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銀龍のテクノ  作者: 銀獅子
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第一部:銀龍の覚醒 忘れられた遺跡(2)

ギ、ギ、ギ。

その無機質でリズミカルな音は、ゆっくりとしかし確実に、広間の中央に立ち尽くす四人へと近づいてきていた。それは、魂を持たない鉄と歯車だけが奏でる、冷たい死の足音だった。


---


「……来やがった……!」


仁が汗の滲む手で刀の柄を強く握りしめる。蓮はすでに蒼と共に、いつでも動けるように低い姿勢で身構えていた。セリナはフィーナを強く抱きしめながら、恐怖に震える体を必死に叱咤していた。

そして勇三郎は、背後の継ぎ目なく閉ざされた壁と、目の前の闇とを、絶望的な思いで見比べていた。


やがて闇の中から、その異形の姿がゆっくりと現れた。

それは人間ほどの大きさだったが、その体は磨き上げられた黒い金属の装甲で覆われていた。関節部分はむき出しになったパイプや歯車が不気味に蠢いている。頭部にあたる部分には顔はなく、ただ一つの赤い単眼モノアイが感情のない光をたたえて不気味に明滅しているだけだった。その両腕は鋭利な刃物へと変形していた。


「……なんだよ、こいつ……。魂獣じゃねえ……!」


仁が驚愕の声を上げる。


「……ゴーレム、か?いや、違う。こんな精巧な……。まるで神々の時代の、遺物……」


蓮もまた、目の前の存在が自分たちの知るどのカテゴリーにも属さないことを瞬時に理解していた。


『……こわい。こわい、こわい……!魂がない!空っぽの、ただの、鉄の殻だ!』


フィーナがセリナの腕の中で悲鳴のような思念を送ってくる。魂を感知する能力を持つ彼女にとって、この「魂のない」敵は、存在そのものが理解不能な恐怖なのだろう。


ギ、と機械仕掛けの怪物は、その赤い単眼を四人へと向けた。そしてその視線が、セリナが持つ黒曜石のペンダント――『氷龍の涙』の上でぴたりと止まった。


ウィィィン、という甲高い起動音。

次の瞬間、怪物はその巨体に似合わぬ爆発的な加速で、一直線にセリナへと襲いかかってきた。


「させっかよ!」


誰よりも早く反応したのは仁だった。彼は雄叫びを上げて怪物の前に立ちはだかり、その刃を渾身の力で叩きつけた。

キンッ!という耳をつんざくような金属音。

仁の刀は怪物の装甲に浅い傷一つつけることなく弾き返された。


「なっ!?」


仁の驚愕は一瞬だった。怪物はその反動を利用し、空いた胴体で仁の体をまるで邪魔な小石を払いのけるかのように薙ぎ払った。


「ぐはっ!」


仁は数メートルも吹き飛ばされ、壁に叩きつけられその場に崩れ落ちた。


「仁!」


「――《**神速**》!」


蓮が叫びと同時に魂術を発動させた。青い疾風と化した彼と蒼は、怪物の側面からその注意を引こうとする。だが怪物は蓮の動きに一切惑わされることはなかった。その赤い単眼は、ただひたすらに最短距離で目標であるセリナへと向かっていく。


(まずい!こいつ陽動が効かない!目的がプログラムされているんだ!)


勇三郎は前世で見たAIのドキュメンタリーを思い出していた。この怪物は感情で動く獣ではない。ただ与えられた命令を最も効率的に最短で実行するためだけの殺戮機械だ。


「セリナ!逃げろ!」


勇三郎が叫ぶ。

セリナも必死に後ずさるが、恐怖に足がもつれその場にへたり込んでしまった。

怪物の刃と化した腕が非情に振り上げられる。


(……ダメだ、終わった……!)


誰もがそう思った、その時。


勇三郎の腕の中で氷のように冷たかったテクノがカッとその瑠璃色の瞳を見開いた。

その瞳にはもはや幼い龍の無邪気さはなかった。そこにあったのは自らの「創造主」を傷つけられたことに対する、王者の絶対的な怒りだった。


『――チガウ』


テクノからこれまでとは比べ物にならないほど強く冷たい思念が、直接怪物の頭脳(であろう部分)へと叩きつけられた。


『オマエハ、コノ場所ヲ、護ルモノ。我ガ同胞あるじヲ、傷ツケル、存在デハナイ。――ソノ、命令ヲ、書キ換エル』


それはもはや魂の対話などではない。

世界のシステムに直接アクセスするテクノの本質的な力。

――**システムの、強制的な、上書き(オーバーライト)**。これは単なる魂術ではない。世界の根源的な理屈を捻じ曲げる、『**変革**』の萌芽であった。


テクノの言葉に、怪物の動きがぴたりと止まった。その赤い単眼が激しく何度も何度も明滅を繰り返す。与えられた命令とテクノによる新たな命令とが、その機械の脳内で致命的なエラーを引き起こしているかのようだった。


ギ、ギギ、ガガガ……ッ!

怪物は痙攣するように体を震わせ、やがてその刃を自らの頭部へと突き立てた。

そして派手な火花を散らしながら、その場に完全に機能を停止した。


---


「…………」


後に残されたのは絶対的な静寂と、床に転がる黒い鉄の残骸だけだった。

四人は今目の前で起きたことが信じられなかった。


「……テクノ……?」


勇三郎がおそるおそる腕の中の相棒を見下ろす。

テクノは全ての力を使い果たしたのか、再び深い眠りへと落ちていた。だがその体はもう冷たくはなかった。確かな温もりと、これまでとは比べ物にならないほどの力強い魂の鼓動がそこにあった。

この遺跡は彼を目覚めさせ、そして新たな力を与えたのだ。


だが彼らが安堵のため息をつく暇はなかった。

沈黙を破ったのはさらなる絶望の音。


ギ、ギ、ギ。

ギ、ギ、ギ。

ギ、ギ、ギ。


広間の四方八方の闇の中から、同じ機械の足音が一つまた一つと響き始めた。

赤い単眼が闇の中で無数にその光を灯していく。

彼らはようやく、自分たちが足を踏み入れた場所の本当の意味を理解した。


ここは遺跡などではない。

ここは太古の「兵器」を保管するための、巨大な自動防衛システムを備えた墓場なのだ。

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