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造花令嬢の婚約  作者: 石動なつめ
第五章 造花令嬢と妖精の祝福
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それではお話しましょうね


「アリシアさん、リュカ君! 外まで声が聞こえていましたが、大丈夫ですかっ?」

「大丈夫!? 大丈夫!? 嫌な感じがすっごくしたよー!」


 二人は心配そうな顔でそう言いながら、ブリギット達の横を通り抜けてアリシア達の方へ駆け寄って来る。


「クロード様、ミアキスちゃん!」

「すみません、騒がしくて……」

「いえ、二人が無事ならそれで良いのです。……これは何の騒ぎですか?」

「実は……」


 心配そうなクロードに、アリシアとリュカが説明していると。

 ブリギットが先ほどまでの怒りの表情を消して、ポカンとした顔でこちらを見ている事に気が付いた。

 急に静かになったブリギットは両手で口を押さえ、


「…………素敵」


 なんて呟いた。その目は真っ直ぐにクロードを見つめている。

 頬も先ほどとは違う意味で赤く染まっている。

 ブリギットはアリシア達が話しているのにも関わらず「クロード様!」と大きな声で呼びかけた。

 クロードはぴくりと片方の眉を上げて、若干不快そうな顔で振り向く。


「……何か?」

「あの! わたくし、エヴァン領のブリギット・エヴァンと申します!」

「はあ、存じておりますが……」

「まあっクロード様にそう言っていただけて嬉しいですわ! あの、良かったら、この後少しお話でも……」

「しません」

「そんな事仰らないでっ。わたくし、あなたの事……とても好きになってしまったんですの!」

「そうですか、迷惑ですのでやめてください」

「つれないところも素敵ですわ!」

「…………」


 すげなく対応しているのにブリギットは諦めない。

 クロードは頭の痛そうな顔になってきた。ミアキスも「話を聞きなさいよー!」と怒っている。

 二人の姿を見てアリシアはハッとした。クロードは自分が守ると決意したではないか。

 今がその時だと思ったアリシアは、クロードの前に立ってブリギットの視線を遮る。とたんにブリギットは目を吊り上げた。


「邪魔ですわよ、アリシアさん!」

「邪魔で結構です。クロード様は私の、アリシア・ダンヴィルの婚約者です。失礼な事をなさらないでください」

「な……!?」


 アリシアがそう言うと、ブリギットは驚愕に目を見開く。

 クロードも頷いて「そうです」と言うと、アリシアの隣に立って肩をそっと抱き寄せた。


「私はアリシアさんの婚約者です。国王陛下へご報告をし、お祝いの言葉もいただいております。あなたの言葉は迷惑です。やめてください」

「そ、そんな……アリシアさんとなんて……」


 どうもアリシアと婚約している方がショックが大きいらしい。

 昔からこうだったなぁとアリシアは遠い目になった。


「それにあなた、マクリル領のロイス君と婚約をしているでしょう? その状態で、異性に声をかけるのはどうかと思いますよ」

「いやだ、クロード様ったら。犯罪者と婚約なんて続けるわけがないでしょう? とっくに解消しておりますのよっ」

「……は?」


 吐き捨てるようなブリギットの言葉に、クロードの目に剣呑な光が宿る。その物言いはさすがに許容範囲を超えたらしい。

 それはアリシアとリュカ、ミアキスもだった。

 集まった情報や、各々の心情的にも四人はマクリル領寄りだ。

 ブリギットはその事を知らないだろうし、そもそも過去の事件についても本気でそう思っている可能性はある。

 けれども。そうだとしても。婚約解消は喜ばしいが、それはそれとして、自分から望んで手に入れた婚約者に対して、あまりに酷い言い様ではないか。

 四人の怒りにブリギットは気付かないが、彼女の従者ダレルは違ったようだ。

 旗色が悪い事を察知して「お嬢様、今日のところは……」と声をかけている。しかしブリギットは「うるさいですわ!」と振り払うと、


「ねぇクロード様。ですからね、わたくし、今婚約者がいませんの。わたくしならクロード様の事を、アリシアさんよりずっと理解して、大切に愛する事が出来ますわ。ですから……」


 なんて擦り寄ってこようとする。

 クロードが嫌悪感を露にした瞬間、ミアキスの怒りが爆発した。


「もー! あったまきたー! あんた達、ぜったいにクロードに近づかないで! アリシアとリュカにもだよ!」


 きーっ、と怒りながら、ミアキスは腕を振り上げる。

 すると彼女を中心に激しい風が吹き出した。その風はアリシア達には一切の影響がない。受けているのはブリギットとダリルだけだ。

 強風にあおられた二人はそのまま屋敷の外へ、外へと押し出されて行く。


「やだっ!? 何ですの、これっ!?」

「うわっ!?」


 悲鳴を上げる二人。ドンッ、とエントランスを出た辺りで、立っていられなくなったのか尻餅をついた。

 その時、ダレルの顔から色付きの眼鏡が落下する。


「――――あ!」


 見えた顔に、アリシアとクロード、そしてミアキスが反応した。

 髪の色こそ違うものの、ミアキスが書いた似顔絵の人間とそっくりだったからだ。


「ミアキス、そのまま逃がさないでください!」

「分かった! まかせて!」

「アリシアさん!」

「はい!」 


 アリシアとクロードはダレルに飛び掛かった。

 急に矛先が向いたダレルはぎょっとして避けようとしたが、ミアキスの『風』で邪魔されて上手く動けない。

 そうしている間にアリシアとクロードはダレルの服の襟を手で掴んだ。

 ブリギットだけは「な、何故注目するのがわたくしではなく、ダレルですの!?」と軽くショックを受けていたが、そんな事おかまいなしだ。

 アリシアとクロードは「せーの!」と掛け声でダレルの襟を力任せに左右に引っ張る。するとボタンがはじけ飛び、胸元が開けた。


 そこには蝶のタトゥーが刻まれていた。


「いたー!」

「見つけた!」


 喜色を顔に浮かべ、アリシアとクロードはダレルの腕を逃がすまいと掴む。

 事情を知らない者からすれば異様な光景に、さすがのブリギットも引いていた。


「え……何……怖……」

「ブリギット様にだけは言われたくありませんよ。リュカ、父様達に直ぐに連絡をお願い!」


 それだけはしっかりツッコミを入れつつ、アリシアはリュカに頼む。

 弟が「まかせて!」と走り出す中、アリシアとクロードは再度ダレルに目を向けた。

 にこり、と笑顔を向けて見せる。


「それではちょっとお話を聞かせてもらいましょうか」

「は、話……?」

「三年前。マクリル領。証言」

「――――」


 単語のみ伝えると、ダレルの顔色がみるみる悪くなって行く。

 ひくっと顔を引きつらせる彼に、追い打ちをかけるようにクロードが、


「妖精から、当時嘘の証言をしたらしい人物の似顔絵をいただいていましてね。それがあなたにそっくりだったのです」

「よ、妖精……」

「そうです、妖精です。妖精の記憶力って私達よりずっと良いのだそうですよっ!」


 だから、とアリシアは続け、そこで一拍区切って。


「それじゃあお話、しましょうね!」


 アリシアとクロードは声を揃えて、今度は笑顔を消してそう言った。

 その隣では相変わらず転んだままのブリギットが、


「え……何……怖……」


 なんて再び同じ事を呟いていたのだった。


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