第一部:銀龍の覚醒 首都への道(1)
眩い光が彼らの体を完全に包み込む。
そして次に彼らが目を開けた時、目の前に広がっていたのは想像だにしていなかったあまりにも意外な光景だった。
そこはもう、嘆きの山脈の荒涼とした岩肌ではなかった。
ひんやりと、しかしどこか優しい空気が肌を撫でる。耳に届くのは小鳥のさえずりと風が木々の葉を揺らす穏やかな音。見渡す限り日の光が木漏れ日となって降り注ぐ、手入れの行き届いた美しい森が広がっていた。
「……ここは……?」
セリナが呆然と呟く。
「……なんだよこの森……。嘆きの山脈とは大違いじゃねえか……」
仁もまた警戒しながらもそのあまりの違いに戸惑いを隠せない。
「空気が違う。土の匂いも生えている木の種類もだ」
蓮は即座に周囲の状況を分析し結論づけた。
「ここは嘆きの山脈ではない。我々は……移動したんだ。それもかなりの距離を」
『月の道』。あの星々がきらめく不可思議な空間。
それはただの通路ではなかった。空間と空間を繋ぐこの世界の理を超えた道。
ルナという謎の少女。彼女は一体何者だったのか。
「おい、道だ!あっちに街道があるぞ!」
仁が指差す方を見ると、確かに木々の向こうに人々が踏み固めたであろうしっかりとした道が見えた。四人は吸い寄せられるようにその道へと向かう。
そして彼らは見つけた。道の脇に立つ一本の古い道標を。
そこに刻まれた文字を読んだ瞬間、四人は言葉を失った。
『首都まで 十里』
「……じゅうり……?」 仁が間の抜けた声を出す。 「嘘だろ……?首都までたったの十里だと!?俺たちの村からだって馬を飛ばして七日はかかるんだぞ!」
「ありえない……。我々は一瞬で数百里を移動したというのか……」
蓮もまたその怜悧な顔に隠しきれない驚愕を浮かべていた。
それは奇跡だった。
誰もが絶望したあの状況からのあまりにも鮮やかすぎる逆転劇。
炎の国の追手も嘆きの山脈の過酷な自然も今や遥か彼方。
「へ、へへ……」
最初に笑い出したのは仁だった。やがてそれは腹の底からの高らかな大笑いへと変わる。
「やった!やったぞ!助かったんだ、俺たち!」
彼はその喜びを全身で表現するように紅羽と共に空を仰いで雄叫びを上げた。
セリナの瞳からも安堵の涙が一筋また一筋とこぼれ落ちた。フィーナが主の涙を慰めるようにその頬を優しく舐める。
蓮も固く結んでいた唇をようやく緩め深い安堵のため息をついた。
だが勇三郎だけはその手放しの喜びに浸ることができなかった。
(……転移か。前世の物語の中だけの話だと思っていたが……)
彼の頭の中では喜びよりもこの世界の根源に対する新たな畏怖とそして尽きることのない謎が渦を巻いていた。
ルナ。忘れられた庭。そしてテクノと共鳴したあの遺跡。この世界は彼の理解を常識をあまりにも簡単に超えていく。
腕の中でテクノがもぞりと動いた。 『……なんだかすごく大きくて温かい光を感じる……。遺跡のあの龍とはまた違う……。もっと優しい光……』 テクノの思念に勇三郎ははっとした。
首都。そこにはこの日の国を守護する光龍がいる。テクノはその存在をこの距離からすでに感じ取っているのだ。
そうだ、終わりじゃない。
旅はまだ終わっていない。
彼らの本当の目的はこれからだ。
「……みんな」 勇三郎の静かだが決意に満ちた声に三人が彼へと向き直る。 勇三郎は遥か彼方、木々の向こうに見える首都の方角をまっすぐに見据えていた。
「行こう。――俺たちの戦いを始めに」




