表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀龍のテクノ  作者: 銀獅子
80/258

第一部:銀龍の覚醒 天覧試合(10)

「……ああ……。そういえば見えたぜ。雲の、ずっとずっと上に……一つの赤い、星のようなものが光っていたのを……」


仁の青ざめた顔から絞り出されたその一言は、宿坊の部屋の空気を、再び氷点下へと叩き落とした。

“赤い星”。それは自然の星々とは明らかに異なる、不気味な光だった。


海斗の謎めいた警告と、仁の記憶の断片が、最悪の形で一つに繋がる。


「……監視、か」

蓮が、誰に言うでもなく呟いた。その声はこれまでになく重く、冷たかった。

「我々は逃げ切れてなどいなかった。あの山頂から……いや、もしかすると、それよりもずっと前から。奴らは、我々を空から見ていたのだ」


その事実は、これまでに感じたどの恐怖とも、質が違っていた。

追われているのではない。

――飼われているのだ。


まるで、巨大な箱庭の中で虫けらの動きを観察するかのように。

彼らの行動は、すべて、敵の掌の上にあった。


「……なんでだよ……」

仁が、震える声で言った。

「だったら、なんで奴らは、俺たちを見逃した? いつでも殺せたはずだ。なのに、なぜ……」


その問いに、答えられる者はいなかった。


(……観察、か)


勇三郎の脳裏に、前世の嫌な記憶が蘇る。

新製品の開発、その効果を確かめるための徹底的なユーザー観察。

被験者は、自分が観察されていることなど、知りもしない。


――そうだ。これは観察だ。


敵は、自分たちを……あるいは自分とテクノを、

まるで新しい「製品」や「兵器」のように、その性能を確かめている。


「……天覧試合」

勇三郎の口から、その言葉が漏れた。


全員が、はっとして彼へと視線を向ける。


「奴らの目的は、俺たちを、ここで“戦わせる”ことなんだ。

この国中の猛者が集う、最高の舞台で……俺たちが、どれほどの力を持っているのか。

特に、テクノの力がどこまで通用するのかを、確かめるために」


それは、あまりにも悍ましい仮説だった。

だが、それ以外に、この不自然な状況を説明できる言葉はなかった。


彼らの旅は、もはや彼ら自身のものではなかった。

それは、巨大な、見えざる“観客”によって監視される――残酷な見世物だったのだ。


「……ふざけやがって……」


仁の拳が、ぎり、と音を立てて握りしめられる。

「俺たちの戦いは、お遊びじゃねえ……!」


その時だった。


コン、コン。


宿坊の扉が、控えめに叩かれた。


四人の間に、緊張が走る。

こんな夜更けに、誰が来るというのか。


蓮が音もなく短剣を手に取り、扉の脇に身を潜める。

勇三郎が、静かに扉へと近づいた。


「――どなたですかな?」


勇三郎が声をかける。だが、返事はなかった。

ただ、扉の下のわずかな隙間から、一枚の折りたたまれた書状が、すっと差し入れられる。


勇三郎は仲間たちと顔を見合わせ、おそるおそるそれを拾い上げた。

書状には、差出人の名も、印もなかった。


ただ、震えるようでいて気品のある筆跡で、こう記されていた。


『――明日の、第三試合。蓮殿の対戦相手に、ご注意を。彼は、“神殿”の者では、ありません』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ