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造花令嬢の婚約  作者: 石動なつめ
第五章 造花令嬢と妖精の祝福
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一難去ってまた一難


 その直ぐ後、捕まえたダレルに当時の事を聞けば、最初は惚けて誤魔化そうとしていた。

 けれども次々と集めた情報や証拠を並べたところ逃げ切るのは無理だと観念したのだろう。ダレルは自分が嘘の証言をしたのだと白状した。


 当時ダレルはエヴァン家の諜報員としてマクリル領に潜入していたのだそうだ。思い通りにならないマクリル家の弱みを握るために。

 けれどもどれだけ探しても弱みなんて出て来ない。このままだとエヴァン領から解雇されてしまう。

 そうなったら困ると焦っていると、ダレルの元に新たな指示が二つ届いた。それが『妖精を捕獲するために人を送る、そのサポートをするように』というものと『もしこの計画が露見した場合、マクリル家に罪を被せてエヴァン領を庇うように』というものだったそうだ。

 指示に従ってダレルはエヴァン領の人間を引き入れて妖精達を捕まえる手伝いをし、計画が失敗した際には「マクリル家の人間が金に目が眩んで怯える妖精達を捕まえていた」と証言したというわけだ。

 ただマクリル家の者達を知る者からすれば、そんな行動を取らないのは直ぐ分かる。

 処分の決め手になったのは妖精達を捕らえた鳥籠を持っていたのを騎士団に目撃された事と、救出された妖精達が怖がって直ぐに妖精の国へ帰ってしまった事だ。

 ダレルの証言はその後だったのと、妖精の王へ妖精達の感情がそのまま伝わったためこうなってしまった。

 マクリル領としては不運が重なったとしか言いようがない。

 事件後、ダレルは身を潜めながら各地を転々とし、ほとぼりが冷めた辺りでエヴァン領に戻ってきたらしい。そしてエヴァン家に仕えていた証を見せて、ブリギットの従者になった。月日が経つにつれて人の記憶は薄れて行くのを理解していたダレルは、その上で更に髪を染め眼鏡などで容姿を誤魔化した。そうすればエヴァン家で働いていたとしてもバレないと踏んだらしい。


 そんな話を聞き終えた後、ダレルは集めた情報と共に、ダンヴィル家とブラーシュ家の領主によって王の元へ連れて行かれた。

 妖精の里帰りに絡んだ一連の事件について、マクリル領への処分を再検討して貰うためだ。

 今回協力してくれていたローゼルに先に連絡をしたところ、王との謁見はスムーズに行う事が出来たそうだ。

 そうしてアリシア達が全員で集めた情報とダレルの自白、そして妖精の王アルベリヒがマクリル領にいた妖精達を連れてその場で話をしたところ。

 そのすべてを見て聞いた王や王族、法に携わる者達が集まり改めて検討した結果、マクリル領の領主一族は無罪となった。

 王やアルベリヒはあの時の裁定が間違っていたと、ジョゼを始めとしたマクリル領の領主一族に謝罪し、三年間分の補償をすると約束してくれた。そしてマクリル領に関係するマイナスのイメージの払拭にも尽力すると。

 こうして妖精の里帰りに関係した事件は、本当の意味で幕を下ろした。


 ――――のだが、もう一つ問題が残っていた。


 エヴァン領の件――というか、ブリギットの件である。

 どうやらブリギットはロイスの件では色々していたが、妖精の里帰りに絡んだ事件は本当に何も知らなかったようだ。

 事実を聞かされても「マクリル領だけ罪がなくなるなんてずるいですわ!」と騒いでいるのである。


「……まぁ、あの年まで自分の要求がほぼすべて通っていたのなら、そうなりますね」


 ダンヴィル家でお茶を飲みながら、クロードが疲れたようにそう呟いた。

 今日は彼以外に、ジェイムズとジョゼの姿もある。クロードが来た時に、二人もたまたま用事でやって来たので、こうして一緒にお茶をする事になったのだ。

 ジョゼはともかく、ジェイムズも何だかんだで少しずつ交流が増えて来て、以前より関係が改善されている。

 そんなアリシア達がついたテーブルの上には、手紙が山積みになっていた。

 実はこれ全部、ブリギットからのクロードに宛てられたラブレターである。


「私はアリシアさんと婚約しているのに、どうしてこうなるんです……」

「ロイス様の時に成功しちゃったからじゃないですかねぇ……」


 アリシアが苦笑すると、クロードは「嫌な成功体験が……」と肩を落とした。

 まぁ、こういうわけである。

 あれからブリギットはクロードをターゲットにしたようで、こうして度々ちょっかいをかけてきている。

 あまりに数が多いので、ダンヴィル家とブラーシュ家の両方から抗議をしているが、まったく効き目がない。


「……それ危なくないか?」

「そうですね、私もそう思いますよ」


 ジェイムズとジョゼが渋い顔になってそう言った。

 アリシアとクロードが軽く首を傾げる。


「危ない、とは?」

「その成功体験ですよ。味を占めたというか……なあジョゼ嬢、ロイス様は部屋に忍び込まれたんだろう?」

「はい、そうです。あれを踏まえると、たぶん何れかのタイミングで部屋に入ってきますよ」

「…………」


 二人の言葉にクロードは頭を抱える。

 それはありえるな、とアリシアも真顔になった。


「アリシア、何か最近、そういう機会はあるのかい?」

「……ありますね。妖精の宴に招待されています」


 ジェイムズの問いにアリシアは頷いて答えた。

 妖精の宴というのは王城で開かれる、この国が妖精の国との交流開始を記念に始まった妖精達に感謝を示す宴だ。

 各領地の領主や、功績を立てた等で王族に招待された者が参加を許されている。

 妖精の里帰り以降、王族のみで規模を縮小して行われていたが、今年は三年ぶりに以前と同じように開催される事になった。

 その参加者にアリシアやクロードも該当していた。ダンヴィル家とブラーシュ家は、妖精の里帰りに関する事件の真相解明に尽力したため、王から直々に招待状が届いているのである。

 そして問題になっているブリギットは、恐らくエヴァン領の領主代行として参加するはずだ。


 妖精の宴が開催されるのは夜。そのため招待客は王城に宿泊用の部屋が用意される。

 夫婦での参加の場合を除き、基本的には個室だ。クロードが狙われるとしたらその時だろうか。

 王城なので警備はしっかりしているが万が一という事がある。

 まぁそんな事情で大変迷惑な話であるが、婚約解消を狙うならば悪い意味でとても良いタイミングなのである。


「さすがに王族主催の宴かつ王城で、そんな真似は……」


 しないと言い切りたいけれど、ブリギットの様子を見る限り断言できない。


(ローゼル様が自分達を諫めてくれる人を欲しがる理由が分かった気がする……)


 権力があり人を振り回す事に何のためらいも持たないのは、自他問わず危険な考えだ。

 ブリギットは極端な例だが、ああいう風にならないためにローゼルはそういう側近を探していたのだろう。

 まぁ『人を振り回す』という点では一緒だったが。

 そんな事を考えているとジョゼが軽く手を挙げた。


「妖精の宴には、国王陛下からご招待をいただいておりますので、私もお力になります」

「僕は参加出来ないが、知り合いが招待されている。彼らにも協力してもらえるよう頼んでみるよ」

「ジョゼ様、ジェイムズ様……ありがとうございます!」


 ジョゼとジェイムズの優しさに、じーん、とアリシアが感動していると、そこへひょいっとミアキスがやって来た。


「ただいまー! アマイモの蒸しパン美味しかったよー!」


 そしてほくほくした顔でそんな事を報告してくれた。

 どうやらミアキスはアマイモの料理がいたく気に入ったようで、ダンヴィル領へやって来る度に飛び回っては食べているらしい。

 気に入ってくれて何よりだと思っていると、ミアキスはアリシアの肩に座った。ふんわりとアマイモ料理の甘い香りがミアキスから漂ってくる。


「それで何か難しい顔しているけど、どうしたの? 何かあったの?」

「実は……」


 首を傾げたミアキスに、アリシアは今の話をした。

 ふんふん、と相槌を打っていたミアキスは、話を聞き終えると「なるほどねー!」と腕を組んだ。

 

「それならさ、それならさ! あたしに良いアイデアがあるよ! ばっちりだよ!」

「良いアイデア? ミアキス、何か変な事ではありませんよね?」

「んふふ! 大丈夫大丈夫! でもクロードとアリシアにちょーっとやってもらう事があるけれど!」

「やってもらう事? 何ですかミアキスちゃん?」

「当日までひ・み・つ! よーし、王様に相談しなくっちゃ!」


 おや、と思って聞いてみると、ミアキスからウィンクで内緒にされてしまった。気になる。

 しかもアルベリヒの名前まで出てきたのだ。クロードが「何だか嫌な予感がします……」と呟いている。

 何をしようとしているのかは分からないが、まぁ、妖精(ミアキス)の考える事だ。悪い話ではないのだろう。

 ほんのり不安を感じつつ、アリシアはカレンダーを見上げる。妖精の宴は一週間後。出来れば悪い事は起きませんように。

 アリシアはそう祈りながらティーカップを持ち上げて、紅茶を一口飲んだのだった。

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