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銀龍のテクノ  作者: 銀獅子
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第一部:銀龍の覚醒 霧の海の底で(1)

風の轟音が、遠ざかっていく。

仲間たちの、自分の名を呼ぶ絶叫が、分厚い霧の層に吸い込まれて、掻き消えていく。

勇三郎の意識は、落下という、抗いがたい物理法則に、そして、魂を削られたことによる、絶対的な虚脱感に、支配されていた。


(……ああ、ここまで、か……)


これが、死か。

前世の、光の渦に呑まれた時とは、違う。あの時は、どこか、他人事で、安らぎさえ感じていた。

だが、今は、違う。

胸に突き刺さるのは、どうしようもない、後悔の念。

守りたいものが、たくさん、できたのに。

ようやく、生きていると、実感できたのに。


「……っ!」


腕の中で、意識を失いかけていたセリナが、最後の力を振り絞るように、勇三郎の服を、強く、握りしめた。その、か細い感触が、勇三郎の、消えかけていた意識を、無理やり、現実に引き戻す。


(……そうだ。まだだ。まだ、俺は、一人じゃない)


隣には、この、か弱くも、気高い王女がいる。

腕の中には、自分のために、全ての力を使い果たしてくれた、かけがえのない、相棒がいる。


(……死んで、たまるか……!)


勇三郎は、残された、ほんの僅かな気力を、その両腕に集中させた。

彼は、きりもみ状態で落下していくセリナの体を、力任せに、自分の方へと引き寄せる。そして、彼女を、強く、強く、抱きしめた。

せめて、地面に激突する、その瞬間、自分が、クッションになれるように。

それが、今の自分にできる、唯一の、そして、最後の、「理屈」だった。


彼は、固く、目を閉じた。

そして、来るべき衝撃に、備えた。

だが、その衝撃は、いつまで経っても、訪れなかった。


代わりに、体を包んだのは、何かの、柔らかく、そして、弾力のあるものに、激しく、叩きつけられるような、奇妙な感覚だった。

バサッ!バサバサッ!という、巨大な布が、破れるような音。

そして、凄まじい勢いで、いくつもの、太い枝が、体を打ち据える。


「ぐ、あ……っ!」


最後の衝撃と共に、彼の意識は、完全に、闇へと、沈んでいった。


どれくらいの時間が、経ったのだろう。

最初に感じたのは、甘い、花の蜜のような、芳しい匂いだった。

そして、全身を、優しく包む、柔らかな光。


勇三郎は、ゆっくりと、その瞼を開いた。

目の前に広がっていたのは、信じがたい光景だった。


そこは、森の中のようだった。だが、彼が知る、どの森とも、違う。

地面には、青白い光を放つ、苔が、まるで絨毯のように、びっしりと生えている。頭上を見上げれば、巨大な、キノコのような植物が、傘のように折り重なり、それ自体が、淡い、様々な色の光を放って、この場所を、幻想的に、照らし出していた。

空気は、濃密で、湿り気を帯び、生命の匂いに、満ちていた。


「……ここは……?」


彼は、ゆっくりと、身を起こした。全身が、打ち身で、悲鳴を上げている。だが、幸い、骨は折れていないようだった。

見れば、自分たちは、巨大な、網のような植物の上に、落ちたらしかった。その植物が、奇跡的に、落下衝撃を和らげてくれたのだ。


「……セリナ!」


勇三郎は、慌てて、隣で倒れているセリナへと駆け寄った。彼女は、まだ、意識を失ったままだ。だが、その呼吸は、穏やかで、顔色も、少しだけ、良くなっているように見えた。フィーナが、その傍らで、心配そうに、主の顔を、舐めている。


そして、勇三郎は、自分の腕の中の、相棒へと、視線を落とした。

テクノは、深い眠りについていた。だが、その体は、もう、石のように冷たくはなかった。確かな温もりがある。そして、その銀色の鱗の下から、まるで、内なる心臓が、ゆっくりと、しかし、力強く脈打つかのように、ごくごく、淡い、銀色の光が、リズミカルに、明滅を繰り返していた。


それは、ただの消耗からの、回復ではなかった。

遺跡で、何か、巨大な情報データを受け取り、そして、先程、それを、強制的に、出力アウトプットした。その反動で、彼の魂は、今、新たな段階へと、移行しようとしている。

まるで、コンピューターが、OSを、再起動リブートしているかのような、静かで、しかし、荘厳な、変革の時。


(……テクノ……)


今は、ただ、信じて、待つしかない。

勇三郎が、そう、覚悟を決めた、その時だった。


カサリ、と、近くの、光るキノコの茂みが、揺れた。

勇三郎は、はっと、身構えた。

だが、そこから現れたのは、魔獣ではなかった。


それは、背丈は、勇三郎の半分ほどしかない、小さな、人影だった。

ぼろぼろの、しかし、上質な布を纏い、顔は、深い、フードで、隠れている。

その小さな人影は、驚いたように、こちらを見つめていたが、やがて、そのフードの奥から、鈴を転がすような、しかし、どこか、古びた響きを持つ、少女の、声がした。


「……まあ……。空から、お客さまが、降ってくるなんて……。一体、何百年ぶりの、ことかしら……?」

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