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銀龍のテクノ  作者: 銀獅子
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第一部:銀龍の覚醒 闇に乗じて(1)

夜が、最もその闇を深くする、真夜中。

嘆きの山脈の頂は、まるで世界の天井から見下ろしているかのように、眼下に広がる炎の国の陣地を、冷たく、そして、静かに、観察していた。四人の少年少女は、岩陰に身を潜め、決行の時を、息を殺して待っていた。


「……いいか、もう一度、作戦を確認する」


蓮が、小石で描いた即席の地図を前に、最終確認を行う。その声は、極度の緊張の中にあってなお、驚くほどに、冷静だった。

「陽動は、仁と紅羽が担当する。陣地の、東側。手薄だが、武器庫に近い。小規模な土砂崩れを起こし、火事を誘発させろ。派手に、だ。奴らの注意を、可能な限り、そちらへ引きつける」


「おう、任せとけ!」

仁が、力強く頷く。その瞳には、恐怖よりも、仲間たちの命運を背負うことへの、強い覚悟が燃えていた。


「セリナとフィーナは、ここで待機。そして、俺に、敵の動きを伝える。フィーナの魂の感知能力で、魂獣を連れた、特殊な追手が、陽動部隊に向かっていないかを、常に監視してくれ」

「……はい!お任せください!」

セリナもまた、力強く応えた。彼女の役割は、後方支援。だが、それは、この作戦の成否を分ける、極めて重要な「目」だった。


「そして、俺と蒼は、仁の陽動の、すぐ後方で待機する。万が一、仁が追い詰められた場合の、離脱の援護。そして、勇三郎が、目的を果たした後の、合流地点への、道筋を確保する」


全員の、役割分担。それは、彼らの、これまでの旅で培われた、互いの能力への、絶対的な信頼の上に、成り立っていた。

そして、最後に、蓮は、勇三郎の瞳を、まっすぐに見つめた。


「……勇三郎。お前の役目が、一番、重要で、そして、一番、危険だ。本当に、行くんだな?」

その問いに、勇三郎は、静かに、しかし、強く頷いた。

「ああ。行くよ」


彼の役目は、潜入。

陽動によって生まれた、ほんの僅かな混乱の隙をついて、敵陣の中枢、あの、巨大な司令部と思われる天幕へと、単独で、忍び込む。

それは、正面から戦うよりも、ある意味では、遥かに、危険な任務だった。


「……テクノ、頼むぞ」

勇三郎は、腕の中で、ようやく意識を取り戻した、相棒に語りかけた。テクノは、まだ本調子ではない。だが、彼の、魂を感知する、その特異な能力だけが、この闇の中での、唯一の、道標だった。

『……うん。勇三郎と、一緒なら、怖くない』

テクノの、健気な思念が、勇三郎の心に、温かい勇気を灯した。


「……時間だ」

蓮が、空を見上げて、呟いた。

四人は、顔を見合わせた。言葉は、もう、いらない。ただ、互いの瞳に宿る、同じ決意の光を、確かめ合う。


「じゃあな!派手に、狼煙を上げてくらあ!」

仁が、ニッと笑うと、紅羽と共に、闇の中へと、その姿を消した。


数分後。

陣地の、遥か東の方向で、轟音と共に、巨大な火柱が上がった。仁の陽動が、成功したのだ。

陣地全体が、蜂の巣をつついたような、混乱に陥る。兵士たちの怒号、警告の鐘の音、そして、魂獣たちの咆哮。


「――今だ!」


蓮の合図と共に、勇三郎は、崖の闇に、その身を、滑り込ませた。

それは、もはや、逃げるための行動ではなかった。

自らの、運命を知るための、反撃の、第一歩だった。


闇に紛れ、岩陰を伝い、勇三郎は、驚くほどの、静けさで、敵の陣地へと、近づいていく。

前世の、孤独な記憶。誰にも気づかれず、ただ、息を殺して、その他大勢に紛れていた、あの頃の感覚が、皮肉にも、今、彼の、最大の武器となっていた。


警備兵の、視線の死角。巡回ルートの、僅かな隙間。そして、テクノが教えてくれる、魂獣たちの、気配の薄い場所。

それらを、繋ぎ合わせ、彼は、まるで、存在しないかのように、闇の中を、進んでいく。


やがて、彼の目の前に、目的のものが、その巨大な姿を現した。

陣地の中心に、ひときわ大きく、そして、厳重に、警備された、巨大な天幕。

間違いなく、ここが、敵の中枢。


勇三郎は、息を殺し、天幕の、影になった部分に、その身を、滑り込ませた。

中からは、複数の、話し声が聞こえてくる。


「――あの、忌々しい土石流さえなければ、今頃は……」

「しかし、隊長。まさか、あの小僧どもが、あのような手を……」

「黙れ」


その、低く、そして、全ての空気を凍らせるかのような、声。

間違いない。ザグラムだ。

勇三郎の心臓が、大きく、跳ね上がった。


彼は、震える指で、天幕の、分厚い布の、僅かな隙間に、その耳を、押し当てた。

そして、彼は、聞いてしまった。

彼の、そして、この世界の、運命を、根底から覆す、衝撃の、一言を。


「……まあ、良い。姫も、災龍の小僧も、所詮は、余興だ。我らが、この『嘆きの山脈』に来た、真の目的は、ただ一つ。――この地に眠る、『龍の墓場』を、見つけ出すことなのだからな」

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