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銀龍のテクノ  作者: 銀獅子
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第一部:銀龍の覚醒 首都への潜入(4)

「――次」


衛兵の感情の欠片もない事務的な声。

その一言がまるで死刑執行の宣告のように四人の心臓を冷たく締め付けた。

一瞬、全員の足が地面に縫い付けられたかのように動かなくなる。背後には長い行列が続き、前には全てを見透かすかのような衛兵の鋭い目が光る。逃げ場はない。


(……落ち着け。落ち着け、前田健太)


勇三郎は内心で必死に自分に言い聞かせた。前世で何度も修羅場を潜り抜けてきたはずだ。役員会議のあの凍るような空気、失敗の許されない数十億の契約。それに比べればこんなもの……。


(いや、比べ物にならないくらい怖い……!)


だが彼はその恐怖を表情のおくびにも出さなかった。

彼は一座の「座長」なのだから。

「はい!」

勇三郎はにこやかで、しかしどこか田舎者らしい朴訥さを装った笑みを浮かべると一歩前に出た。


「遥か東の嘆きの山脈の麓から参りました、しがない行商人でございます。この度は我らが村に伝わるささやかなお守りを首都の皆様にもお分けしたく、長い道のりを旅して参りました」

その口上は昨夜必死に考えたものだ。淀みなくそして自信に満ちて聞こえるように。


衛兵の鉄仮面のような顔はぴくりとも動かない。その目は勇三郎を通り越し、彼の後ろに立つ三人を値踏みするようにじろりと見つめた。

仁は緊張のあまり顔が引きつっている。セリナは深く被った頭巾の下で必死にその震えを隠していた。

一番落ち着いていたのは意外にも蓮だった。彼はただ静かにそこに立っているだけ。だがそのあまりにも堂々とした佇まいがかえってこの一座がただの若者の集まりではないという奇妙な凄みを与えていた。


「……身分を示すものはあるか」

衛兵が低い声で尋ねる。

「は、はい。これが村長から預かってきた通行の手形にございます」

勇三郎は懐から猛次郎が用意してくれた偽造の(しかし精巧な)手形を差し出した。


衛兵はそれを受け取ると太陽の光に透かすようにして念入りに確認する。

その息の詰まるような沈黙。

やがて衛兵はふんと鼻を鳴らした。

「……荷物を見せろ」


来たか。

勇三郎は内心で歯を食いしばりながら背負っていた荷物をゆっくりと地面に下ろした。

中に入っているのは彼らが作った素朴な蔓の腕飾りだけ。

衛兵はその一つを無造作に掴み取ると、まるで汚物でも見るかのような目でそれを眺めた。


「……こんながらくたを売りに来たと?」

その嘲るような言葉に仁の眉がぴくりと動いた。

「仁、動くな」

蓮の氷のように冷たい声が仁の耳元で囁かれた。仁ははっと我に返り衝動を必死に抑えつけた。


「はい。我らにとってはがらくたなどではありません」

勇三郎はあくまで笑顔を崩さなかった。

「それは我らが山の神の御力が宿ったありがたいお守りにございます。よろしければ旦那様も一ついかがですかな?旅の安全をお祈りいたしますぞ」


そのあまりにも図々しい商人の口上。

衛兵の眉間の皺がさらに深くなった。彼は腕飾りを地面に叩きつけようとして、ふとその動きを止めた。

彼の視線は勇三郎の懐、そこに隠すように収まっている小さな銀色の頭へと注がれていた。

テクノがこの殺伐とした空気に怯えて顔を出してしまっていたのだ。


「……おい。その懐のトカゲはなんだ」

衛兵の声の色が変わった。

まずい。

全員の心臓が凍りついた。


勇三郎の頭が高速で回転する。

どうする?どう言い訳をする?

だがどんな言葉もこの絶体絶命の状況を覆すことはできないように思えた。


その時だった。

「――兄様」


か細くしかし凛とした声が響いた。

セリナが勇三郎の背後からひょっこりと顔を出したのだ。

彼女は深く被っていた頭巾を少しだけ上げ、黒く染めた髪と、恐怖と兄を助けたいという必死の思いが入り混じった大きな瞳を衛兵へと向けた。


「そ、その子はテツと申します。わたくしの大事なお友達なのです。どうか、いじめないでください……」


そのあまりにも健気でか弱い少女の姿。

衛兵の鉄仮面のような顔にほんのわずかに人間らしい戸惑いの色が浮かんだ。

彼にも故郷に同じくらいの年の妹がいるのかもしれない。


「……チッ」

衛兵は大きく舌打ちをすると、地面に落としていた腕飾りを無造作に勇三郎へと投げ返した。


「――行け。だが妙な真似をしてみろ。その首すぐに飛ぶと思え」


その言葉が許しであると理解するのに数秒かかった。

四人は弾かれたように頭を下げると足早にその場を通り過ぎた。


巨大な城門をくぐり抜ける。

その瞬間、彼らの目の前に新しい世界が広がった。

石畳の道、どこまでも続く白い壁の家々、そして天を突くかのような巨大な光龍の神殿。

活気に満ちた人々の声。香辛料の甘い香り。

――日の国の首都『光都』。


だが、その圧倒的な光景がもたらした安堵はほんの束の間だった。

四人はすぐに気づかされる。この巨大な人の海の中で自分たちが、あまりにも無力でそして孤独であるという冷徹な現実に。これから何をすべきなのか。その答えを持つ者は誰もいなかった。

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