表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀龍のテクノ  作者: 銀獅子
49/258

第一部:銀龍の覚醒 総攻撃の号令(1)

ブオオオオオオォォォ―――ン。


夜明け前の、最も冷たい空気を震わせ、巨大な角笛の音が、嘆きの山脈全体に響き渡った。

それは、もはや、探索や威嚇のための音ではない。獲物を見つけ出し、そして、完全に殲滅するための、全軍への、総攻撃の号令。

その音を聞いた瞬間、四人の間に、かろうじて保たれていていた緊張の糸が、無惨に断ち切られた。


「……総攻撃……だと……?」


仁の顔から、血の気が引いていく。陽動によって生まれた、ほんの僅かな時間。潜入によって得た、衝撃の事実。その全てが、この圧倒的な物量の前では、意味をなさなくなってしまう。

眼下で、無数の焚き火が、一斉に、その動きを活発化させた。兵士たちの怒号が、地響きとなって山を駆け上がり、松明の光が、巨大な蛇のように、山肌を舐めるようにして、こちらへと向かってくるのが見えた。


「まずい!奴ら、本気で、この山を、根こそぎ、ひっくり返すつもりだ!」

蓮が、厳しい表情で吐き捨てる。彼の戦略的な思考が、初めて、明確な「詰み」の盤面を、認めていた。

「紅羽!」

仁の叫びに、上空を旋回していた紅羽が、悲鳴のような思念を送り返してきた。


『ダメだ、仁!空もだ!翼を持つ、トカゲのような魂獣が、何十騎も、一斉に飛び立った!包囲網は、空にまで及んでいる!完全に、塞がれた!』


空も、ダメ。

その事実は、彼らが立つこの山頂が、もはや、見晴らしの良い展望台などではなく、巨大な檻の、ど真ん中であることを、意味していた。


セリナは、唇を強く噛みしめた。恐怖に、足がすくむ。だが、もう、ただ守られるだけのか弱い王女ではいられない。彼女は、仲間の背中を見つめ、自らも戦う覚悟を決めていた。


『主よ、お逃げください!わたくしが、この身を盾に!』

フィーナが、セリナの腕の中から飛び降り、小さな体には不釣り合いなほどの、悲壮な覚悟で、敵の方へと向き直る。

『蒼!俺の背に乗れ、蓮!たとえ、相打ちになろうとも、お前だけでも!』

蒼が、主を守るため、その身を、投げ出す覚悟を決める。

『仁……!お前の刀に、俺の、最後の速さを!』

紅羽が、特攻を覚悟したかのように、その翼を、大きく広げた。


魂獣たちの、主を思う、自己犠牲の覚悟。

その、あまりにも純粋で、そして、悲しい魂の叫びが、三人の心に、突き刺さる。


「……ふざけるな」


最初に、その絶望を、振り払ったのは、仁だった。

「誰が、お前らに、死ねなんて言ったよ!俺たちは、仲間だろ!生きるも、死ぬも、一緒だって、決めたじゃねえか!」

彼は、震える足に、無理やり、力を込めて、立ち上がった。

「……そうだ。まだだ。まだ、終わってないと、こいつが言ったんだ」


蓮もまた、仁の隣に立ち、勇三郎へと、その視線を向けた。

その、仲間たちの、最後の信頼を、一身に受け、勇三郎は、ただ、一点を、見つめていた。

それは、彼らが登ってきた、崖の方向ではなかった。

山の、反対側。首都へと続く方角にある、さらに、切り立った、垂直の絶壁。


(……風だ……)


勇三郎の脳裏に、前世の、ごくありふれた記憶が、蘇っていた。パラグライダー。ハンググライダー。そして、ムササビや、モモンガといった、滑空する生き物たちの、ドキュメンタリー。

彼らは、翼を持たない。だが、風を読み、風を捕まえることで、空を、舞う。


(あの崖は、海からの、強い上昇気流が、常に、吹き付けている。だから、木々も、ほとんど生えていない。そして、あの、崖の途中に、いくつも、生えている、巨大なキノコのような、植物……。あれは、確か、じっちゃんが言っていた。『風受けかざうけがさ』。非常に、軽くて、そして、傘の部分が、驚くほど、丈夫な植物だと……)


「……なあ、みんな」

勇三郎の、乾いた唇から、静かな、しかし、確かな光を宿した、声が漏れた。


「――空を、飛んでみないか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ