第一部:銀龍の覚醒 炎国の矢(3)
灼熱の風が、赤月の渓谷を吹き抜ける。
影獣隊と勇三郎たちの戦闘は、一進一退の激しいものとなっていた。
「クソッ、数も連携もヤベェ……!」仁が歯を食いしばりながら、紅羽と共に敵の側面を攪乱する。
セリナは防御に徹し、フィーナが足元を凍らせて敵の動きを封じ、滑らせることで戦場を混乱させていた。
蓮の太刀筋は冴え渡っていた。まるで風そのものを操るかの如く、敵の間合いを寸断する斬撃は、まさに“理に沿わない”美しさだった。
勇三郎もまた、テクノと共に魂力を展開していた。
「この“合成術式”、中心に何か……“核”があるはずだ。全員が繋がってるなら、その一点を断てば崩れる……!」
『うん……見つけた。あそこ……中央の“影の鎧”、あれが本体だ』
テクノが指し示すその方向に、勇三郎が魂術の磁場を集中させた。
「“通すべきでない流れ”を……遮断する」
彼の掌から、淡い銀光が走った。空気の振動が一瞬止み、まるで場の“流れ”そのものが切断されたかのように、影の鎧を纏った術者が動きを止めた。
「今だ、蓮!!」
蓮がその指示に従い、風を裂いて突進する。
斬撃。
無音。
そして――爆散。
影の鎧が砕け、魂の鎖が断たれる。
他の影獣たちが、一斉にうずくまり、霧散していく。
「……終わったか」
全員が肩で息をする。
だがその静寂は、一人の男の声によって破られた。
「見事だな。さすがは“災龍”の一派」
声の主は、遥か上空から彼らを見下ろしていた。
一体、いつからそこにいたのか。
その男は、炎の衣装を纏い、肩には“火龍”の紋章が刻まれていた。
「貴様は……!」
セリナが震える声で言う。
「……紫炎将・ザイシュト」
その名に、場が一気に凍りつく。
「試合? 謁見? それがどうした。貴様らが我が国の脅威となるなら、今ここで潰す。それだけだ」
ザイシュトは、軽く手を振る。その背後に、巨大な紅蓮の魂獣が姿を現した。
「撤退しろ!」蓮が叫ぶ。「今の俺たちじゃ、勝てない!」
「でも逃げ道が……」仁が言いかけたその時――
『――任せて。勇三郎』
テクノの瞳が光った。その瞬間、勇三郎の脳裏に鋭い警告のような痛みが走った。
次の瞬間、大地そのものが“折りたたまれた”。
空間の断裂。
全員の身体が、銀の光に包まれ、一瞬で視界が塗り替わる――
気づけば、彼らは光都の南、神殿近くの林の中にいた。
「……強制転移……いや、これは……空間の“置換”だと……?」
蓮が呆然と呟く。
「……テクノ、あれ……お前」
『んー、ちょっとだけ“道”を作っただけ。勇三郎が、ここに戻りたいって、強く思ってたから』
皆がその場で、静かに座り込んだ。勇三郎の腕の中で、テクノが静かにまぶたを閉じていた。
その姿を見て、勇三郎は胸の奥にかすかな痛みを感じたが、仲間たちと共に生還できた安堵がそれを包み込んだ。
彼らの心には、確信が生まれていた。
――この戦いは、もう「訓練」ではない。
彼らの一挙手一投足が、国家の命運を動かしている。
そしてこの戦いを通じて、勇三郎たちは「ただの参加者」から、「この国の切り札」へと変わりつつあった。
やがて、国の長たちが動き始める。
――天覧試合を途中で中断させ、非常令を発布。
――勇三郎たちの名を、「正式な国家戦力候補」として記録。
――そして、光龍の巫女が、静かにその瞳を開いた。
「……その魂が、国のために燃えるのなら。彼らに会いましょう」




