龍に、巫女の思念が、そっと囁く。
「……貴方は、どこから来たのですか」
だがその問いには、まだ答えは返らなかった。
光が、一層強く瞬いた。
試練は、まだ終わらない。




