第一部:銀龍の覚醒 忘れられた庭(2)
「――おーい!勇三郎ー!セリナー!どこだー!生きてるなら返事をしろーっ!」
家の外から響き渡ったその声はやかましかったが、今の二人にとってはどんな音楽よりも心強かった。
「仁!?蓮も!?」
勇三郎が驚いて家の入り口へ駆け寄ると、セリナも信じられないといった顔で後に続く。
扉を開けると、そこには泥と傷にまみれ疲労困憊といった様子ながらも、確かに仁と蓮が立っていた。
「おお、勇三郎!セリナ!無事だったのか!」
仁は二人の姿を認めると顔をくしゃくしゃにして駆け寄ってきた。
「心配させやがってこの馬鹿野郎!崖から落ちて死んじまったかと思ったじゃねえか!」
彼は勇三郎の背中をバンバンと、力強くも心からの安堵を込めて叩いた。
「……見つけ出すのに随分と骨が折れたぞ」
蓮もいつも通りのクールな表情を装ってはいたが、その目には隠しきれない安堵の色が浮かんでいた。
「霧が深すぎて紅羽の《天眼》もほとんど役に立たなかった。ただ蒼が、お前たちの魂のかすかな痕跡を執念で追い続けたんだ」
蓮の隣で蒼が、主の言葉を肯定するかのように誇らしげに鼻を鳴らした。
再会を喜び合う四人。
だがその感動の場面は、仁と蓮が彼らの背後にあるあまりにも非現実的な光景に気づいたことで中断された。
「……なんだここ……?」
仁があんぐりと口を開けて、目の前に広がる光る苔と巨大なキノコの森を見つめている。
「……こんな場所、地図のどこにも載っていなかった。我々は一体どこに迷い込んだんだ……?」
蓮もまた鋭い視線で、周囲の異質な自然を分析するように観察していた。
そして二人の視線は、家の入り口に静かに佇む一人の見知らぬ少女へと注がれた。
藍色の髪、金色の瞳。人形のように整った顔立ち。そしてその身にまとう、何百年という時の重みを感じさせる不思議な雰囲気。
二人の間に緊張が走る。
「……あんたは誰だ?」
仁が警戒心をむき出しにして問いかける。
その緊迫した空気を破ったのは、ルナのくすくすという楽しげな笑い声だった。
「まあまあ。そんなに怖い顔をなさらないで。わたくしはルナ。この『忘れられた庭』の番人ですわ。あなた方のお仲間はわたくしが保護しておりましたのよ」
そのあまりにもマイペースで掴みどころのない態度に、仁と蓮はますます混乱した。
勇三郎とセリナがこれまでの経緯を説明すると、二人はようやく状況を理解した。だが理解すればするほど謎は深まるばかりだった。
世界の隙間にある箱庭?
星の涙?
創造主?
そのおとぎ話のような言葉の数々。
「……にわかには信じがたい話だな」
蓮は腕を組み、深刻な顔でルナを見つめた。
「君は何者なんだ?君の魂術は傷を癒やす力を持っているようだが、我々が知るどの系統の魂術とも違う。君は一体どこでその力を……」
その探るような蓮の問いかけに、ルナは少しだけ寂しそうな顔をして首を横に振った。
「わたくしには魂術など使えませんわ」
「……何?」
「わたくしはあなた方とは違いますもの。だってわたくしには――魂獣がおりませんから」
その衝撃の告白。
魂獣がいない。
この世界で十五歳になれば誰もがその身に宿すはずの、魂の相棒が。
その事実は彼女がこの世界の理から完全に外れた存在であることを、何よりも雄弁に物語っていた。




