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造花令嬢の婚約  作者: 石動なつめ
第二章 造花令嬢と妖精の王様
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領主に向いているとか、いないとか


 アリシア・ダンヴィルは妖精が大好きだ。

 生まれた時から妖精がそばにいて一緒に育ったものだから、妖精を見ると家族のような気持ちになってくる。

 だから三年前に、ダンヴィル領で暮らしていたすべての妖精が国へ帰ってしまった時、アリシアは悲しくて寂しかった。

 そして同時に後悔もした。

 妖精達に悪さをしたのは両隣の領地だ。けれど、だとしても、自分達は妖精達に「ここは大丈夫」という安心感を与えられなかった。

 だから妖精達は怖がって妖精の国へ帰ってしまったのだ。

 その事をアリシアはずっと後悔している。そしてもう一度戻って来てくれたその時は、今度こそ「大丈夫」だと思って貰える場所にしようと心に決めている。


 まだまだ、遠い道のりだのだけど。




 ◇ ◇ ◇




「……姉様、本当にクロード様とのデートの場所、うちの領地で良かったの?」


 クロードとのデートの当日。

 出かける準備をしてクロードを待っていたアリシアは、リュカからそう尋ねられた。しっかり者の弟は、心配そうな眼差しをアリシアに向けている。

 その理由はリュカが言った通り、先日クロードと決めたデートの場所だ。実はアリシアとクロードは、このダンヴィル領の街でデートをする事になったのである。


 アリシアもリュカも自分の領地の事を大事に思っているし、領地も領民達の事も何よりの自慢だとも思っている。

 けれども昨今のダンヴィル領を取り巻く状況は厳しい。妖精の里帰りにより土地が痩せ、特産品でもあった農作物の収穫は激減。何とか必死に潰れないよう頑張っているものの、当時ほど街の活気も無い。

 視察に行くならともかくとしてデートの場所としてはどうなのだろう、とリュカは不安に思っているようだ。

 そんな弟を安心させるようにアリシアは微笑む。


「大丈夫よ、リュカ。これはクロード様の希望だから」

「そうなの?」

「ええ。ほら、クロード様も何度かうちに来ていたでしょう? 馬車の窓から見えていた街を、実際に歩いてみたいと仰ったの。……ほら、えっと、婿入りするんだからって」


 話していると何だか少し照れてしまって、アリシアは右手を頬に添える。いつもより少し熱が上がっている気がする。

 リュカはそんな姉の様子に目を瞬いてから「そっか」と笑った。


「……ちょっと安心したよ」

「何が?」

「クロード様が姉様を支えてくれそうで。父様にとっての母様みたいな人だといいね」


 そして、そんな事を言ってくれた。

 アリシアは父ドナと同じく、基本的には大らかで、少々お人好しな気質がある。思考が自分の限界を超えてしまうと、目を回して倒れてしまうところも一緒だ。

 だからダンヴィル領の次期領主はアリシアではなくリュカの方が良いのでは、という話も実は出ていたのだ。

 リュカの方がしっかりしているし、何より男性だ。女性のアリシアは結婚し、出産となれば命懸けだし、その後も体調面や育児などで領主の仕事を休む期間が必要になる。家族の協力があったとしても、無理にアリシアを領主とせず、リュカに任せた方が安心なのではないか。そういう話があったのだ。

 アリシアもそれを聞いた事がある。言っていたのは父の下で働く、ダンヴィル領の役人の一部だ。

 幼い頃から父の仕事を見て、領主の仕事が出来るように両親から勉強を教わっていたから、それを最初に耳にした時はアリシアも気落ちした。けれど同時に自分でも、確かにリュカが領主になった方が領地のためには良い、とも思ったのだ。

 そしてリュカを推す声は妖精の里帰りの後からはより顕著になった。

 けれどリュカはそんな周囲の言葉に「何で?」と首を傾げた。


「僕は領主になるより、支える方が得意だし。それに姉様の方が向いていると思うよ」


 と言った。リュカ曰く、ダンヴィル領の気質にはアリシアの方が合っているのだそうだ。

 ダンヴィル領は父ドナの人柄のせいか、皆、穏やかで大らか、そして少々のん気だ。妖精の里帰りで大変な事になっても、それでも諦めずに何とか頑張ろうという気概がある。

 そんな領民達に寄り添えるのは、自分より父や姉のような人だとリュカは言った。


「あと僕は母様のような人を目指しているから。だから僕は領主にはならないし、なる気もないよ」


 ついでにそんな事を言って、母ドロテが大変感動していたのをアリシアは覚えている。

 そんな弟の言葉が嬉しくて、アリシアは部屋に帰ってちょっと泣いた。もしかしたらアリシアを気遣っての言葉だったのかもしれないけれど、その優しさが嬉しくて、そして諦めようとしていた自分が不甲斐なく感じたからだ。

 あれからリュカを領主にという声は聞かなくなった。けれど言わないだけで、そう思っている人はまだいるだろうともアリシアは思う。

 ――たくさん、たくさん頑張ろう。

 月並みな言葉だが、アリシアはそう決意して日々を過ごしている。


 まぁしかし、一人で何でも出来るわけではないのはアリシアも分かっている。だからリュカの言ったように支えられる――だけだとさすがに問題があるので、クロードと協力し合える関係になれるといいな、と思うのだ。

 仲が良く、仕事関係のバランスも良い両親の関係は、アリシアにとって理想だった。

 クロードともあんな風に良い関係を築きたい。もっともクロードが理想とする夫婦関係は分からないので、押し付けではなく、良い感じにお互いの理想を擦り合わせて行けたら良い。

 そう思いながらアリシアはふふ、と微笑んで、


「リュカ、私、頑張るね」


 と言うと、弟は少し首を傾げる。

 それから彼は小さく笑って「ほどほどにね」と言ったのだった。


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