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銀龍のテクノ  作者: 銀獅子
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第一部:銀龍の覚醒 天覧試合(1)

天覧試合の予選会場は神殿の巨大な練兵場だった。

中央に設けられた八つの試合場を観客たちの熱気が渦のように取り巻いている。国中の猛者が集うこの場所は希望と野心、そして嫉妬と殺気が入り混じった異様な空気に満ちていた。


「うへえ、とんでもねえな……」

仁は人いきれに気圧されながらもその瞳は武者震いに輝いていた。

「見てみろよ。どいつもこいつも魂獣からして強そうだぜ」

彼の言う通り周囲の参加者たちが連れている魂獣は、イズミ村では見たこともないような屈強で凶暴な姿をしていた。


「気圧されるな。見かけ倒しも多い」

蓮は冷静に分析する。だがその実彼もまたこの場のレベルの高さを肌で感じていた。

「問題は試合形式だ。一対一の個人戦。俺たちの連携はここでは使えない」

それはこの寄せ集めの隊にとって最も厳しい条件だった。


やがて試合開始を告げる甲高い鐘の音が鳴り響く。

そして最初の試合の組み合わせが掲示板に張り出された。


「――第一試合場、間原勇三郎!」


「……え?」

いきなり自分の名が呼ばれ勇三郎は間の抜けた声を上げた。

「おいおい、いきなりお前かよ!」

「どうする勇三郎!?」

仁と蓮が焦ったように彼を見る。


「……やるしかないだろ」

勇三郎は覚悟を決めると仲間たちに一度だけ頷き試合場へと向かった。

腕の中のテクノが心配そうに彼を見上げている。

『勇三郎、大丈夫?』

(ああ。お前はそこで見ててくれ)


勇三郎が試合場に立つと対戦相手がゆっくりと姿を現した。

それは岩のような体躯を持つ大男で、その顔には獰猛な笑みが浮かんでいる。

そしてその傍らには全身が硬い甲殻で覆われた巨大な蟹の魂獣が、不気味な泡を吹きながら鎮座していた。


「へっ。なんだ相手はこんなひょろひょろの小僧か」

男が嘲るように言った。

「運がなかったな坊主。俺の魂獣『鋼鉄蟹こうてつがに』の魂術《鉄壁》の前ではお前の剣など届きはしないぞ」


その言葉通り男が魂術を発動させると、鋼鉄蟹の甲殻と同じ色の分厚い光の壁が男の全身を覆った。絶対的な防御。あれをどうやって破るというのか。


観客席から勇三郎を哀れむような、そして嘲笑うかのような声が聞こえてくる。

(まずいな……。まともにやっても勝ち目はない)

勇三郎の頭脳が高速で回転する。


(防御に特化した魂術。つまり動きは遅いはずだ。そしてあの甲殻……全身を覆っているわけじゃない。関節部分、そして目。そこが弱点……!)


試合開始の合図と共に大男がその巨体に似合わぬ速度で突進してきた。

勇三郎は紙一重でそれをかわす。そして彼は剣を構えるのではなく懐から数個の小さな石ころを取り出した。


観客がどよめく。

「なんだあの小僧は!?」

「戦う気がないのか!」


だが勇三郎は周囲の声など聞こえていなかった。

彼はその石ころを大男の顔面、そして鋼鉄蟹の関節部分を目がけて正確にそして連続で投げつけた。

それは何の威力もないただの陽動。

しかし大男はその予期せぬ攻撃にほんの一瞬その動きを止めた。


そのコンマ数秒の隙。

勇三郎はその好機を見逃さなかった。

彼は大男の懐へと一直線に潜り込む。

そして彼が狙ったのは男の体ではなかった。


勇三郎は男の足元の石畳、そのわずかな凹凸に自分の足を巧みに引っ掛けさせた。

それは魂術でも剣術でもない。

ただの前世の悪戯小僧がやるような原始的な罠。


「なっ!?」

体勢を崩した大男。

その無防備になった顔面。

そこへ向かって勇三郎の木刀の切っ先が寸分の狂いもなく吸い込まれていく。


勝負は一瞬だった。

だがその一瞬はこの会場にいる全ての者の度肝を抜いた。

そして誰もがまだ気づいていなかった。

この名もなき少年の勝利がこれから始まる波乱のほんの前触れに過ぎないということを。

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