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銀龍のテクノ  作者: 銀獅子
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第一部:銀龍の覚醒 束の間の休息(2)

その夜、四人は、ここ数日の間では考えられないほど、穏やかな眠りについた。温かい食事で満たされた腹と、仲間がいるという絶対的な安心感。それが、心身ともに疲弊しきっていた彼らにとって、何よりの薬となった。


翌朝、勇三郎が目を覚ますと、世界は朝靄に包まれた、幻想的な光景をしていた。隣では、仁が、幸せそうな顔で、まだ夢の中にいる。その口元からは、一筋のよだれが垂れていた。蓮とセリナはすでに起きており、それぞれが静かに朝の支度を整えていた。


「おはよう、勇三郎様」

セリナが、柔らかな微笑みを向けてきた。その顔色は昨日よりもずっと良く、瞳には活力が戻っている。

「昨夜は、本当に、ごちそうさまでした。あんなに美味しいものを食べたのは、久しぶりでした」

「ああ、おはよう。俺もだよ」


勇三郎がはにかむと、彼の腕の中で、テクノがもぞもぞと動き出した。まだ眠そうではあるが、その体は、昨日までのような氷の冷たさではなく、かすかな、しかし確かな温もりを取り戻していた。


『……おさかな、おいしかった……』

夢うつつといった様子で、テクノが満足げな思念を送ってくる。その純粋な感想に、勇三郎の心が和んだ。


その時、仁が「ふがっ!」と奇妙な声を上げて飛び起きた。

「やべえ!寝過ごした!よーし、今日も魚を食うぞ!勇三郎、あの『りくつ』ってやつ、もう一回俺にやらせてくれ!」

彼は、寝ぼけ眼のまま、意気揚々と小川へと駆けていった。そして、昨日、勇三郎がやっていたのを真似て、石で堰を作り、蔦で編んだ、いびつな形の籠を仕掛け始めた。


「……どうせ、一匹も捕れんだろうな」

蓮が、やれやれと首を振りながら呟く。その言葉通り、仁の仕掛けは、魚たちに完全に見向きもされなかった。それどころか、焦って動き回る仁のせいで、魚たちは一匹残らず、どこかへ逃げていってしまった。


「な、なんでだよぉ!お前と同じようにやったじゃねえか!」

仁が、本気で悔しそうに叫んでいる。その肩で、紅羽が「だから言わんこっちゃない」とでも言いたげに、大きな溜め息をついていた。


そんな仁の姿を見て、セリナが、くすくすと、鈴を転がすような笑い声を上げた。それは、彼女がこの旅で初めて見せた、心からの笑顔だった。その笑顔に、仁も、蓮も、そして勇三郎も、思わず見とれてしまう。


「……仕方ない。昨日の残りを、大事に食べるとしよう」

蓮がそう言って、焚き火の準備を始めた。残った魚は、数匹。四人で分ければ、腹の足しにもならない。

すると、セリナがおずおずと申し出た。

「あの、わたくしに、お任せいただけませんか?」


彼女は、残った魚を丁寧に串に刺すと、フィーナにそっと語りかけた。

「フィーナ、お願い」

『はい、主』


セリナが、串に刺した魚に、そっと手をかざす。すると、フィーナの体から、ごくごく淡い、冷気のオーラが立ち上り、それがセリナの手へと伝わった。魚たちは、一瞬にして、表面に薄い氷の膜を纏い、まるで獲れたてのような新鮮な状態になった。


「……これは、《氷結の囁き》の応用です。こうしておけば、しばらくは、腐らずに保存できるはずです」

セリナは、少し誇らしげに、しかしはにかみながら言った。

「すごいじゃないか、セリナ!」

仁が、素直に感嘆の声を上げる。

「……なるほどな。戦闘以外にも、使い道はいくらでもある、か。見事だ」

蓮も、彼女の能力の有用性を、素直に認めた。


仲間からの賞賛に、セリナの顔が、ぱっと明るくなる。自分の力が、みんなの役に立った。その事実が、彼女に、失いかけていた自信を取り戻させてくれた。

フィーナも、主が褒められたことが嬉しいのか、得意げに胸を張り、テクノの方を見て「どうだ」と言わんばかりの視線を送る。テクノは、まだ眠そうにしながらも、『すごい、すごい』と、パチパチと拍手をするかのような思念を送り返していた。


その、魂獣同士の可愛らしいやり取りに、場の空気は、さらに和やかなものになった。


この日の旅は、これまでのどんな日よりも、穏やかで、そして、楽しかった。

仁が、道端で見つけた変な形の石を「伝説の刀だ!」と言い張って、蓮に冷たくあしらわれたり。

セリナが、王宮での堅苦しい生活について語り、その意外な一面に、三人が驚いたり。

勇三郎が、テクノと心を通わせる練習をしていると、テクノが無邪気に、彼の前世の歌――彼自身も忘れかけていたような、古いポップソング――を、めちゃくちゃな音程の思念で歌い出し、全員で大笑いしたり。


他愛ない会話。屈託のない笑顔。

それは、過酷な逃避行の中にある奇跡のような、時間であった。

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