第一部:銀龍の覚醒 忘れられた遺跡(3)
ギ、ギ、ギ。無慈悲な機械の足音は増え続け、広間全体を不協和な鉄の交響曲に変えていた。闇から現れる赤い単眼の光は数十ではきかない。四方八方、逃げ場は魂を持たない殺戮機械の群れに完全に封鎖されていた。
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「……嘘だろ……こんなの、どうしろってんだよ……」
仁は壁に叩きつけられた体の痛みに呻きながらも、なんとか立ち上がり刀を構え直した。だがその顔にはいつもの不敵な笑みはなく、ただ圧倒的な物量を前にした純粋な絶望の色だけが浮かんでいた。
「……セリナ、俺の後ろに隠れてろ」
蓮はセリナを庇うように立ち、短刀を逆手に握りしめる。彼の頭脳は今この瞬間も活路を見出そうと高速で回転していた。だが導き出される答えはどれも同じ。「生存確率、ゼロ」。
『主よ……申し訳ありません。わたくしでは、足止めすら……』
フィーナがセリナの心に、悔しさと無力さに満ちた思念を送る。彼女の《氷結の囁き》は一体を相手にするのが精一杯。この数ではどうしようもない。
勇三郎はただ腕の中の相棒に必死に呼びかけ続けていた。「テクノ!おい、テクノ!しっかりしろ!さっきの、さっきの、もう一回できないのか!?」だがテクノは深い眠りに落ちたまま何の反応も示さない。その体は温かいままだったが、先程見せたあの神がごとき力は完全に沈黙していた。いや、違う。テクノは薄っすらと、その瑠璃色の瞳を開けていた。しかしその瞳には、先程までの王者のような強い光はなかった。ただ、何が起きたのかわからない、というような子供のような純粋な戸惑いの色だけが浮かんでいた。
『……ゆうざぶろう……?なんか、すごく大きな音がした……?僕、なんだかすごく眠い……』
そのあまりにも頼りない思念に、勇三郎は愕然とした。(覚えていないのか?自分が何をしたのか……)
そうだ。この子はまだ生まれたばかりの幼い龍なのだ。自らの内に秘められたあまりにも巨大な力の使い方など知る由もない。さっきのあれは、おそらく無意識のうちに本能だけで発動した一度きりの奇跡。そしてその幼い魂が、世界の理を書き換えたという『変革』の巨大な情報を処理しきれていないのだ。
(……つまり、俺たちの本当の切り札は、もう……)
背後には閉ざされた壁。そして目の前には死の軍勢。万策、尽きた。
ウィィィン……。一体の機械兵士が甲高い起動音を立てた。それが合図だった。全ての機械兵士の赤い単眼が一斉に四人へと向けられる。そしてその両腕の刃が無慈悲に煌めいた。一歩また一歩と、鉄の壁がゆっくりとしかし確実に、その距離を詰めてくる。
「……くそったれがァァァッ!」
仁が覚悟を決めた最後の雄叫びを上げた。蓮がセリナの前に固く立ちはだかる。勇三郎はただ無力にテクノを強く抱きしめることしかできなかった。
もう、ダメだ。
誰もがそう目を閉じた、その瞬間。
――ドクン。
広間の中央、黒曜石の台座がまるで巨大な心臓が鼓動したかのように一度だけ強く脈打った。それに呼応するかのように、ドーム状の天井に映し出されていた、あの破壊された宇宙ステーションと巨大な銀龍の映像が激しいノイズと共に乱れ始める。
そして広間全体に、直接頭の中に響くかのようなノイズ混じりの、しかし荘厳でどこか懐かしい、誰かの「声」が響き渡った。
『――**system error...... Anomaly detected...... Re-authentication required......**』
『――**Initiating...... "Project: ARK" ...... final...... sequence――**』




