第一部:銀龍の覚醒 忘れられた遺跡(4)
『――Initiating...... "Project: ARK" ...... final...... sequence――』
その、無機質でありながら、世界の理を揺るがすかのような「声」が響き渡った瞬間、時間は、再びその歩みを止めた。
一斉に振り下ろされようとしていた、無慈悲な刃の煌めきが、ぴたり、と静止する。広間を埋め尽くしていた機械兵士たちの赤い単眼が、一斉に、激しいノイズを発するかのように、不規則な明滅を繰り返した。与えられた「殺戮」という命令と、遺跡の中枢から発せられた、新たな命令とが、その機械の脳内で、致命的なエラーを引き起こしているかのようだった。
「……な……にが……」
死を覚悟していた仁が、呆然と、その光景を見つめる。
蓮は、目の前の機械兵士が動きを止めた、そのコンマ数秒の隙に、セリナを突き飛ばすようにして、その場から離脱していた。だが、彼の予測は、完全に裏切られた。機械兵士たちは、追ってこない。ただ、痙攣するように体を震わせ、その場で、動きを止めているだけ。
「……どうなっている……?何かの、罠か……?」
蓮の、常に冷静なはずの思考が、目の前で起きている、あまりにも非現実的な現象に、全く追いついていなかった。
だが、一人だけ、その「声」の意味を、痛いほどに理解している者がいた。
(……システム、エラー……?異常を、検知……?再認証が、必要……?)
勇三郎の脳裏に、その言葉が、日本語として、鮮明に響き渡っていた。それは、この世界の言葉ではない。彼が、三十四年間を生きた、あの、科学と技術の世界の言葉。前世で、何度も、コンピューターの画面で見た、あの無機質な文字列。
(プロジェクト……アーク?方舟……?最後の、シークエンスを、開始……?)
混乱と、そして、世界の真実に触れてしまったという、根源的な恐怖。その二つが、勇三郎の心を、ぐちゃぐちゃにかき混ぜていく。
ここは、ただの遺跡などではない。
これは、前世の、あるいは、それに連なる、超高度なテクノロジーによって作られた、巨大な「装置」なのだ。
その勇三郎の混乱に、呼応するかのように、腕の中のテクノが、再び、カッと、その瑠璃色の瞳を見開いた。その瞳には、もう、戸惑いの色はない。彼は、広間の中央で、ひときわ強い光を放ち始めた、黒曜石の台座を、じっと見つめていた。
『……思い、出した……。これは、『揺りかご』。僕たちを、護るための……箱舟……』
テクノから流れ込んできたのは、断片的だが、核心に触れる、重要な記憶の断片だった。
その瞬間、黒曜石の台座から放たれた光が、広間全体を、完全に飲み込んだ。
「うわあああっ!」
凄まじい光と、そして、魂を直接揺さぶるかのような、強烈なエネルギーの奔流。
四人は、なすすべもなく、その奔流に呑み込まれていく。
そして、彼らの意識が、完全に途切れる、まさにその寸前。
勇三郎は、見た。
光の中に、一瞬だけ、浮かび上がった、一つの、ビジョンを。
――星々の間を、静かに進む、巨大な、銀色の龍。
その龍の背中には、彼が知る、どの文明のものとも違う、巨大な、カプセルのようなものが、いくつも、いくつも、繋がれていた。
そして、その龍が、悲しげに、しかし、慈しむように、一つの惑星を、見つめている。
青く、美しい、彼の故郷――地球を。




