第一部:銀龍の覚醒 月の道(1)
「さあ、お行きなさいな。勇敢な星の涙の子と、その仲間たち」
ルナのどこか寂しげでしかし優しい声に背中を押され、四人は覚悟を決めた。
目の前に広がるのは壁のはずの場所に存在する、星々がきらめく漆黒の空間。そして遥か彼方に見える一点の青白い光の出口。
「……行くぞ」
蓮の短くも決意に満ちた声を合図に、四人は一斉にその不可思議な空間へと足を踏み入れた。
その瞬間、全身を奇妙な感覚が包んだ。
重力がない。いやあるのかもしれないが、それは彼らが知るどの重力とも違った。足が地面についている感覚がなく、まるで深い水の底をゆっくり歩いているかのようだった。
周囲には手が届きそうなほど近くに無数の星々がまたたいている。
だがそれは夜空に見える冷たい光の点ではなかった。一つ一つが温かく、そしてどこか生命の鼓動のような柔らかな光を放っていた。
「……なんだここ……。すげえ……」
仁が我を忘れてその幻想的な光景に感嘆の声を漏らした。
「道というよりは空間そのものを渡っているようだ……」
蓮もまた鋭い視線で周囲の異質な法則を分析しようとしていた。
『……すごい……。キラキラがいっぱい……』
勇三郎の腕の中でテクノが嬉しそうな思念を送ってくる。この世界の理の外にある空間は彼にとってどこか故郷に似た居心地の良さを感じさせるのかもしれない。
彼らはただひたすらに遥か彼方に見える青白い光の出口を目指して歩き続けた。
ここでは時間の感覚さえも曖M昧だった。どれくらい歩いたのかもう誰にもわからなかった。
やがてセリナが不安げな声で呟いた。
「……本当にこの道はわたくしたちの世界に繋がっているのでしょうか……?」
その問いに誰も答えることはできなかった。
ルナは言った。この道がどこへ出るのかはわからないと。
炎の国の軍の真っただ中かもしれない。
あるいは全く見知らぬ土地かもしれない。
「……だとしても進むしかねえだろ」
仁がまるで自分に言い聞かせるように言った。
「俺たちはもう引き返せねえんだからよ」
その不器用な言葉が全員の揺らぎかけた心を再び一つにした。
そうだ、もう後戻りはできない。
彼らは自らの意志でこの道を選んだのだ。
やがて出口の光が次第に大きくなっていくのが見えた。
光の向こう側から聞き覚えのある風の音と土の匂いが微かに感じられる。
確かにこの道は外の世界へと繋がっている。
四人は互いの顔を見合わせた。そして力強く頷き合う。
この光の先に何が待ち受けていようともこの四人と四体がいればきっと乗り越えられる。
そんな確かな信頼を胸に彼らは最後の一歩を踏み出した。
眩い光が彼らの体を完全に包み込む。
そして次に彼らが目を開けた時。
目の前に広がっていたのは彼らが想像だにしていなかった、あまりにも意外な光景だった。




