第一部:銀龍の覚醒 首都への潜入(3)
彼らの新たな役割を胸に、四人はついに首都へと続く街道へとその第一歩を踏み出した。
嘆きの山脈の荒涼とした風景とは打って変わり、街道は驚くほど活気に満ちていた。荷馬車を引く商人、杖をついて歩く旅人、近隣の村へ向かうのであろう家族連れ。人々の話し声や笑い声、馬のいななき、車輪の軋む音が混ざり合い、一つの大きな生命の奔流を作り出している。
「うお……すげえ人の数だな……」
仁は人いきれに気圧されたように呟いた。彼は勇三郎の指示通り、作った腕飾りを腕にじゃらじゃらとつけ、背負った荷物からそれらをわざとらしく覗かせている。その姿は、田舎から出てきた、夢見る若者そのものだった。
『仁、落ち着け。お前の心が騒ぐと僕までそわそわする』
肩の上の紅羽から、呆れたような思念が飛んでくる。
「静かにしろ仁。挙動不審は一番疑われるぞ」
蓮は冷静に注意しながらも、その目は鋭く周囲を観察していた。行き交う人々の服装、荷馬車が運ぶ品物、そして時折すれ違う、首都警備隊の巡回兵の装備やその数。彼はこの平和な光景の中から、後の脅威となりうるあらゆる情報を拾い集めていた。
セリナは深く頭巾を被り、できるだけ自分の存在感を消すように、勇三郎の半歩後ろを歩いていた。魔獣や追手とは違う、無数の人々の視線という新たな恐怖。それが彼女の心を縛り付けていた。
『主よ、大丈夫。わたくしがおります』
懐に隠れたフィーナが、主を励ますようにその身を擦り付ける。
そんな仲間たちの様子を感じながら、勇三郎はこの奇妙な一座の「座長」としての役割に徹していた。
(よし、上出来だ。仁の分かりやすい元気さは、怪しさを打ち消す。蓮の冷静さは、この一座がただの若者の集まりではないという、一種の凄みを与えている。セリナの怯えは、田舎から出てきた内気な妹という役に、これ以上ないほどの真実味を持たせている)
前世で、数々の企画を通してきた経験。それは、人の心を読み、望むべき物語を相手に信じさせる技術。皮肉にも、それが今、この異世界で生きるための、彼の力となっていた。
やがて、彼らの目の前に、その圧倒的な姿が、現れた。
日の国の首都、『光都』。
天を突くかのような、巨大な白い城壁。そして、その中央に穿たれた、荘厳な城門。門の両脇には、一分の隙もなく武装した衛兵たちが、鋭い眼光で、門を出入りする人々を監視していた。
「……で、でけえ……」
仁が、思わず、声を漏らす。
「……あれを、通るのか。俺たちが……」
彼らが、その巨大な門へと続く、長い行列の最後尾に並んだ、その時だった。
行列の先頭で、何やら、揉め事が起きた。
一人の、身なりの良い商人が、衛兵に何かを詰問されている。衛兵は、商人の荷物を乱暴に改めると、やがて、その首に、冷たい刃を突きつけた。
周囲から、悲鳴が上がる。
「こいつは、炎の国の密偵だ!連れて行け!」
衛兵の号令と共に、商人は、なすすべもなく、引きずられていった。
岩屋の中は、水を打ったように、静まり返った。
あの、ザグラムが言っていた、密偵。首都の警備は、彼らが想像していた以上に、遥かに、厳しく、そして、苛烈だった。
行列に並ぶ人々の視線が、互いを疑うように、ぎこちなく、揺れる。
勇三郎たちの、すぐ前。
一人の、衛兵が、ゆっくりと、こちらへと、向き直った。その、全てを見透かすかのような、鋭い目が、四人の姿を、一人、一人、値踏みするように、捉えた。
「――次」




