第一部:銀龍の覚醒 光都にて(1)
巨大な城門をくぐり抜けた瞬間、四人を包んだのは圧倒的なまでの生命の奔流だった。
どこまでも続く石畳の道。整然と立ち並ぶ白い壁の家々。そして道の両脇には色とりどりの商品を並べた露店が所狭しと軒を連ね、威勢のいい呼び込みの声が飛び交っている。香辛料の甘い香り、焼いた肉の香ばしい匂い、そして人々の熱気が混ざり合い、一つの巨大な生き物の呼吸のように街全体を脈動させていた。
「う、うおお……!すげえ……!」
仁は完全に気圧されていた。彼の目は子供のようにきらきらと輝き、珍しい食べ物や見慣れない武具を売る店にその視線を奪われている。
「おい見ろよ蓮!あの刀、俺のよりずっと立派じゃねえか!?」
「……落ち着け。今は見とれるな。俺たちの正体が割れたらあんなものでは済まないぞ」
蓮は仁を諌めながらも、その実彼自身もこの光都の規模と秩序に驚きを隠せずにいた。行き交う人々、警備兵の配置、建物の構造。その全てが彼らが知るどの町よりも洗練され、そして巨大な力の元に統治されていることを示していた。
セリナは深く頭巾を被り、ただ息を呑むことしかできなかった。氷の国の王都とは全く違うこの暖かくそして雑多な活気。その一つ一つが彼女にとっては新鮮な驚きだった。しかし同時に人の多さは見つかるかもしれないという恐怖を何倍にも増幅させた。
フィーナが主の不安を感じ取り、懐の中でそっとその身を擦り付ける。
そんな仲間たちの様子を勇三郎は「座長」として冷静に観察していた。
(さてどうしたものか)
彼の頭の中では喜びや驚きよりも先に極めて現実的な問題がいくつも浮かび上がっていた。
宿はどうする。金はない。食料もない。そして何よりこの巨大な都市でどうやって国の最高権威者である光龍の巫女に会うというのか。
(まずは情報だ。巫女様に会うための手がかりを掴まないことには何も始まらない)
勇三郎は決意を固めた。
「みんな、行くぞ。まずは人の集まる場所だ」
彼らが向かったのは大通りに面した大きな広場だった。そこは旅人や商人、地元の人々が入り乱れる情報の交差点。彼らは目立たないように広場の隅に腰を下ろし、行き交う人々の会話に耳を澄ませた。
「光龍様の大祭が近い」「警備が厳しくなった」「巫女様は近頃お姿を見せない」――断片的な情報が彼らの焦りを増幅させる。
(やはり簡単には会えないか……)
勇三郎がそう思い始めた時だった。
広場の一角がにわかにざわついた。見れば、上等な着物を着た十歳くらいの少女が厳つい顔つきの屈強な侍を伴ってこちらへ歩いてくる。その少女の存在感は雑多な広場の中でひときわ異彩を放っていた。
(まずい、あまりジロジロ見るな)
勇三郎が仲間に目配せしたその時、少女の足がふと止まった。彼女の視線はまっすぐにこちらへ、いや勇三郎の懐でかすかに顔を覗かせているテクノへと注がれていた。
少女は護衛の侍の制止を振り切り、吸い寄せられるように勇三郎たちの前へとやってきた。
「……あなた様。その懐にいらっしゃるのは……?」
少女の声はか細いが、芯の通った不思議な響きを持っていた。
「こら!お嬢様!このような得体の知れぬ者たちに……」
藤堂と呼ばれた侍が慌てて前に出る。
その瞬間、仁の体が動いた。彼は勇三郎を庇うように立ち、侍の前に立ちはだかった。
「なんだてめえ!こっちはいきなり話しかけられてんだ!いきなり得体が知れねえとはどういうことだ!」
「何だとこの田舎者が!」
藤堂が刀の柄に手をかける。一触即発。
「藤堂、おやめなさい」
その場の空気を凍らせたのは、少女の凛とした一言だった。
「この方たちはわたくしに話しかけてなどおりません。わたくしが勝手に声をかけたのです」
少女は藤堂を諌めると再び勇三郎へと向き直った。その瞳はテクノを、そしてテクノの奥にある何かを見透かすようにじっと見つめている。




