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銀龍のテクノ  作者: 銀獅子
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第一部:銀龍の覚醒 大空の舞(2)

束の間の勝利は、終わった。

空という、新たな戦場で、死の鬼ごっこが、今、再び、始まろうとしていた。


「ちくしょう!どこまでも、しつけえ野郎だ!」


仁が、風を切り裂きながら悪態をつく。眼下から、黒い矢のように迫り来る、翼を持つトカゲの群れ。その先頭を飛ぶ、ひときわ巨大な溶岩蜥蜴ボルガと、その背中に仁王立ちする、隊長ザグラムの姿は、まさしく、地獄からの追手そのものだった。


「散開しろ!固まるな!」


蓮の、鋭い声が飛ぶ。彼の指示に従い、四つの、いびつな翼は、それぞれ、別々の方向へと散っていく。だが、敵の動きは、それを、あざ笑うかのように、統率が取れていた。翼を持つトカゲの群れは、巧みにフォーメーションを組み、四人を、巨大な網で締め上げるかのように、じりじりと、その距離を詰めてくる。


『仁!右から、二騎!速いぞ!』

「わーってるよ!」


紅羽の警告と同時に、仁は、風受け傘を大きく傾け、体を捻った。彼のすぐ横を、鋭い爪を持ったトカゲが、猛スピードで通り過ぎていく。その風圧だけで、体がよろめいた。

「こんの、トカゲ野郎がァ!」

仁は、体勢を立て直しながら、すれ違いざまに、刀を振るった。だが、空中で、不安定な足場では、その剣筋も、いつもの威力を発揮できない。


「まずい、このままでは、各個撃破される……!」

蓮は、蒼と共に、敵の攻撃を神速でかわしながら、戦況を冷静に分析していた。

(敵の目的は、我々の撃墜ではない。動きを止め、捕獲することだ。ならば、必ず、こちらの動きを阻害する、何らかの手段を講じてくるはず……!)


その、蓮の予測は、正しかった。

ザグラムが、その太い腕を、ゆっくりと、持ち上げた。そして、短く、しかし、戦場全体に響き渡る、命令を下す。

「――『炎の網』を、放て」


その号令に応え、数騎のトカゲ乗りが、一斉に、何か、筒状のものを構えた。そして、その筒から、炎の魂力を編み込んだ、灼熱の網が、四人へと、放たれた。

それは、触れれば、翼代わりの風受け傘など、一瞬で、燃やし尽くしてしまうだろう、死の網だった。


「セリナ!」

勇三郎が、叫んだ。

「はい!フィーナ!」


セリナは、恐怖に震えながらも、仲間を信じ、その小さな体に、全魂力を集中させた。

「――《氷結の囁き》!」

彼女の指先から、純白の、絶対零度の冷気が、迸る。その冷気は、迫り来る炎の網と、空中で激突した。

ジュウウウウッ!という、耳障りな音と共に、大量の水蒸気が発生し、周囲の視界を、一瞬にして、真っ白な霧で覆い尽くした。


「よし!」

「今のうちだ!」


視界が遮られた、ほんの数秒。

仁と蓮は、その機を逃さず、敵の包囲網から、一気に離脱する。

だが、勇三郎とセリナは、出遅れた。セリナが、魂力を使い果たし、風受け傘の制御を、完全に、失ってしまったのだ。


「きゃあっ!」

セリナの体が、きりもみ状態になり、急速に、高度を下げていく。

「セリナ!」

勇三郎は、ためらうことなく、彼女の方へと、自分の傘を向けた。だが、その行動は、彼自身をも、危険に晒すことを、意味していた。


その、一瞬の、隙。

それを見逃す、ザグラムではなかった。


「――見つけたぞ、小僧」


霧の中から、巨大な影が、音もなく、現れた。

ボルガの、灼熱の顎が、勇三郎の、すぐ背後まで、迫っていた。


(……やばい……!)


もう、避けられない。

勇三郎が、死を覚悟した、その時。


『……ゆうざぶろうには、指一本、触れさせない……!』


腕の中で、眠っていたはずのテクノが、カッと、その瑠璃色の瞳を見開いた。

その小さな体から、銀色の、しかし、どこか、無機質で、冷たい光の粒子が、放たれる。

その粒子は、ボルガの、巨大な顎に、触れた。


『――ガッ!?』


ボルガが、まるで、存在しないはずの、硬い壁に、ぶつかったかのように、その動きを、ぴたり、と止めた。

テクノの力は、ボルガの魂に直接干渉したのではない。

ボルガと、勇三郎との間の、「空間」そのものに、作用したのだ。

――空間の、物理法則を、ほんの僅かな時間だけ、「ここは通行できない」という、絶対的なルールに、書き換えた。


だが、その代償は、あまりにも、大きかった。

テクノの体から、完全に、光が消え、その体は、再び、ただの、冷たい石くれのように、ぐったりとなった。


そして、その反動で、勇三郎の風受け傘もまた、完全に制御を失い、セリナと共に、奈落の底へと、落ちていく。


眼下に広がるのは、どこまでも続く、深い、深い、霧の海。

その霧の向こうに、何があるのか、誰も、知らない。

遠ざかっていく意識の中で、勇三郎は、仲間たちの、絶叫のような、自分の名を呼ぶ声を、確かに、聞いていた。

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