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銀龍のテクノ  作者: 銀獅子
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第一部:銀龍の覚醒 嘆きの山脈の頂(1)

遠く崖の下から響く、地獄の業火のような咆哮。それは、ザグラムという絶対的な絶望が、まだ死んではいないという、何よりも明確な証拠だった。

だが、今の四人に、その声に耳を傾ける余裕は、残されていなかった。


「……行け!今は、上へ!」


蓮の、喉から血を吐くかのような絶叫が、全員の体を無理やり動かした。

彼らは、ただ、一心不乱に、目の前の岩肌に食らいついた。指の爪が剥がれ、膝が擦りむけて血が滲む。だが、その痛みさえも、背後から迫る死の恐怖の前では、些細なことに思えた。


仁は、持ち前の腕力で、不安定な岩をこじ開け、仲間たちのための僅かな足場を作り出す。

蓮は、その冷静な頭脳で、最も安全で、そして、最も早い登頂ルートを、瞬時に見つけ出し、的確な指示を飛ばし続ける。

セリナは、もはや悲鳴を上げることもなく、ただ、必死に、仁が作った足場に足をかけ、蓮が示したルートを、一歩、また一歩と、登っていく。その瞳には、もはや、か弱き王女の面影はない。生きるという、ただその一点に、全ての意志を集中させた、一人の戦士の顔だった。


そして、勇三郎は、魂が削られるような虚脱感の中、最後の力を振り絞って、セリナの手を、下から押し上げるように支えていた。腕の中のテクノは、ぐったりと、その意識を手放している。その、あまりにも大きな代償を、勇三郎は、自らの痛みとして感じていた。


(ごめん、テクノ……。また、お前に、無理をさせた……)


だが、今は、後悔している暇はない。生き延びて、必ず、この子を、安全な場所へ。その思いだけが、彼の体を動かす、唯一の燃料だった。


どれほどの時間が、経っただろうか。

風の音が、変わった。

谷間を吹き抜ける、湿った風ではない。空を遮るもののない、吹きさらしの、冷たく、そして、乾いた風。

そして、不意に、視界が開けた。


「……着、いた……のか……?」


仁が、ぜえぜえと息をしながら、その場に崩れ落ちた。

そこは、嘆きの山脈の、一つの頂だった。ごつごつとした岩と、まばらな高山植物だけが生える、荒涼とした風景。だが、そこからは、これまで彼らが越えてきた、険しい山々と、そして、これから進むべき、遥か彼方の景色が、一望できた。


「……やった……。やったぞ……!」


仁の、歓喜とも、嗚咽ともつかない声が、風に乗って響き渡る。

セリナもまた、その場にへたり込み、ただ、遥か遠くに見える、平野の景色を、信じられないものを見るかのように、見つめていた。

蓮も、蒼に体を預けるようにして、荒い息を整えている。


彼らは、成し遂げたのだ。

絶対的な絶望から、逃げ切り、そして、この嘆きの山脈を、越えた。

勇三郎もまた、膝に手をつき、ようやく、安堵のため息をついた。その時だった。


『仁!あれを!』


上空を旋回していた紅羽が、鋭い警告の思念を送ってきた。

全員が、はっと、紅羽が示す方向へと視線を向ける。

それは、彼らがこれから下っていく、山の反対側の斜面だった。


その、中腹あたり。

一つの、小さな、しかし、確かに、何かの光が、チカ、チカ、と、点滅しているのが見えた。

焚き火の光ではない。もっと、規則的で、そして、人工的な光。


「……なんだ……?あんな、山の中に、村でも、あるのか……?」

仁が、不思議そうに呟く。

だが、蓮は、その光を見た瞬間、その顔色を、さっと、青ざめさせた。


「……違う。あれは、村の明かりなどではない。……あれは、鉄が、鉄を打つ、鍛冶場の火だ。それも、ただの鍛冶場ではない。……野戦用の、陣地で使われる、移動式の、野鍛冶の光だ」


その言葉の意味を、理解した瞬間、全員が、息を呑んだ。

野戦用の、陣地。

それは、つまり――


彼らの目の前には、確かに、希望へと続く道が開けていた。

だが、その道の先には、彼らを待ち受ける、新たな、そして、おそらくは、ザグラムの部隊とは比べ物にならないほどの、巨大な、軍勢の影が、横たわっていた。

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