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造花令嬢の婚約  作者: 石動なつめ
第四話 造花令嬢と失われた信頼
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ダンヴィル領の隣の領地

 澄み渡る空に妖精が飛んでいる。

 その様子をリビングルームの窓越しに見上げた後、アリシアは新聞を開いた。

 そこには大きな見出しで


『ダンヴィル領に妖精戻る』


 と書かれている。

 その一文を読んで、アリシアはその時の事を思い出し、ふふ、と微笑んだ。


 ダンヴィル領に妖精達が帰ってきてから一週間。この話題はマルカート王国中を賑わせていた。

 妖精の里帰りで、王族が謝罪をしても怖がったまま何の音沙汰もなかった妖精達が、三年ぶりにダンヴィル領に帰ってきたのである。

 両隣の領地の悪事で巻き込まれたダンヴィル領の事を知っている者は、良かったなぁと安堵し。

 逆に両隣の領地と同じく悪事をしたと思い込んでいた者達は、どうしてダンヴィル領だけと訝しみ。

 向けられた感情は色々あるが、その事を知った者達は様々な憶測を立てていた。


(クロード様とミアキスちゃんのおかげなんですけどねぇ)


 妖精達が帰って来てくれたきっかけは、クロードとミアキスが作ってくれた。

 アリシアの中に妖精がいる事をミアキスが気付き、クロードの助言で妖精木として育て始めたら、妖精の王アルベリヒがやって来た。

 アルベリヒが妖精達に「大丈夫だ」と伝えてくれてから、クロードがダンヴィル領のアマイモでお菓子を作りミアキスが届けてくれた事で、妖精達に勇気と里心がついた。

 そのおかげで妖精達はまたダンヴィル領に帰って来てくれたのだ。クロードとミアキスには感謝してもし足りない。


 そんな二人と一緒に、妖精達が戻って来た日はダンヴィル領を挙げて『お帰りなさいパーティー』を開いた。

 パーティーで出したメイン料理は、もちろんアマイモだ。

 アマイモのパンケーキに、スイートアマイモ、アマイモプリン、アマイモスープ。全体的に甘い物ばかりになってしまったが、妖精達には大好評だった。

 

 そうして夜通しでお祝いをした後。日が昇って直ぐにアリシアの両親は王都へと向かって出発した。

 国王カポックにこの事を報告するためである。

 妖精の里帰りで領地が窮地に陥っていた時、国はダンヴィル領に補助金を出してくれた。報告するのは当然の義務である。

 何より巻き添えで妖精達が里帰りをしてしまった時から、カポック王はずっと心配してくれていたらしい。

 数日後、カポック王と謁見を終えて戻って来た両親は、大層喜んでくれていたと話してくれた。


 そんなわけで、まだ完全ではないけれど、ダンヴィル領の活気はだんだんと戻って来ている。

 この調子ならあと二年ほどで、以前のようにダンヴィル領の領民達に安定した生活を送ってもらう事が出来るだろう。

 よし、と思いながらアリシアは新聞を閉じると椅子から立ち上がり、作業部屋を目指して歩き出した。

 もちろん造花を作るためだ。

 まだまだこれから。そのためにお金はいる。それだけではなく、今後同じ事があった時のために蓄えだって必要だ。

 なのでアリシアは妖精達が戻って来ても、しっかりお金を稼ぐつもりでいる。


「今は髪飾りが多いけれど、そろそろ違う装飾品での用途も考えたいな。あと装飾品以外でも何か……例えばこう、ペンの飾りとか……」


 そんな事を考えながら、アリシアは廊下へ出る。

 すると、


「お願いです、お話だけでもさせてください!」


 と、大きな声が聞こえて来た。玄関の方からだ。

 何やら必死な雰囲気も伺える。来客予定もなかったし何だろうかと気になって、そちらへ足を運んでみると、アリシアと同い年くらいの黒髪の少女がリュカと向かい合っていた。

 アリシアには見覚えがあった。ダンヴィル領の右にあるマクリル領・領主の二番目の子供だ。

 名前はジョゼ・マクリル。短めの黒髪に空色の瞳、顔立ちから勝ち気そうな印象を受けるが、その性格は至って真面目で物静かだ。

 アリシアはジョゼと同い年という事もあってそれなりに交流があったが、妖精の里帰りに絡んだ一件ですっかり疎遠となってしまっていた。


「両親も出かけておりますし、お約束がないと……」

「無理を承知でお願いします! どうか……!」


 必死に言い募るジョゼにリュカは困った顔になっていた。

 理由としてはジョゼ自身は妖精の里帰りの原因となった事件には、一切関係していなかったからである。

 あの当時、ジョゼはマルカート王立学園の学生で、王都で寮生活をしていた。犯罪に関わる時間や、それを知って止める時間もなかったのだ。

 だからマクリル領の領主一族のほとんどが処罰を受けた中で、彼女だけは何の罪にも問われていない。


 ――が、問われてないだけで、世間からは同じ目で見られる。

 相当苦労していたのだろうという事はアリシアにも分かるが、ダンヴィル領を立て直すために必死で、彼女の事を気に掛ける余裕なんてなかったのだ。

 最後にやり取りをしたのは妖精の里帰りの件での謝罪の場だ。それ以降は手紙のやり取りもほぼ無い。ジョゼとしても、ダンヴィル領の心情的にあまり関わっては迷惑をかけるだけだと判断したのだろう。


 あの事件の後、ダンヴィル領は大変だった。けれどそれはマクリル領も同じだ。

 恐らく彼女がここへ来たのは妖精達が戻って来た理由を聞くためだろう。

 アリシアは悪事に関わったマクリル領やもう一つの領主の領主一族に対しては、複雑な気持ちはある。

 けれども以前は交流があって、そして犯罪に手を出していないジョゼに対しては別だ。簡単に切り捨てる事は出来ない。

 なので、


「リュカ、大丈夫よ。私が話を聞くわ」


 アリシアはそう声をかけた。リュカとジョゼの視線が集まる。


「姉様、良いの?」

「ええ。ジョゼ様、お久しぶりです」

「アリシア様……ご無沙汰しております」


 ジョゼは強張った顔をしていたものの、アリシアの言葉に少しだけ緊張が和らいだようだった。


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